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005「冒険者ギルドでテンプレ」

1000PV突破!

読んでくださった皆さんに感謝です!

「……知らない天井だぁ」


 目が覚めて第一声がこれである。私もなかなか芸人根性があるのではないだろうか。


「まあ、ただの強がりなんだけどさ……」


 昨日、ひたすら泣き明かして、結局ほとんど寝ていない。鍛治の疲れも相まって、ベッドから起き上がる気力は欠片もなかった。

 でも、お腹も空いている。朝食の料金は前払いしてあるから、食べないのも勿体無い。お金はあるけど、やっぱり日本での感覚が抜けない私はご飯を頼んでおいて食べないなんてできなかった。


「ふぁあ……」


 のろのろと起き上がり、大きな欠伸を一つ。

 桶に貯めてあった水で顔を洗うと、少しだけ目が覚めた。

 顔を拭いて、水に映った人の顔を見る。

 途端、私は硬直した。


「え……だれ?」


 こんな美少女、私は知らない。

 水に映るその顔は、白い肌、クリッとした大きな瞳、血色の良い赤の唇と、女性なら誰もが羨むようなパーツを全て兼ね備えていた。肌なんて光り輝くようだ。髪の毛も細く、艶のある黒髪。


「え? え?」


 振り返るが当然、誰もいない。

 じゃあこれって私? でも私は不細工とした言われたことなくて、百人が百人「可愛くない」って言うような顔してるのに。

 だから私と仲良くしてくれたのってユリカくらいで。

 だから、ええと、なんで?


『丈夫な体とついでだから可愛い外見・・・・・を提供してあげよう』


 ……そう言えば、そんなこと言ってたような。

 闇の中で言われたカミサマの言葉が思い出される。

 鍛治のことばかり気になっていてすっかり忘れていたけど、カミサマは確かにそう言った。


「わ、凄いっ! マジ感謝! 嬉しーっ!」


 一度でいいから誰かに「可愛いね」って言われてみたかったんだ!

 それがこれなら絶対叶うよね!

 本当に感謝だよー!


「いやぁ、喜んでもらえたなら嬉しいね」

「うんうん、超嬉しい……ってぇえ!?」


 バッ、と背後を振り返る。

 そこには、あのニヤニヤ笑いの少年A……もとい、カミサマがいた。


「なんでここにいるの!? 女神との交渉は?」

「終わったよ。許可を取ったから、きみが魔王を倒せば転生させてくれるってさ」


 何でもないように言うカミサマ。

 けど、交渉を始めたのって昨日のはずだ。

 幾ら何でもあり得ない。


「早くない?」

「ふっふっふ。実は、時空神に頼んでね……」


 カミサマが悪い笑顔で笑っている。

 どうやら、時空神と結託して女神を罠に嵌め、時間の経過しない世界で延々と頼み込んでらしい。


「体感時間で百万年くらいかかったかな。あー疲れた」

「百万年っ!?」

「で、ボクは仕事を部下に擦りつけてこっちに来たってわけ。納得した?」

「したけど……いいの?」


 カミサマって自由だなぁ。

 奔放な上司を持つと部下が苦しむってこういうことだね。

 どこの世界でも変わらない。


「あ、ボクのことはコスモスって呼んでよ。輪廻転生と調和の神コスモス。それがボクの名前」

「はぁっ!?」


 超有名なカミサマだし。


「そうだよ、偉いんだよ? ちゃんと敬ってね?」

「あ、もういいです。結局カミサマはカミサマなんですね」

「冷たい視線で見るのはやめて欲しいな」


 一瞬で尊敬の念は消えた。塵芥も残さずに消え去った。


「ま、これからボクもきみの旅に同行するからよろしくね。とりあえずご飯食べよ〜」

「あ、うん。そうだね」


 私たちは二人で下に降りていった。

 ……それが不味かった。


「昨夜はお楽しみで?」

「……(イラッ)」


 カミサマは女将さんに、私の部屋で泊まる旨を前日に伝えていたらしい。その後私が起きるのを神界で待っていたらしいのだが……お陰で大変な勘違いをされていたのだ。

 生暖かい視線が痛かった、とだけ言っておく。



 ◇◆◇



 誤解の解けぬまま宿を出て、まずは冒険者ギルドに向かう。依頼者だと思われるのを防ぐため、安物のレザーコートと複写した『亜利沙』手に、だ。鞘はカミサマが持って来てくれたから鞘ごと複写している。

