006「決闘の後始末、初の依頼」
4/19:「武器スキル」を「武術スキル」に訂正しました。
戻った酒場の席で、決闘の処理をする。
その席でニーベルが暴れたり、それを押さえつけるのに酒場に迷惑がかかったり、まあ色々と面倒なのでこの話は割愛。結果だけを記しておく。
まず、ニーベルについて。
彼は私の奴隷となったけど、酒場に迷惑をかけた償いと、私が「いらない」って言ったことからギルドが買い取ることになった。金額はまた連絡をくれるらしい。Cランク冒険者であるニーベルは、相場通りに売れれば銀貨二〜三十枚程度にはなるそうだ。
仮定なのは、ニーベルの素行が悪すぎて評判が悪いせいらしい。
で、次は私のランクについて。
本来、新人はGランクからが普通だけど、決闘で瞬殺したニーベルがCランクだったことから、Dランクから始める事になった。Cじゃないのは、私が魔物相手の戦闘をした事がないのと、初日に分かった「不意の事態」への弱さからだ。
初めてこの世界に来た時、私はカミサマのペットのオオカミに対して無様な姿を見せた。
でも、たとえ武器がなくても、オオカミ程度なら冷静に対処すれば逃げるくらいはできたはずなのだ。それはひとえに、「試合」以外の戦闘行為に慣れていない事にある。喧嘩だってした事がないのだ。
だが、依頼で外に出れば夜襲だってあり得る。盗賊もいる。トレインをなすりつけてくる奴もいるかもしれない。常に全力が出し切れる状況だとは限らないのだ。
そんな事態に対処できる自信がないのにCランクは過剰だ。
そして最後に、何故かカミサマと私がパーティを組む事になった。
まあ、カミサマも身体能力は私ほどじゃないけど、代わりに武術スキルレベル10を持ってるらしく、全ての武器の扱いが一級品らしいから良しとした。私が作った武器も使い手がいなくちゃ意味がないし。
一人じゃそんなにたくさんは使えないからね。
でも一振り造るのに五日以上かかるから、しばらくはカミサマの武器は量産品だ。
冒険者ギルドで決まったのはこのくらい。あと、色んな人に尊敬の目で見られたけど、やたら模擬戦を挑まれるのは勘弁願いたい。
いきなり決闘かましたりしたけど、別に私は戦闘狂ではないのだ。
◇◆◇
ギルド職員との決闘の処理が終わり、私たちは依頼を選んでいる。初めての依頼だ。
よくあるのは鑑定スキルを使って薬草取りで無双とかだけど、生憎私もカミサマも鑑定は持っていない。カミサマは見れば分かるらしいけど。
でもそれならば図鑑を持って行けばいい話だ。
だから、受けるのは討伐依頼だ。魔物との戦闘経験を積むのが目的だから、なるべく相手はザ・魔物といった相手がいい。
「これなんていいんじゃない? オークキングの討伐、Cランク。多数のオークを相手にする可能性があるので、対多戦闘を得意とする者に受けて欲しい、だってさ」
「私は対多戦闘なんてできないんだけど」
「ボクも無理かな。でも、弓なら五本くらいは同時に撃てるよ」
「…………」
なんだろう、驚いたら負けな気がする。
確かあの狩りゲー・モン○ンの弓が三本同時だった気がするけど、あれであり得ないって騒いでた記憶があるんだよね。それを軽々上回りやがったですよこのカミサマは。
「や、言っておくけど、ボクのスキルは時間停止空間で武神と修行して自力で手に入れたものだからね。女神との交渉のあとで頑張ったんだよ」
「どのくらいかけたの?」
「体感時間で二千年」
「……スケールが違いすぎて驚けないよ。ていうか女神との交渉より短いんだ」
「彼女は頑固だから」
「…………」
百万年かけてようやく頷きを返してくれる相手を「頑固だから」の一言で済ませる神経が分からない。
「まあいいや。カミサマがいいって言うなら大丈夫でしょ。この依頼受けよう」
「了解」
依頼を受付に持っていく。登録した時のお姉さんだ。
依頼書を見せると、驚いたように顔を見られた。
「……正気ですか?」
「そこはせめて『本気ですか?』にしてください」
「冗談を言える程度には正気のようですね」
「あなた実は毒舌ですよね」
ジト目で見つめると、受付のお姉さんは咳払いして口を開いた。
「失礼。あ、名乗ってませんでした。私はシリアと申します。以後お見知りおきを」
「うん、よろしく」
「よろしく〜」
私とカミサマが軽く挨拶する。名乗り合ったら友だちだと思うんだよね。
「よろしくお願いします。さて、依頼ですが。本気ですか?」
「言い直さなくても。本気だよ」
「何か問題があるのかな?」
カミサマがこてんと首を傾ける。
男がやってもキモいだけだからやめて欲しい。
「……オークキングとは、オークの群れの長ですから、オークキングを相手にするというのは必然的に群れ全体を相手にすることになります。ですから、対多戦闘が得意なもの、もしくは大人数のパーティで挑むのが普通なんですよ。二人だけで挑む相手ではありません」
「大丈夫、普通じゃないんで」
