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014「オークション」

 酒場に入った私は、カミサマが決闘の後処理をしたギルド職員と話しているのを見た。

 その隣には隷属の首輪をつけたあの冒険者……ニーベルだっけ? がいる。

 奴隷だから、当然イスなど座らせてもらえない。立ったままだ。目からは完全に生気が失せていた。いったい奴隷商でどんな扱いを受けたのだろうか。

 ざまあみろ。

 でも、カミサマが話してる&ニーベルがいるってことは、私たちだよね。

 明らかに私たちに用があるこの状況を放って置くわけにもいかない。ルルを連れてカミサマのところまで行く。


「あ、アリサちゃん。おかえり」

「ただいま、か……コスモス。休んでなくていいの?」


 危ない、人前でカミサマのことをカミサマって呼びそうになった。そんなことしたら面倒なのは確実だ。


「それがねぇ」


 カミサマがギルド職員に目を向ける。


「実は、このニーベルをオークションに出品しようと思いまして」

「オークション?」


 なんでも、私に負けるまでの素行が悪すぎて評判が最悪。買い手がつかないのだとか。

 だから、オークションで捨て値でもいいから売りたいとのことだ。これでも一応Cランク冒険者、評判を知らなければ買い手が付くらしい。


「どうでしょうか?」


 それに対する私の答えは、


「別にいいんじゃない?」


 私としてはニーベルがどうなろうが知ったことではないし、お金に困っているわけでもないから値段とかどうでもいい。

 私の答えにホッとした表情を見せたギルドの職員に、


「用事はそれだけ?」

「は、はい。では、これにサインをいただけますか」

「ん、はいよ」


 ざっと目を通して問題がないかとを確認し、サインして書類を返す。職員は私にオークションの説明とよければ参加してください、と伝え、ニーベルを連れて逃げるように立ち去っていった。

 オークションは約一ヶ月後、奴隷を含め色々と珍しいものも出品されるらしい。

 正直興味ないけど。

 ルルをイスに座らせ、マスターを呼ぶ。キザな仕草で承知の意を伝えたマスターは磨いていたグラスを置いてこちらに歩いてきた。


「……なんであんなに急いでるんだろね」

「アリサちゃん知らないの?」


 私のつぶやきにカミサマが答える。だが、その続きを引き取ったのはマスターだった。


「嬢ちゃん、オークキングを討伐したろう。『対多戦闘』のタグがついてるヤツをな」

「したねぇ」

「あのタグがついてる依頼ってのは本来、複数のパーティで連携して攻略するものなのさ。あの依頼でいうと、Cランクパーティが十個は集まらねぇと無理だな」

「え、そうなの?」


 驚く私に、マスターは軽く頷く。


「それを嬢ちゃんたちは、たった二人で達成しちまったわけだ。それもたった半日で。そりゃあ目立つさ。今じゃ嬢ちゃん、虐殺者ジェノサイダーなんて二つ名が広まってるぜ?」

「ちゅ、厨二だ……」


 誰かに知られたらやだな……いや、ここはもう異世界だ。

 知られるとしたら転生後のユリカだけど、ユリカはこういうの好きそうだからいいや。

 私の変態性ってほとんどユリカのものだし。


「で、嬢ちゃん。注文は?」

「これでテキトーにお願い」


 そう言って銅貨を一枚。マスターの見立ては確かだから、これで十分だ。

 さて、クソッタレな高級レストランとの格の違い、ぜひ教えて欲しい。

 私の挑戦的な瞳に、マスターがニヤリと笑って厨房に向かう。



 ◇◆◇



 十分ほどで料理が運ばれてくる。良い香りが、マスターの運ぶ皿から伝わってくる。


「お待ちどうさん、虐殺者ジェノサイダーどの」


 悪戯っぽく笑うマスター。いい大人のクセしてそんな仕草がバッチリと決まる。


「やめてよ、その名前。私はアリサだって」

「だが、これは間違いなく嬢ちゃんの二つ名だ。嬢ちゃんが自分の力で勝ち取った、な。読んでやらないと名前の方がかわいそうだろう?」

「恥ずかしいよ〜」


 顔を押さえて身悶えする。

 やっぱ、こんな厨二ネームを人前で呼ばれるのって無理!

 厨二病の創作物は大好物だけど、私自身がそうなるのはやっぱりツライものがあるね。

 それはそうと、マスターの料理を味わうために箸を取る。実際にはフォークとスプーンだけど。

 この世界には箸がないんだよね〜。

 作っちゃおうか。棒を二本、長さを揃えるだけだから簡単だ。


「ではでは、一品目を頂きますかね」

「美味しそうだね〜」

「こんな料理を、私も食べていいなんて……っ」


 ……いやルル、マスターの料理はこの前も食べたでしょ?

 あと、私のところにいる間は奴隷だってこと忘れようよ。手放すつもりもないから一生。私とルルの仲なんだから、遠慮があったら寂しいよ。

 ……そうだ。


「ねぇ、ルル」

「なんでしょうお嬢様?」

「はい、あーん」

「えっ」


 驚くルル。でも関係なし。

 これは私の癒しなのだから!