 簡素な造りの柄に、黒塗りのシンプルな鞘。誰が見てもただの日本刀だ。目立つことはないと思う。

 このとき、私は忘れていた。

 ここは日本ではないのだという、単純な事実を。



 ◇◆◇



 ギルドは、大きな酒場を改築して造ったものらしかった。

 庶民的な二階建ての木造の建物で、かなり大きい。

 開け放たれた入り口から中に入ると、正面には三つの受付があり、右手に張り紙が所狭しと貼られた掲示板。左は広いスペースが取られていて、酒場をやっている。

 つまり、酒場を半分借りてギルドにしたのだろう。

 昼手前といったこの時間は、すでに多くの冒険者が依頼に出た後らしく、酒場でくつろぐ者、手続きのためにやって来た者くらいしかいない。受付もちょうど一つ空いていた。


「あの」

「こんにちは、ご依頼ですか?」


 受付のお姉さんに声をかける。同性の私でもハッとするくらいの美人だった。


「いえ、冒険者登録したいんです」

「あ、ボクも登録です」


 私たちがそう言うと、お姉さんは少しだけ眉をひそめた。


「冒険者としての仕事は、命の危険が伴うことも多いです。実際、年間の死亡率は5%を超えます。それでもですか?」

「はい」

「うん」

「……そうですか。分かりました。では、こちらに記入をお願いします」


 元々形式的なものなのだろう。お姉さんはまだ眉をひそめたままだけど、そのまま引き下がった。渡された用紙を手に取る。

 その用紙には、名前、年齢、特技を書き込めるようになっていた。


「……これだけですか?」

「登録しても、依頼を受けられる以上の特典はないので。私どもとしては、依頼が達成されれば構わないのです」

「なるほど」


 別にどこの馬の骨でも、実力があれば関係ないってことか。分かりやすくていいね。

 実力主義なら、依頼を達成してやれば女子どもだからって舐められることもないだろう。

 私は名前の欄に「アリサ」、年齢「15」、特技に「刀術」と書いてお姉さんに渡す。鍛治スキルは戦闘に関係ないから書かなくてもいいだろう。


「……失礼ですが、刀術とは?」

「え? この武器の扱いが得意って事だけど」


 腰に下げた刀を見せる。

 刀鍛冶たるもの、刀の扱いには精通していなければならない。私の親方の言葉だ。

 だから私も、刀の扱いに関しては初心者の域は超えている。

 とはいえ実戦経験は皆無だから、難易度は少しずつ上げていく必要はあるけれど。


「反りのある剣……。サーベルではないのですか?」

「サーベルと刀は違うよ」


 サーベルは洋刀とも呼ばれる、海外産の刀だ。しかし、基本的に鋳造で作られるため、その品質は刀とは比べ物にならない。

 似ているが、全くの別物である。


「そうなんですか?」


 この世界に刀は違うないんだろうか?


