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002「親友と、戦い。」

「だから魔王を倒しちゃおう♪」

「無理です、無理無理! 私一般人! 戦いとか未経験なんですけど!」


 気楽に言われたカミサマの言葉に思わず絶叫。

 平和な地球に暮らしてた私に何を求めてるの!? 確かに達人級の刀術の腕を持つ親方と稽古付けたりしてたし真剣で切りあったりしたことあるけど、殺しあいなんてしたことないんだよっ。さっきオオカミに怯えてたの見たでしょ? 見たよね?

 だが、喚く私に、カミサマは一言。


「じゃあ、ユリカちゃんはそのままでいいの?」

「それはっ」


 良い訳がない。

 できることなら助けたい。死んでしまった私が、生きているユリカを助けたいなんて皮肉な話だけど、それでもユリカは親友だ。それに、彼女だって鞘師、刀鍛冶に携わる刀工の一人だ。この世界に来れば、私のように期待に胸を躍らせることだろう。

 それでも、私はここで第二の生を受けたのだ。

 ステータスを見る限り戦闘系のスキルは全くない。前世でもそんな経験はない。さっきだって、犬にすら怯える始末だ。

 そんな私が、ユリカのためとはいえ、自殺行為に身を投じられるわけがない。

 もうここは、私の生きる場所なのだから。

 そしてユリカは、文字通り『別の世界』に生きているのだから。


「ユリカ……」


 けれど、諦められない。

 自殺行為だ……けれど、目の前にユリカを助ける、ううん、ユリカにまた会える可能性が転がっている。世界を別ってしまった親友と再会できるかもしれないのだ。心惹かれないとしたら人じゃない。


「きみの体は今、チートの塊だ」

「え?」


 悩む私に、カミサマが口を開く。


「この世界の一般人のパラメータが、平均すると10といったところかな。今は見れないけど、きみのパラメータはすべて100くらいでそろってる。これは破格と言っていいんだよ。その体はボクの力で造ったものだ。そんじょそこらの有象無象とは訳が違う。レベル……階梯が上がれば、身体能力はさらに強化される。それこそ人外レベルにまでね。それでも戦う術がないと言うのかい?」


「それは……」

「さらに、きみには鍛冶スキルがある。魔剣創造スキルもある。複写は持ってる剣を魔力体で再現する能力だから、これを使えば無限に武器が生み出せる。きみにしか使えないけどね……。体はボク特製の最上級、魔剣もきみなら最高の品が作り出せるよ。これでも戦わないのかい? 親友のためなのに?」

「…………」


 私は口を開けなかった。

 口を開けば出てくるのか、言い訳だから。

 ユリカのために戦わず、自分の保身のために逃げる、言い訳。

 結局、戦わないのは怖いからなのだから。

 だって。

 死んだ瞬間の記憶はどういうわけかないけど、死の恐怖は刻みこまれている。『死ぬ』ってことを考えると、それだけで体が震えてくるのだ。


「……そっか」

「なんで、そこまで?」


 代わりに口を吐いた質問に、カミサマは困ったように笑う。


「この世界、ボクが創ったんだ。百万年くらい前のことかな」


 オオカミがうずくまり、ポツリポツリと話しだす。


「初めは、そりゃもう頑張ったよ。どの神様よりも豊かな世界にしてやるっ! てさ、張り切ってた。ばんばん神託出して、どんどん知識与えて、世界はどんどんと豊かになっていったよ。嬉しかったなあ。調子に乗って、出てきた魔王をボクが倒しちゃったりもしたっけ」

「……今回もそうすればいいんじゃないの」

「それじゃダメなんだよ」


 カミサマは私の言葉をきっぱりと否定する。


「ボクたち神が創った世界に影響を与えるっていうのは、つまりはズルだ。チートだ。だから、その度に世界は目に見えない代償を払ってるんだ。……一定回数以上手を出したとき、世界は突然枯れだした。暗黒時代……この世界で言う《空白の時代》の始まりだよ」


 カミサマは真剣な表情で過去を語る。

 気付けば、私はその話に聞き入っていた。


「百年くらい続いたその時代で、国はすべて滅んだ。人口は十分の一くらいまで減った。魔族が跋扈して人々を食っていた。神殿からはボクのところに助けを呼ぶ声が送られてきたけど、何故かボクからの干渉はすべて弾かれてしまったよ。……救いを求める声は、やがて恨みの声に変っていった。『なぜ何もしてくれないのか、俺たちがいったい何をしたのか』ってね。つい五百年ほど前の話だ」