「アリサちゃん、人前でそれはルルちゃんの立場が形無しだよ」

「いいの。はいルルちゃん、あーん」


 カミサマが何か言ってるけど無視。


「で、ですがお嬢様」

「ルル、『命令』だよ。あーん」

「あ、あーん」


 ああ、また『命令』を使ってしまった……。でもいいや。悪いことじゃないし。

 ルルの可愛らしい口に、そっとスプーンを挿し込む。焦らして楽しむ趣味はないから素直に入れてあげた。

 変態の上にSっ気のあるユリカには散々焦らされたっなぁ……。また会いたいなぁ……。

 そんなことを思い出して遠い目をしていると、


「お、お嬢様。あーん……です」

「る、ルル……。パクッ!」

「ひゃうっ」


 指まで咥えてしまった。どうせだからペロペロ。ルルが可愛らしい声を上げる。

 でもルル、そこはもう少し焦らしてくれるとなお良いね。ユリカみたいに。


「どうですか……?」

「美味しい! ルルが食べさせてくれたから百倍美味しいよっ」

「嬉しいですっ」


 私とルルがキャッキャウフフをやっていると、カミサマがやさぐれていた。


「相変わらずの桃色結界……。ボクだけ蚊帳の外だね……。二人のために三千年も頑張ったのに」


 ちなみに「三千年」の部分は声を潜めていた。こんな時でも流石はカミサマである。

 ついでに言うと、この打たれ強さが邪険に扱われる理由だったりするのだが。


「ごめんごめん。でも、ルルちゃん可愛いんだもん」


 椅子を寄せてぎゅーっと抱きしめる。幸せそうなルルちゃん。その顔だけで私も幸せだよ。


「嬢ちゃんたち、仲良いねぇ。仲良きことは美しきかな、ってな」


 マスターが二品目を持ってくる。その目は優しく細められていた。


「あ、マスター。だよね、仲が良いのは良いことだよね。なのに、みんな酷いんだよ? 私とルルちゃんがそういう仲・・・・・じゃないかって疑うんだよ?」

「はは、嬢ちゃんたちが二人ともあまりにも可愛らしいもんで、みんな嫉妬してるんだろうさ」


 男子ノーサツ用の表情で言ったのに、マスターは頬を染めもしない。

 あー、ちょっと自信失くすなぁ。


「おいおい、妻帯者を誘惑して何がしたいんだ? あと、俺は年下に興味はないんでな、諦めるこった」

「あ、バレた?」


 マスターって結婚してたんだ。でもそうだよね。格好良いし。

 えへ、と笑ってみせると、マスターは、


「バレバレだ。嬢ちゃんは分かりやすいからな。……女性は謎めいた方が妖艶でいいが、嬢ちゃんみたいな女の子は分かりやすいのも魅力の一つだ。変に気張って魅力を潰すなよ?」

「はーい」


 謎のフォローをしてくれるマスターに素直に返事をしておく。

 マスターの話に従うなら、ルルちゃんへの愛は隠さない方が良いってことだよね!

 だから、ルルにはもう一度「はい、あーん」をした。頬を染めてルルが応じてくれる。お返しもしてくれた。

 カミサマは、一人黙々と食べていた。



 ◇◆◇



 楽しそうに騒ぎながらオレの料理を食べている嬢ちゃんたちを眺め、目を細める。

 若いってのは良いねぇ。見ているだけで元気を分けてもらえるようだ。

 酒場のマスターになって、むさ苦しい男ばかりを相手にしているから余計にそう感じるぜ。


「ふふ、元気そうな子たちね」

「おう、シャルの姐御じゃねぇか」


 どこからかスルリと現れたのは、以前からこの酒場を贔屓してくれているシャルの姐御だ。紫の長い髪、白い肌。いつも漆黒のドレスを着ている、ミステリアスな美女。

 あのアリサって嬢ちゃんも相当な美少女だが、あれはどっちかっていうと可愛い方向だからな。シャルの姐御の美貌を知っていると、どうも色気に欠ける。


「まったく、貴方にも困ったものね。わたしというものがありながら」

「バカ言え、俺は妻帯者だっての。姐御に手を出したことはねぇだろうがよ」

「ふふ、わたしはいつでも歓迎よ?」


 姐御の妖艶な笑みに思わず惹き込まれそうになる。

 慌てて目を逸らしながら、


「全く、姐御には敵わねぇな」

「それは光栄ね」


 姐御が笑いながら腕を組むと、二つの双丘がその存在を主張する。

 そこに目を惹かれたのは男の性だろう。

 慌てて目を逸らすが、姐御にはバレバレだ。さっきからクスクスと笑ってやがる。狙ってやがるな、姐御。

 嬢ちゃんのことを言えねぇな。


「で、どうしたんだい姐御? 用もなしに立ち寄ったわけじゃねぇだろう?」


 そう、姐御がここに立ち寄る時には大抵何かある。


「あらあら、貴方に会いに、というのは思いつかないのかしら?」

「そんな関係じゃねぇだろうがよ」

「ツレないわねぇ」


 クスリと姐御が笑い、


「まあ、今回は特にどうというわけではないのよ。あの子たちに興味があったから見に来ただけよ」

「あの子たちって、虐殺者ジェノサイダーの嬢ちゃんたちかい?」

「そうよ」


 これはまた、嬢ちゃんたちもなかなかやるねぇ。まさか姐御に目をかけられるとは。

 でも、なんでだろうな。

 微笑む姐御から、寒気を感じるのは。

 そのことを、聞こうとは思えないのは。

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