紅く熱い歌声
あなたの歌声は焔のようだ。熱く紅く、激情がその美しい歌声には満ちている。
私はあなたの歌を導く為ピアノを奏でながら思う。恋の歌しか歌わないあなたの、火のような熱い紅い想いを受け続けるのは誰なのか、と。
けれど私はそれを直に尋ねられない。いち歌い手、いち伴奏者であり、親友とはまだいえない友人同士の間柄である自分達の関係を壊したくないからだ。私達の関係は始まったばかりで、内面をほじくり返すほどに砕けた仲ではなかった。
私はあなたの歌に引き込まれ、あなたは思う存分歌う為に伴奏者を欲していた。幸運なことに私はそれなりにピアノが弾けた。だから放課後に音楽室を借り、思う存分彼女に歌って貰う。それだけの細い糸だ。扱いを間違えるとすぐにぶつりと切れてしまう。
臆病と笑われても仕方ないだろう。しかし臆病にならざるを得ないほどに、私は彼女の歌に聞き惚れ、また彼女自身に惹かれていた。
初めて見た時の夕焼けの橙に染まり、アカペラで甘く伸びやかに歌う彼女は、私を一瞬で恋に突き落とすほどに美しかった。それが彼女を認識し始めた時であり、またこの関係を築く始まりだった。
「あなた、ピアノ弾けない?」
あなたは歌を止めると私に尋ねた。その一言が無ければ、彼女と私の関係は築かれはしなかっただろう。
ふと、彼女の歌声が止んだ。私はだらだらと終わらない思考を止め、伴奏の手を止める。彼女の指が、鍵盤を弾いていた私の手をなぞった。
「何か別の事を、考えていたでしょう」
含んで笑う、彼女の瞳は全てを見透かしているようで、私はかあっと全身が熱くなるのを感じた。そんなわけはないと言い聞かせ「そう見えた?」と、とぼけた返事をする。
彼女の指が、手を登り頬へ辿り着く。私の心臓は壊れそうなほどに速くなり、ただ頬の赤さを隠してくれと夕日に祈る。
「お願い。弾いている間は、歌の事だけ考えて」
それは私にとって、愛の告白にも等しい言葉だった。速く動き過ぎて壊れそうな心臓を笑みでなんとか隠し、「分かったよ」と一言だけ告げる。
そして私はまた伴奏を再開した。少しだけ彼女は私を見つめ、満足するとまた私を捕えて離さない歌声をさくら色の唇から奏でる。
歌声を聴き、伴奏を弾きながら、私は思う。
たとえ焔の先がどこを向いていようとも、私もあなたへの想いをこの指から奏でよう。あなたほどに熱く、紅くは表現出来ないだろうけれど。
せめて私を染める夕焼けくらいには、あなたに見えるように、感じて貰えるように。
まだ私達は親友にもなっていないのだ。
お読み頂きありがとうございました。