「まあ、戦う手段があるのなら構いません。では、これがギルドカードです。紛失した場合は再発行に銀貨一枚を頂きすので、失くさないように注意してください。その他の注意事項としては……」


 長々と説明をされたが、要約するとこういう事だ。


・依頼を半年以上受けなければ除名。

・ランクの一つ上までの依頼しか受けられない。初めのランクはGから。

・冒険者同士の争いにギルドは関与しない。ただし、武力行使をする場合は闘技場で行う事。

・闘技場での決闘に負けた場合、闘技場の使用料として銀貨二枚を払った上で冒険者間の取り決めに従う事。


 こんなところだ。異世界ものの小説となんら変わらない。

 普通にしてれば気にしなくてもいいだろう。

 お姉さんにお礼を言って、とりあえずはギルドを出ようとする。

 そのとき。


「おい嬢ちゃん、その珍しい武器の使い方、俺らに教えてくれねぇかなぁ? 替わりに、新人のギルドでの振る舞い方ってのを教えてやるよ」

「いえ結構です。では」


 うげ、でもテンプレだよね……。

 面倒くさそうだったからスルーしようとしたけど、やっぱりそうはいかなかった。


「ちょっと待てコラァ!」

「いたっ」


 絡んできた男の脇を通り抜けようとしたら、肩を掴んで引っ張られる。思わずたたらを踏んだ。


「先輩が色々おしえてやろぉって言ってんだ。ありがたく受け取っとけ!」

「…………」

「ぁあ!?」


 黙っていると、男は顔を近づけて凄んでくる。

 唾を飛ばすその男が、私の軽蔑する奴の姿に被る。違う世界に来てまで、あいつの事を思い出させるなんてーーーー


「……胸糞悪い」

「ぁあ?」

「闘技場、借りますね」


 私はそう、受付のお姉さんに言い放った。



 ◇◆◇



 あれよあれよと言う間に場所が闘技場に移され、私の目の前ではさっきの男が槍を構えて踏ん反り返っている。

 ギルド職員が仲介して、決闘の準備を進めていた。


「ええと、アリサさんですね。……本当にいいんですか?」


 気の弱そうな男性職員が私に確認してくれる。

 ……きっと心配してくれてるんだろう。私は新人で相手は経験者。実力もあるのだろう。

 でも、関係ない。今の私は機嫌が悪い。

 いきなり喧嘩を売ってきた相手を許すつもりはなかった。


「うん、大丈夫。サクッと潰してくるよ」


 なにも、勝算もなしに決闘を受けたわけじゃない。私が勝てると踏んでる理由は二つある。

 一つ目は、私が対人戦の経験があること。親方の指示で、真剣での打ち合いを何度かしたことがある。切られたことだってあるのだ。痛みや血に対する忌避感は薄い。まあ、命のやり取りは初めてなのだが。

 そして二つ目。これが最大の理由だが、相手の武器が鋳造品だということだ。

 あの男が持っている槍には、念入りに鍛えた鋼特有の輝きがない。おそらく、溶かして固めただけのものだ。対して私の『亜利沙』は、ただでさえ硬い緋緋色金を折り返し製法で鍛えたもの。鋳造品なんて軽く切り裂いてしまうだろう。

 戦いにおいて、武器は重大な要素だ。古代中国で、鉄の武器を持った軍と青銅の武器を持った軍が戦ったら、鉄の武器の軍が勝ったという逸話も残っている。


「でも、敗者への要求が奴隷なんて……。新人に対して奴隷落ちを要求するなんておかしいですよ」

「えー……。私、あんな奴隷いらない」

「んだとオラァッ」


 喚く男に溜息を吐いてやると更に激高した様子だ。

 てか、そこキレるとこ? 私は今、「お前なんかに負けるわけがない」って言外に言ったんだけど。

 頭も弱いの?


「……Gランク冒険者、アリサ」

「クソがっ。Cランク、ニーベルだ」


 互いに名乗りを交わし、武器を構える。


「では、始め!」


 決闘が、始まった。

 私の顔を目掛けて飛んでくる槍を顔を傾けるだけで躱し、抜刀。瞬時に穂先を切り落とす。驚きで固まる男の首を、そのままーーーー


「っと、危ない。殺しちゃうところだった」


 一瞬で決着がつく。

 わずかに皮を切り裂いていた刃を戻し、血振りをして納刀。衝撃で固まっている男の肩をポンと叩いて、私は闘技場を後にした。

 そこには、奇妙な静寂だけが残る。

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