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017「孤児院建設準備」

 十五分ほどして、奴隷商の男は部屋に戻ってきた。背後に五人ほどの奴隷を連れている。


「お待たせしました。まずは知識奴隷から紹介させていただきます」


 そう言って、奴隷を部屋に入室させる。


「案外少ないのね」

「申し訳ありません。知識奴隷であれば数はあるのですが、他人に教えられるとなると……」

「ま、それはそうね。続けてもらえるかしら」

「は、はい」


 奴隷たちは、そんな男を不思議そうに見ている。普段は偉そうにふるまっているのだろう。そんな男が恐縮するように身を竦ませるというのが不思議だろう。


「では、まずこちらになります……」


 緊張した様子の女の子が進み出て一礼する。名前はサラ、十四歳だという。

 男の説明によれば、没落貴族の令嬢だったらしい。よくあるね、そういう設定。

 純粋培養でずっと教育を施されてきたから、言葉だけでなく文学や、簡単ではあるが魔法理論なども教えられる。なにより、領地経営を学んでいたというのが大きい。孤児院運営の上で、確実に戦力になる。

 見た目もルルと同じくらい可愛いし、候補に入れておく。

 ……元貴族ということで、亜人に対して忌避感があるかもしれないのがネックだ。あとで確認しよう。

 二人目も女性だ。名前はルーシャで年齢は二十歳、美人でお姉さん的な空気を醸し出している。元教師だそうだ。

 サラが魔法理論を学んでいるのに対して、ルーシャは算術を中心に学んでいる。一般教養を教えることができるそうだ。この辺りは許貴族のサラよりも平民のルーシャのほうが向いているかもしれない。

 残りの三人は、いずれも一般教養を教えられる者だ。だが、その精度はルーシャに遠く及ばない。もともと教職だったルーシャに対し、多少裕福な一般人程度の彼らを比べてはいけないだろう。


「どうするのかしら、アリサちゃん?」


 一度奴隷と商人の男が退出すると、もう分かっているだろうに、シャルさんが聞いてくる。


「そうだね。最初の二人を候補に入れておいてもらおうかな」


 シャルさんからも同意を得て、戻ってきた男にそう伝えた。



 次に連れてこられたのは、技能奴隷の面々だ。これは数が多いので、技能の種類を紙に書いてもらい、その中から欲しい技能を持った奴隷を連れてきてもらう形を取った。

 選んだのは、調理を三人、錬金術を一人、魔法を全種類カバーするために三人。こっちは見た目とかは関係なく、純粋に技術の高さで選んだ。

 全員で九人の大取引になってしまった。


「さて、値段ですが。全部で金貨八枚、と言いたいところですが……シャル様に免じて、金貨五枚でどうでしょう」

「高いわね」

「し、しかし、これ以下の値段になると……」

「金貨三枚」


 男の言葉に構わず、シャルが一気に値切る。

 ……言い値で買うって言ってなかった?


「そ、それでは、我らがつぶれてしまいます」

「……じゃあ、これからこの店への供給を贔屓してあげる」

「……承知しました。承りましょう」


 すごい、最終的に金貨五枚も安くなった。別に八枚払ったところで懐は痛まないけど、その分別のことにお金を回せる。これはありがたい。

 人員はこれでそろった。次は資材と土地だ。



 ◇◆◇



 一先ず、買った奴隷たちは生活する場所が用意できてないから商館で預かってもらう。食費としてお金を上乗せして払い、私とシャルさんは商館を引き上げた。

 マスター、シャルさんと話しあって決めた、孤児院建設予定地に足を運び、土地の買い取り交渉をする。もともとが勝手に住み着いている人たちだから、金を出すと伝えると簡単に立ち退きを了承してくれた。銅貨十枚という安値であるが、スラムの住人には十分だったようだ。

 交渉を始める前に、金を盗もうとした輩を叩きのめしたのが良かったのかもしれない。

 場所を確保したところで資材の発注だ。これもシャルさんにお世話になった。

 私と一緒にシャルさんが顔をだすと、何故か取引相手が百面相を見せた後にとても丁寧な態度になるのだ。おかげで商談がスムーズに進む。シャルさんが「贔屓するわよ」と一言告げるだけで、大幅な割引とともに職人の手配など、いろいろなサービスが付いてくるにのだ。

 一体、なにもの……?