武術レベル10のカミサマが凄いこと言ってるけど、今回は私も同感だ。
ニーベルだっけ? あれでCランクなら、私は正面戦闘に限ればAランク近いと思う。修行相手の親方は、もっとずっと強かった。
「まあ、でしたら止めません。頑張ってください」
シリアさんは手元の書類に何かを書き込むと、印を押した依頼書を渡してくれた。
「これからすぐに出るんですか?」
「いや、ボクの装備を買ってからかな。いい武器屋があれば教えてよ」
そう言えば、カミサマの今の装備は私と同じ安物のレザーコートに鉄の剣だ。これではオークキング相手では心許ない。
シリアさんはホッとしたように息を吐くと、
「そのまま向かうのかと思っていたので、安心しました。幾ら何でも鉄の剣はないですよね。……武器屋でしたら、この向かいにあるリーリア武具店がオススメですよ。ギルド御用達なんです」
「ん、ありがと」
「行ってきます」
「いってらっしゃい。頑張ってください」
シリアさんが頭を下げて送り出してくれる。
ギルドを出て、教えられた武具店に入る。結構大きな店だった。
「いらっしゃい! 何をお探しですか?」
若い男性店員が出てきて、朗らかな口調でそう告げる。
「レザー系の防具と、弓かな」
「出来れば長弓で」
長弓って、また扱いの難しいものを選ぶな。短弓と違って連射が利かない上に撃つのに時間がかかる長弓は玄人好みの武器だ。少なくとも、初めての実戦で使うような武器ではないのだが。
「かしこまりました! まずは防具をご案内しますね」
店員について防具コーナーに向かう。
「ここにレザー系の防具が置いてあります。担当の者が奥におりますので、何かあればお声掛け下さい。あなたも見ていかれますか?」
「ボクは狙撃手だから防具はいいや。アリサちゃんが防いでくれるでしょ?」
ヘラヘラと笑うカミサマ。
「……盾役が一人欲しいなぁ。ま、今回は私が防ぐよ」
「よろしくね」
「はいはい」
「ということだから、ボクは防具はいらない」
目を白黒させている店員にカミサマが向き直ってそう言うと、店員はハッとしたように口を開いた。
「わ、分かりました。では、ご案内します」
「じゃあアリサちゃん、後で」
「ん」
そう返す私の目は、既に防具にロックオンされている。カミサマは苦笑いしながら奥へと消えていった。
さてこの店、さすがはギルド御用達。品揃えが半端じゃない。正面から見たときはそんなに大きく見えなかったけど、奥行きがあるらしい。並行して通る道と道の間には二軒の店が並ぶのが普通だけど、そのスペースをこの店だけで使っている。他の店と比べて倍の奥行きがあるのだ。
そして、その広さに比例する品揃えの豊富さである。レザー系の防具だけでも五十近い種類があった。
多分、ヒットアンドアウェイを繰り返せば袋叩きに遭うことはないだろうから、物理耐性は後回し。ホーミング性能のある魔法が怖い。だから、魔耐性を重視する。あと、刀術は速さが身の上である。軽さは最優先だ。
あとは……見た目かなっ。
可憐なる女戦士、とか言われてみたいよね?
厨二病とか言わないでっ。
……そして私は見つけた。
淡い桜色の下地に白で意匠をあしらったレザーコート。銀貨二十枚……二千万円!?
ヤバ。顎がカクンと落ちた。
でも欲しい。超欲しい。メチャクチャ欲しい。
前世の私じゃ、服に『着られる』レベルのセンスの良いコートだ。その上、説明を見れば魔耐性バツグンである。
「うぅう〜」
数分間頭を抱え、数十分唸り、数時間床を転げ回った。
実際に悩んでいたのは二十分位だが、体感時間でそのくらいのことをした。
そして。
「買うっ!」
即決! 買取である。
「私は今、億万長者だもんっ。このくらい良いもんっ」
コートを手に取りカウンターへ持っていった。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げる女性店員を背に、私は早速コートを着て防具コーナーを出た。嬉しさで鼻歌交じりである。
「ご機嫌だねぇ。コート、似合ってるよ」
「あ、カミサマ。えへへ、ありがと。……もう選んだの?」
「うん、良いのがあったからね」
そう言って見せられたのは、黒く染め抜かれた……違う。真っ黒な材質で作られた長弓だ。二メートルくらいある。
「コクタンの木の芯の部分を使って作った弓だよ。十人張りだって」
「十人張り!?」
弓の弦の強さは、弦を張るのに必要な人数で表される。十人張りとは即ち、十人がかりでないと弦が張れないほど硬いという意味だ。
参考までに言っておくと、三国志の英雄が使う弓が五人張りである。
「引けるの?」
「この通り」
グググ、と音を立てて弓が引かれる。カミサマが手を離すと、ブンッと音がして大気が震えた。
「後でこれに回路付与してよ。貫通上昇」
「……うん、分かった」
もうカミサマが一般人程度に力を抑えてるなんて信じない。
カミサマはカミサマだ。
オークとの戦いは次回です。