戸惑いといたたまれなさを行ったり来たり
光の渦に飲み込まれた俺は唐突に襲いかかる目眩と吐き気に翻弄されていた。
「うぉげええええ!!ぎぃもぉぢぃうぁるぅいいいい!!」
ぎゃあ!舌噛んだっ!痛いのも追加だ、なんなんだ!何が起こってるんだ⁈
この歳にもなって半泣き状態だが、誰だってこんなわけわからん状態になったら大の大人でも泣くだろ!
ってかこんなこと考えられてる俺はもしかして冷静なのか?スゴイな俺!!
宙に浮かび手足をバタつかせて周りを必死に見渡してると、不意に重力が戻ったかのように一定方向へと急落下して行く。
「にょえええええええええええ!!!!!」
さっき噛んだ舌のせいか変な叫び声を上げてしまったがそんなの気にしていられない。
物凄いスピードで底が知れない落下が続いた。死ぬ。ぜっったいこのままじゃ死ぬ!!グロテスクな自分の姿が浮かびもう本気泣き状態の俺。
「ひぃいいいいいい!!誰か!助けて!!何でもいいからなんかないのか!?このまま死ぬのなんか嫌だっ!!!!」
いつ来るかわからない衝撃に瞼をギュッと強く瞑り、身体を丸めて固くする。
ピタッ
落下がなんの前触れもなく急に止まり、脳みそと内臓が揺さぶられる感覚に先程よりも酷い吐き気が襲いかかる。
途端、周りから激しい金属音と爆発音が聞こえびっくりして目を開けた。
そこに繰り広げられていたのは何十人ともいえる人たちの争いだった。全身白い服を着た大勢の人たちに対し、剣を持ち、相手に切りかかっている人や、自分の身体よりもでかいトンカチみたいな武器を振り回している人。杖をもちそこから電撃を放っている人。素手で殴りかかっている人。
いろんな人たちがいた。
その光景は俺に先程の吐き気と目眩を一瞬だが忘れさせた。
が、再び胃から込み上げるものが我慢できずその場で吐き出す。
「げぇえええええっ、ううーっ!」
下を向き吐いていると、ずしゃああああっと目の前に滑り込んでくる足元が見えた。
あ、革靴。父さんが通勤で履いてるのと似てる。なんて思って見上げたら、そこにはこの場に似つかわしくない紛れもない眼鏡サラリーマンがいた。
「召還酔いか!立てるか?!」
戸惑い、返事のできない俺を何処にそんな力があるのか肩に担ぎ上げる。俵担ぎというやつだな。
「保護対象確保!とりあえずこの場から離れるぞ!!」
そう言うと眼鏡サラリーマンは俺を担いだまま襲ってくる白い服を着た人たちを素早く交わし、さっき見た杖を持ってる人の所へとたどり着く。すると白い服を着た人たちに取り囲まれるように他の争っていた人たちが側にいた。
眼鏡サラリーマンは俺の担いでない方の手で眼鏡を中指で鼻の部分のフレームを持ち上げて言った。
「貴様らの思惑通りに進むと思うなよ、犯罪者共」
その声は恐ろしく低く、相手を簡単に威圧できてしまうだろう声だった。
「じゃ、そういうことで【サイナラ】」
杖を持った人が杖についた鈴を鳴らすと俺たちの周りに風の渦が出来上がる。
風圧に俺が目を閉じ再び開けるとそこは先程の場所と全く違っていた。
「ーーコ コ ド コ ?」
目の前には大きな洞窟の入り口がポッカリとあいている。さっきの白い服を着た人たちどこいったんだ?
もうなにがなんだか怒涛のごとく起こった出来事に頭がついていけない。誰だ俺の事冷静だって言ったやつ。あ、俺か。
ってもうダメださっきから気持ち悪いのに俵担ぎのせいて胃が圧迫されて余計に気持ち悪いわ。
俺は眼鏡サラリーマンの肩を叩いて下ろしてもらうように頼んだ。
「ああ、すまん。苦しかったか?この方が運びやすかったんだ。悪かったな」
眼鏡サラリーマンは俺を降ろすとポンポンと優しい手つきで頭を撫でた。
なんでか急に目頭が熱くなって来た。
怒涛の展開についていけず、緊張と不安の連続大安売りの中、急に優しくされたから、言ってることは荷物扱いだったけど、なんか安心して泣けてきた。
俺は慌てて目を袖で拭うとそっとその手を握られた。
あ、デッカいトンカチのおっちゃんだ。
「目をこすると傷が付く。目の周りも腫れるからこれで拭きな」
もう、こんなデッカいガタイで厳つそうな顔付きしてんのになんでそんなに優しいんだよ、反則だろ!もう涙腺決壊だよ。
俺はその場にしゃがみ込みトンカチの、おっちゃんに渡された布を握りしめて大いに泣いた。泣きながら、「怖かった」「前触れなく絶叫系乗せられたら誰でも泣く」「もう吐くもんないのにまだ気持ち悪い」「ここはいったい何処なんだーー!!」としゃがみ込みんだままただただ同じ事を繰り返し叫んでた。
その間中周りで交互に頭撫でたり、背中をさすってくれたり「そうだな」って頷いてくれたり。ずっと俺が落ち着くのをみんなが待ってくれていた。
はたっと、その事に気が付きいた。
いくつの子供だよ俺はっ。恥ずい、ヤバイ。顔上げれん。
静かになった俺をまたポンポンと優しく撫でる手に「あ、眼鏡サラリーマンだこれ」と、顔を伏せたまま気付くと
「落ち着いたのなら行くぞ」
もうなんだ、恥ずかしさで顔も上げずに頷いたら眼鏡サラリーマンに笑われた。
チクショー普段の俺はこんなんじゃないんだぞ!
まだふらつく俺を、今度はトンカチのおっちゃんがオンブしてくれた。
そして目の前にあった洞窟へと入り、暫く進むと暗かった洞窟の先に光が見える。
そこは洞窟の中に自然に出来た広い空間で、中央に石で出来た建物がある。
そして、洞窟の壁には所々穴があり、そこから人の姿が見え隠れしている。
中央の建物の周りにある石や、洞窟の壁の一部が光っている。この光のおかげで暗いはずの洞窟内が昼のように明るいんだな。
「保護対象者確保!!みんなありがとう!」
眼鏡サラリーマンが洞窟内に響き渡るように声を張って告げた。
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
そこら中から大音量の雄叫びが上がった。
ビクゥッと身体を強張らせたおれにトンカチのおっちゃんは優しく笑い、
「大丈夫だ、みんなお前さんの味方だよ」
と言ってお尻を支えてる手でペシペシと尻を叩く。
もはやもう幼児扱いだ。いたたまれなさ極まれりだな。
「おっちゃんもう大丈夫だから降ろしてくれ!」
俺は火照った顔を自覚しながらもおっちゃんの背中から顔を剥がして降ろすように催促する。
「はいはい、あはははっ!」
おっちゃんは降ろした俺に顔を向けた途端笑い出した。
「なんだよ!」
「いや、すまんな坊主悪かった」
分かっているよってな目で俺を見ながら頭撫でんのやめて下さい…。
真矢くん複雑な心境。