 私はその度に、何度目か分からない疑問を浮かべるのだった。



 ◇◆◇



 そんな感じでいろいろチートのシャルさんのおかげで、下準備はあっさりと片付いた。

 とりあえず酒場に戻った私たちは、マスターの手料理に舌鼓を打つ。


「やっぱり美味しいなぁ」

「本当にね。貴方、わたしのものにならない?」

「ぶっ」


 シャルさんから問題発言。

 ……いや、雇われないか、って商談なのは分かるけどさ。さらっとそんなこと言うと驚くよ。

 もっとも、シャルさんが、


「あら、意外と初心うぶなのね」


 とかつぶやくからどっちだか分からなくなったけど。

 あ、マスターはあっさりと断っていた。


「で、調子はどうなんだ?」


 料理を運び終えたマスターが腰を下ろす。今は昼飯時よりも少し前だから、マスターがいなくても酒場は回っていた。シャルさんもいるし商談だと思われているとのことだ。


「下準備は終わりよ。あとは実際に建てるだけね」

「おお、さすがは姐御。早いな」


 マスターはシャルさんのチートっぷりを承知している模様。あっさりと首を縦に振る。


「あとは、王都に伝わる情報の操作ね。それは貴方にお願いするわ」

「承知した。なんとかして見せようかね」


 王国相手に情報戦をすると言うマスター。私のせいだけど、半端ないっす。

 もちろん、王国の諜報部隊なりなんなりが弱小なわけではない。マスターが言っているのは、王国が動き出すのを可能な限り遅くする、というものだ。いくら強力な部隊があろうと、実際に動かなければ意味がないのだから。

 明日にはスラムの人たちの立ち退きも終わるだろう。資材の発注と職人の手配もした。どんな建物にするかも連絡済みだ。もう私に出来ることはほとんどない。

 だから、私は決めた。


「ねえ、二人とも。これから五日くらい空けてもいいかな? やりたいことがあるんだ」


 戦いに備えて、魔剣を新たに打つ。

 もちろん、二つ返事で了解してくれた。



 ◇◆◇



 新しい刀を打つのに、三日かかった。カミサマも私も不眠不休、すでに披露困憊である。

 けれど、私は一日休んだだけで次の作業に取り掛かった。

 魔回路の開発である。

 実は、簡単な理論と試作品はすでに出来上がっている。問題はそれが正常に作動する根拠がないことだ。

 魔回路は、一定以上の業物でなければ付与することができない。具体的に言うと、地球で名刀として歴史に残る程度でなければならない。

 この世界の剣の製法は鋳造が一般的だ。この方法では、よほどそれに適した金属を使わなければ回路付与が可能な武器は生まれないのだ。例をあげると、オリハルコンだ。鋳造剣に適した特性をもつこの金属が使われた武器であれば回路の付与は可能である。だからこそ、オリハルコンは魔剣の材料として知られている。

 だが当然、この世界で最高の金属とされるオリハルコンがそこらに転がっている訳もない。私は持っているが、私はあくまで刀鍛冶。鋳造剣の技術はないのだ。

 今回作った刀は、緋緋色金と最上級のミスリルの合金。図書館で見つけた、製法次第では魔剣になり得るとされる金属だ。それを丹念に折り返し、鍛えて短刀にした。

 その結果、短刀にも関わらず三つの回路付与が可能となった。

 そして、私がやろうとしている回路は、その三つの枠を全て消費する。

 やり直しはできない。一発勝負なのだ。

 調べるべきなのは、空間魔法、硬化魔法、固定魔法。そして、私のスキルである《複写》だ。これらの魔法は無系統魔法と呼ばれ、魔法の適性がなくても習得できる……というより、適正自体が存在しない。完全に努力のみの習得となる。

 が、難易度が高すぎるのと攻撃に使うのには燃費が非常に悪いせいで、使える者はほとんどいない。過去に空間魔法と時間魔法で無双した偉人がいたそうだが……もはや伝説の中の話だ。

 だから、その解析には非常に時間がかかる。

 というか、教えてくれる人がいないから、これは暗号の解読に近い、というかそれよりも難しい。マゾゲー、いや無理ゲーである。


「はあ……。空間と硬化の合成には成功、かな」


 けれど、私は持ち前の根気強さを発揮し、なんとか少しずつ解析を進めていた。ユリカにはよく「亜里沙って絶対ドMだよね!」と言われたものだ。Mっ気があるのは認めるけど、"ド"はさすがにつかないと思うよ。

 次は固定魔法の合成……。固定魔法は時間魔法の一種で、対象の時間経過を阻害する硬化を持つ。つまり、変化を魔法的に止めるというものだ。その魔法式は複雑怪奇、使いこなせるようになるくらいなら剣を握って達人を目指すほうが簡単とまで言われている。

 固定魔法でこれだ。過去の時間魔法と空間魔法の使い手は、それだけの実力を得るまでにどれだけの辛酸を舐めたのだろうか。

 気が遠くなる。

 のだが。


「……あれ、意外と分かる」


 複雑だ。確かに複雑怪奇である。

 だが、知らないパーツがないのだ。

 英語の文章を読んでいて、文章の意味はさっぱり理解できないが、英単語一つ一つは知っている。そんな感覚だ。で、そういう場合は大抵、じっくり読みこんでいくことで解決する。

 まあ、気長にやりますか。



 結局解析には三日かかった。勝手に図書館に泊まり込んで、解析できた瞬間に叫び声をあげ司書さんにそれがばれ、こってりと絞られたの良い思い出だ。

 回路の開発が成功した高揚感でほとんど聞いてないのだけれど。それに気づいた司書さんにさらに雷を落とされたのは言うまでもない。

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