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011「ルルの能力」

 マスターの勧めに従って、ギルドでの適性検査を受けてみることにした。朝食を終えると、マスターに礼を言って受付に向かう。


「シリアさん、適性検査っていうのを受けたいんだけど」

「一人につき銅貨一枚を頂きますが、よろしいですか?」

「うん。ええと、受けるのは……」

「あ、ボクはいいや」


 二人の顔を見回すと、カミサマは手を振って辞退する。まあカミサマってばれたら大変だしね。

 ステータスでは種族まででたし、適性検査でも出るんだろう。


「ええと、私も……」

「じゃあ、私とルルの検査をお願い」


 ルルまで辞退しようとしたから、その前に銅貨を二枚渡してしまう。ルルのための検査だよ?

 シリアさんがルルを不思議そうに見たが、何も言わずに二枚の書類を取り出した。


「これは申請書です。適性検査を受ける方は記入をお願いします。……代筆も承っておりますが、どうなさいますか?」

「んー、ルルちゃんって字書ける?」


 ルルを見て代筆を申し出てくれたシリアさん。確認するとやっぱり書けないらしいからお願いした。


「畏まりました。では、まずは名前から……」


 用紙に記入するのは、名前、年齢、冒険者の人はランク。それだけだ。ついでだから、ルルも冒険者登録をしてもらうことにした。検査の後でカードをもらえることになった。

 用紙をシリアさんに渡し、先導してくれる彼女についてギルドの奥へと進む。突き当たりの廊下を右へと曲がり、その奥の部屋が検査部屋らしい。


「では、アリサさんから検査を行います。部屋に入ってください」

「ん、了解」


 中に入る。薄暗い、小さな部屋だった。違うのは、床に水銀で魔法陣が描かれていることだ。


「その陣の中央に」

「はーい」


 円が三つほど組み立てられた魔法陣の、中心の円の中に立つ。シリアさんが手元を操作すると、魔法陣が一瞬だけ輝いた。


「……終わりです。結果は後ほどお持ちしますので、ルルさんと交代してもらえますか」

「え、もう終わり?」

「はい」


 終わりらしい。

 もうちょっとこう、ファンタジーらしさを期待してたんだけどな。拍子抜けだ。

 けど、早く終わるに越したことはないので、大人しくルルと交代する。ルルの検査も一瞬で終わった。出てきたルルは私と同じように不思議そうな顔をしていた。

 ホールに戻ると検査結果の書かれた紙を渡された。酒場の席に座って見てみると、こんな感じだ。



*****



アリサ・ヒメカワ 15歳

人族/女性


筋力:97

体力:84

敏捷:138

魔力:92

技能:鍛治 錬成 魔剣創造 複写



*****



 ステータスプレートにしか表示されていないのは階梯レベル、適性検査にしか表示されていないのはパラメーター、といったところだ。一般人の平均が10だと言っていたから、確かに私の体はチートの塊である。

 どうでもいいが、紙は折りたたまれていてシリアさんは内容を見ていないので、テンプレ的な展開はなかった。残念だ。

 ギルドマスターが会いたがっています! とかやってみたかった。

 ちなみに、ルルのパラメーターはこうだ。



*****


ルル 12歳

犬人族/女性


筋力:12

体力:9

敏捷:24

魔力:48

技能:魔法(水) 魔法(風)



*****



 魔法スキルがあるのと魔力が普通の五倍近くあるの以外は標準である。体力が低いが、これはスタミナとHPのどちらなのだろう。


「水魔法に風魔法かぁ。ルルちゃんは支援魔法特化かな?」

「え? 水と風って支援系なの?」


 カミサマのつぶやきに、私は思わず聞き返す。

 確かに水魔法は支援バフ系のイメージがあるけど、風は十分攻撃に使えると思う。鎌鼬とか。


「水は治癒にも使えるからね。風は攻撃にも使えるけど、声を遠くまで届けたりとか後方支援にも役立つよ。魔力もあるし、支援でいいんじゃないかな。火力は足りてるわけだしさ」

「まあ、確かにそうだね」


 後方支援なら危険も少ないか。

 ……でも、目当ての盾役がいなくなってしまった。


「ポチはこっちに呼べないの?」

「ちょっと無理。向こうの存在だからさ、こっちにいるときはボクの神力を使って存在を固定してるんだよ。で、ここにいるボクは神力が使えないから」

「なるほどねー」


 ポチとカミサマがいれば手っ取り早いんだけど。全部避けるから盾役要らなくなるし。

 そう思ったけど、そんな簡単にはいかないみたいだ。

 因みにこの会話は顔を近づけてのヒソヒソ話である。神力とか、聞かれちゃまずいワードもあるし。

 それが間違いだったことを、ルルの赤い顔で悟った。


「あの、お嬢様……」

「ナ、ナニカナ」


 やましいことはしてないよ?

 私が一番好きなのはルルちゃんだからね?