 カミサマは自嘲気味に笑う。


「そして手を出さなくなって百年くらいしたら、国はようやく復興した。でも、それ以前の知識や技術はすべて失われていた。掘立小屋からの再スタートだったんだ。それからは、ボクは傍観者になった。見守ることに徹して、決して手を出さなくなった。そしたら、一回目は二十万年くらいかけて発展した文明が四百年で完成したよ。そして悟った。『ボクたちはイレギュラーだ』って。だから、ボクは手を出せない。……これは取引だ。ボクの世界から、魔王という脅威を取り除いてくれ。代わりに、ユリカのことはボクが保証する。神の名に懸けて」


 それきり、カミサマは口を開かなかった。

 私は沈黙を守ったまま考える。口を開けば否定しか出てこないから、感情じゃなく思考で判断するため、今は黙った。

 カミサマは多分、本音を話してくれた。

 カミサマって立場なら、私に命令して魔王と戦わせることもできるはず。でも、それをしなかったってことは、これが彼の誠実さだってことだと思う。

 彼は自分に課した『不干渉』というルールを守るということを示している。

 だから私に頼んで(・・・)いるんだ。命じることもできるのに。

 つまり、今ここで断れば、私は戦わなくてもいい。鍛冶師として生きていく道が残されている。

 でもここで断れば、ユリカとの再会は叶わないだろう。私に世界を超える力はない。鍛冶師として天才でも、ただの人間に過ぎないのだから。

 ……うん。

 思えば、最初から結論なんて決まってた。

 私がーーーー


「親友を見捨てられるわけがないよ……」


 恐怖で体を震わせ、目の端に涙を浮かべ、私は口を開く。


「その取引、受ける。魔王を倒したら、ユリカをこの世界に転生させて」

「うん、分かった。このボクの全存在に懸けて、女神を説き伏せる」


 カミサマは、ほっとしたようにそう返事をした。



 ◇◆◇



 カミサマと取引が成立した後、私は彼に鍛冶の手伝いをしてもらっていた。

 せっかく神業級のスキルが手に入ったのだ。試さないのは愚か者のすることだろう。

 ちなみに、体の震えは鍛冶に意識を向けた途端に消え去った。我ながら現金な体だ。まあ、死の記憶はないのだからそんなものかもしれない。


「というわけでカミサマ、相方お願いしますね!」

「うん、なにがというわけなのかを説明してもらいたいかな」


 誤魔化されてくれないか。


「当たり前でしょ。ボクは神様だよ?」


 あーはいはい。

 なんかもう尊敬の念が湧いてこないからいいや。


「初めからなかったよね」

「細かい男は嫌われるんですよ?」

「そういう話はいいから」


 せっかく忠告してあげたのに。

 人間じゃないからいいのかな。


「全くせっかちな。……刀鍛冶って本来、幾つもの工程を大勢で分担してやるものなんですけど、今は私一人しかいないから手伝って欲しいと思って。せっかくだから魔剣とやらを作ってやろうと」

「きみもせっかちだよね。……まあ手伝いはするよ。巻き込んだのボクだし」

「いよっ、さすがカミサマ太っ腹!」

「なんか違う……」


 ぶつくさ言いながらオオカミのカミサマが人型へと姿を変える。

 犬の姿じゃ槌を振るえないもんね。


「わ、あの気持ち悪い笑み浮かべてた少年Aだ」

「きみ、ボクが神様だって分かってないよね? そうだよね?」

「さてじゃあ鍛冶いきましょー!」

「全くきみは……」


 いちいち答えるのはめんどくさいんだよね。言いあってても話が進まないし。

 それでも、文句を言いながらも手伝ってくれるカミサマって、やっぱり実は優しいよね。


「ステータスオープン! 物質収納からの工房(結界)〜♪」


 ポチッとな。


「うわっ!?」


 目当ての文字をタップすると、突然光が満ちた。

 眩しくてなにも見えない。


「目が、目がぁ〜」


 目を抑えながら大袈裟に呻く。

 人生で一度は言ってみたいセリフ、一つ達成だぜ!

 やったね!


「きみは死ぬ直前でも余裕あるよね」

「私が死んだ瞬間のこと知ってるよね? 私は知らないんだけどさ」

「ぎゃあ〜、あぢぃ~! って叫んでたよ」

「うわ、黒歴史だ」


 実感が無いからかな。死んだことさえ冗談になるなんて。

 自分でも不思議。

 光も収まり、ようやく目が見えるようになってきた。そして私は大いに驚くことになる。


「うわ、すごいっ! 本当に鍛治工房だ!」


 鍛錬に使う炉と槌はもちろん、多々良吹きによる製鉄から研ぎまでできるようになっている。しかも、それぞれのスペースがしっかりと距離を取っていて、人数がいれば同時進行できる。


「最高っ」


 さて。

 私は黒い笑みを浮かべてカミサマに向き直る。


「え? え? どうしたの?」


 戸惑ったようなカミサマにこう告げる。


「数日は寝かさないから覚悟してね?」


 この言葉はベッドで彼氏に言いたかった。

 ……いないけどさっ。

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