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次元漂流の暗殺者  作者: CHINTA
一章
5/8

1-4(1/2)

 まずは敵の少ない西側から攻め込む。盗賊共を行きがけに排除しておいたので、発見されにくい。

 草むらと遮蔽物を利用しながら、俺は盗賊の警戒域に潜入した。

 夜に奇襲を掛けてきたということは相当夜戦に長けていると推測できる。事実、村はすでに奴らの支配下にある。

 視認できる巡回中の盗賊は、四人。その他数名は民家に侵入したと思われる。俺の言えた義理ではないが、獣の毛皮で編んだ服は丸きりセンスを感じない。

 外の奴らのほとんどが松明を所持しているため暗視ゴーグルは使用しなくていい。その代わり、二人一組で動いている。狙うとしたら二人同時、若しくは一人ずつおびき寄せるのが定石だ。

 俺は超指向性盗聴器で屋内の状況を調べた。


『やだ……やめて』


『へへっ、二人っきりだ。助けはこねえぞ』


 二階の一角で澄んだ女の声と野太い男の声――前者は村の人間で後者は盗賊で確定だろう。しかも屋内にはこの二人しかいないようだ。


「お取り込み中か。俺も混ぜてもらとしよう」


 俺はすぐさま家の裏手に回り込み、壁をよじ登る。この世界の木造建築は所々に出っ張った部分があり、屋上まで行き着くのはさほど難しくない。

 標的がいるのは寝室だ。このまま突入してもいいが、仕留め損なうと仲間を呼ばれる危険がある。


「……あん?」


 俺は窓際を軽く叩き、男の注意を引いた。


「んだよ、いいとこだってのに」


 誘うのは裏手だ。仲間に小石か何かをぶつけられ、呼び出されていると思うだろう。統率の取れた組織なら釣れる。


「おう、何だ」


 男の頭が真下から乗り出してきた。

 半信半疑だったが、盗賊といっても急な対処には駆けつけるようだ。殊勝な心がけに痛み入る。その御礼に、俺はサプレッサー付きのハッシュパピーで脳髄を撃ち抜いてやった。

 男は言葉を発さずに屋内で倒れていく。男の首が引っ込んだところで俺も窓からお邪魔した。


「こ、こないで! いや!」


 中に入ると、衣服を破られた半裸の少女が一人。過剰な怖がりようからして間一髪の状況だったようだ。解かれた白銀の髪が惨状を物語っているかのようだった。

 俺は手を上げて敵意がないことを示す。


「安心しろ。味方だ」


 この際銃は見られてもいい。今は新たな厄介事を作らないことに重きを置くべきだ。


「味方……」


「そうだ。村をこいつらの手から解放する」


 代わりに俺が支配するわけだが。


「お前、名前は?」


「ミ……ミリア」


「よく聞け、ミリア。お前の助けがいるんだ、協力してくれ」


 べつに本気で協力を求めているのではない。この女が勝手に動き回ると俺の計画に支障を来す。そのための配慮だ。


「いいか、俺が窓から出たら三〇秒後にお前も外へ出ろ。玄関からな」


「えっ!?」


「心配するな。奴らの注意を引かせてくれれば、あとは俺が始末する。やってくれるな?」


 ミリアは泣くのを我慢しつつ、気丈に頷いた。

 強い女で良かった。駄々をこねるようなら、屍の囮人形になっていたところだ。


「よし、玄関で待機してろ」


「は、はい!」


 俺は窓から出ると、今度は大回りして反対側の家へと向かう。先ほど屋上へ登った際、向かいの屋根にボーガンを装備した盗賊が見えた。外の盗賊はそいつから始末する。

 木の合間を伝いながら太い枝へと移り、屋根から屋根へと、一気に標的との距離を縮める。背後は無防備――俺は忍び足で近づくと、標的の口を塞ぎながら、ダガーで首筋を裂いた。