 お願い、伝わって、この気持ち。


「その、魔法はスキルがあるからといって使えるものではないです」


 あ、そっちか。良かった。

 となると問題は、


「じゃあどうすれば使えるようになるの?」

「通常なら学校に通うのですが、私は犬人族なので……」

「じゃ、独学かぁ。魔法書とかってないのかな」

「図書館に。ですが、お金がかかりますので……」


 なんだ、そんなこと。

 ジャラジャラジャラ。

 テーブルの上に金貨を数十枚出して見せると、ルルが目を見開いていた。まあ、金貨一枚で一億円相当なのを考えると、普通は見れない金額だよね。


「お、お嬢様? これは一体……」

「そういうわけだから、お金は気にしなくていいよ」


 私がそう言うと、ルルは目を丸くしたまま頷いた。

 動作がどこかぎこちない。驚きがまだ冷めないようだ。

 ……実は金貨があと99枚あるとか言ったら、どんな反応するだろうか。ちょっと見てみたい気がするけど、卒倒しちゃったりしそうだから自重しよう。


「じゃ、図書館に行こうか」



 ◇◆◇



 ギルドを出て三十分ほど歩いたところに図書館はある。

 ……のだが。


「ねえカミサマ」

「ん、なに?」


 今、私は素晴らしい名案を思い付いた。


「カミサマって、武神さんに稽古付けてもらったって言ってたよね」

「うん。それがどうかした?」

「今から神界に戻って、時空神さんと魔道神さんに頼んで魔法を覚えてきてよ。水と風」

「は!?」


 そう。

 教えてくれる人がいないなら、作ればいいじゃない!

 ちょうど時間経過を関係なく修行できるカミサマがここにいるわけだし。


「いやだよ! 体感時間で何年かかると思ってるの!?」

「そこをなんとか、さぁ。ほら、普通にやるとお金がかかるでしょ?」

「そのお金を用意したのボクなんだけど」

「はあ。ねえ、カミサマ」

「……なにさ」


 私は嘆息して呼びかける。


「今ここには、お金と時間ををかけて目的を達成する手段があります」


 図書館での独学だ。


「そうだね」

「でも、たった一人のカミサマが協力してくれれば、お金がかからなくてもすみます。もちろん努力も必要だけどさ」

「……そうだね」

「私はいいよ? 人族だから差別もないし、お金も持ってるのは私だから使うのは私の自由だから」

「うん」

「そこは即答なのね。……まあいいや。でも、今魔法を習得したいのは、被差別種族である亜人でしかも奴隷のルルちゃんです。お金はご主人様のもので、まじめなルルちゃんは、どうしても『払ってもらった』という負い目を感じるでしょう。それは私やカミサマの思うところではありませんね?」

「…………そうだね」


 カミサマは反論できていない。

 そりゃそうだ。カミサマが抵抗してるのって、自分が大変だからだもんね。

 さあ、最後の追い込みだ。


「じゃあ、気持ち良くルルちゃんに魔法を習得してもらうには、知ってる人に教えてもらうのが一番なんですよ。ルルちゃんの知ってる人とは私とカミサマで、魔法を教えられるようになれるのはカミサマだけです。おーけー?」

「…………」


 あらら、ついに黙り込んでしまった。


「おーけー、カミサマ?」

「……………………」

「カ ミ サ マ ?」


 短く区切ってゆっくりとした口調で名前を呼ぶ。ついでに黒っぽい笑みでプレッシャーもかけてみた。

 その成果があったのかは分からないけど、最終的にカミサマは諦めたように首を縦に振った。


「…………………………………………はあ、分かったよ」

「いよ、さすがカミサマ太っ腹!」


 はい、言質取ったりー!

 さすが私!

 自画自賛してもいいレベルの交渉術だよね!


「……ただの脅迫だよね」

「聞こえませんねー? なにか仰いました?」


 ニヤニヤ笑いの私が言い放つ。


「……あれ、不思議だなー。なんかアリサちゃんに対して殺意が湧いてきたよ。なんでだろーね?」

「身に覚えのないことですわね。おほほほほ」

「へー、そっかー。あははははは」

「「……………………(バチバチ)」」


 私とカミサマの間で火花が散っている。

 互いに一歩も退かぬとばかりに睨み合い、


「「…………ぷっ」」


 同時に吹き出した。


「あははははっ! カミサマ、なにその顔!? 全っ然似合ってない!」

「アリサちゃんこそ! きみにお嬢様口調は絶望的に合わないね! 傲岸不遜、礼儀知らずでこそきみだよ!」

「褒めてないしっ。あっははははっ!」

「あははははっ」


 道の真ん中で、腹を抱えて笑い合う。通行人の視線が突き刺さるが、この時ばかりは全く気にならなかった。


「…….じゃ、ちょっくら行ってくるよ」

「はいはいよ〜」


 そしてその場からカミサマが消え、


「えっ、と……私はどうすれば……」


 事態を理解していないルルが残った。

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