 打ち合わせ通り、この時機でミリアが登場する。辺りの盗賊は目が釘付けだ。


「おいおいズーガはどうした?」


「さあな、タマでも蹴られたんじゃねえか」


 下にいる一組は丁度良い位置にいるが、少し離れたもう一組は少々厄介だ。一人はミリアのほうへ向かい、片割れは呆れた顔で周囲を見回している。

 ミリアに二人とも掛かってくれれば手間取らずに済んだが、やむを得ない。俺は爆竹に火をつけて、熱心に周囲を警戒している奴の近辺へ投げ込んだ。その後、俺はもう一本のダガーを取り出す。


「どわっ!?」


 唐突な破裂音に、片割れの盗賊は思わず後ろを向いた。

 下のペアも音に気が付いたようだが、その瞬間、俺のダガーは彼らの咽喉を貫く。落下の衝撃は二人が吸収し、俺は二階分の高さを平気で飛び降りることができた。けれどもまだ終わりではない。俺はすぐに、ミリアのところへ走り出す。


「こないでください! こ、このケ、ケダモノ!」


「痛いのは嫌だろ、俺だってそうだ。大人しくしてりゃ――」


 すると、震えていたミリアは安堵の息を漏らし、足下から崩れていく。


「が……あっ!」


 同時に誘い出された獲物は、昇天する勢いで背筋を伸ばした。最後の夜空を見上げながら。


「これでもう痛みは感じない。良かったな」


 正確に脊髄を狙えば痛みも想像を絶するだろう。幕切れには最高の『痛み』だ。

 仕上げは爆竹に気を取られた間抜け一人。俺はダガーを仕舞い、二〇メートルほど離れたところから、ハッシュパピーで頭をぶち抜いた。


「――ふぅ」


 俺はミリアに手を差し伸べる。

 一段落はついた。しかし爆竹の音は範囲が広い。また何人かがこちらに向かってくるかもしれない。


「ありがとう、ございます」


 ミリアも大分落ち着いてきた。普段なら死体を見てパニックを起こす者が多い。

 なるほど――死体は見慣れている、ということか。これはまた物騒な世界に来てしまったようだ。

 俺はミリアを起こし、そのまま進むべき場所へ押し込んだ。


「あそこの丘に向かえ。安全地帯だ」


「そ、そんな……いやです! あなたの側にいさせてください!」


 時々俺は女という生き物が分からなくなる。囮を請け負うだけの度量を持ちながら一人になりたくないとは、思考が理解できない。


「お前は足手まといだ。他の奴らが来る前にとっとと失せろ!」


 俺が冷たく引き離すと、ミリアは歯痒い表情で後ろへ下がる。


「っ……わ、わかりました」


 これで承諾するなら聞き分けのいい方か。死地を経験した者は保身の依存度が高い。ミリアが年端もいかない子どもであったのが幸いした。と、思ったが――


「離れて、付いてきます」


「は? 馬鹿かお前は。盗賊共がまだいるんだぞ?」


「わ、私だって……そのお役に立て、ると思って」


「両親はどうした?」


「……」


 ミリアは唇を震わせ、次第に、涙を零す。

 ――いや、もういい。こいつがどうなったって知ったことじゃない。泣きたいならずっと泣いてろ。


「――じゃあな」


 俺が去ろうとすると、ミリアは悲しみに堪えながら声を張る。


「あそこは……猛獣や毒虫がたくさん生息してるんです。そんなところに一人で行けって言うんですか」


「ああそうだ。毒に侵されて死ね。あいつらに犯されるよりはマシだろ」


 俺はミリアを無視して歩き出す。だが、ミリアは断固として俺から離れようとしない。口で言ってどうしようもないなら、こっちもいよいよ本領発揮といかせてもらう。


「いい加減にしねえと、俺にも考えが――」


 考えがあったが、どうやらそれはミリアにではなく、野蛮人の集団に思い知らせたほうがよさそうだ。


 世紀末の雄叫びが、近づいてくる。


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