001「説明不足で異世界へ」
改稿しました。
改行の仕方を変えるだけのつもりがいつの間にか……。
この際なので、ちょっとずつ手を加えていこうと思います。
目を開くと、目の前にいたのはにやにやと気色悪い笑みを浮かべた少年だった。
えっと……なにこれ?
一歩引きながら、私は表情が引き攣っているのを自覚した。
「あははっ。きみ、おもしろいね。こんな状況なのに、目覚めて一番に思うのがボクのことかい?」
「は? ……えぇ?」
少年の言葉に何度か瞬きを繰り返し、ようやく周りの状況がおかしいことに気付いた。端的に言えば、暗いのだ。なのに、少年の周りだけぼんやりと光っているように見える。
「いや、あのさ。自分の体くらい気を付かおうよ」
「体?」
手を見下ろして気付いた。
なんか、透けてるんですけど……。
手のひらが半透明な感じで、足まで見えてるよ。しかもその先の暗い感じの地面? も。
「いやー、実はきみ、死んじゃったんだよね」
「はい?」
うん、なんだろう。
すっごく大事なことを軽い口調で言われた気がする。
私が死んだ、だって?
やだなあ、冗談で言っていいことじゃないんだけど?
「だけど、運命の女神に問い合わせたら、きみすっごい逸材だって言うじゃん? だからボクが別の世界に転生させてあげようって思った次第さ」
「……はい?」
え、あれ? 運命の女神? 転生?
じ、冗談ですよね?
あと、もしかしてこの少年Aって神様だったりするの?
あれ、でも私、意識があるよ。死んだら意識って消えるものだよね。ね?
「きみ鍛冶師見習いなんだってね? で、その分野にかけては天才級の才能を持ってるのに、体が弱くて発揮できなかったと。だからこれから逝く世界では、才能はそのままに丈夫な体とついでだから可愛い外見を提供してあげよう。いや、きみ、運がいいね?」
ちょっと待って説明ぷりーず。情報の氾濫が起きてます。しかも疑問が全然解決しないまま話が進んで行くんだけど。
ていうかなんで私のこと知ってるの。それに運が良かったら死んでないよね。
……あれ、本当に私って死んだの!?
「じゃ、頑張って♪」
「え……えぇえ?」
ちょ、まっ……。
あああああああああーーーーっ!
こんな感じで、私の第二の人生は始まった。
ほんと、なんなの……?
◇◆◇
次に目を開けたとき目の前にあったのは、オオカミにも似た犬の顔だった。茶色の毛並みに黒い瞳。見方によっては可愛い愛玩動物だけど、私に向けて犬歯をむき出しにしてる状態じゃあ怖いだけだよっ!
「えええええーーーーッ! いったい何なのもうっ!?」
「ワウッ」
「ひっ!?」
跳ねるように飛び起きた私に驚いたオオカミもどきが威嚇するような鳴き声を出す。これでも刀鍛冶の弟子だから腕っ節には自信があるが、喧嘩の経験もない私にはオオカミと戦うなんて到底無理である。だから出来たことと言えば、無様に尻もちをついて必死で後ずさることだけだった。
「ワウッ。ワウ……。あ、あー。こんな感じかな」
「へっ」
だから、そのオオカミがさっきまで目の前にいた少年と同じ声、口調で話しだしたときには、驚きのあまり奇妙な声を出してしまった。
オオカミはそんな私に構わず話し続ける。
「やあやあ、驚かせてすまないね。この子はボクのペットのポチだ。今はきみの案内犬ってところかな」
「案内犬?」
「うん、そう。初めての世界で、街に着くまでは案内があったほうが良いと思うんだけど」
じゃあ初めにもう少し詳しく説明してほしかった。
なんてことを口に出せるほど肝っ玉は大きくないけれど、この少年相手には思っただけで伝わってしまうらしい。
「あはは、ごめんね。でもこれって本来やっちゃいけないことだから、さっさと終わらせたかったんだよ。やっちゃえば事後報告でも、違反だから処分しようなんてことにはならないからさ……多分」
「多分っ!?」
さらりと怖いこと言わないでよ!
話の流れからして、私は一回死んで生き返ったんだろうけど……そのまま再死亡なんてごめんだよっ。
「あ、あんまり気にしなくてもいいよ。こう見えてボク、結構権力あるから」
「カミサマの世界も権力社会なんですね……」
「あたりまえだよ。力がなければ何もできないのは、どこの世界でも同じさ」
夢も希望もないですね。
しかし、オオカミの声帯は人間と違うのに、なんで日本語を話せるんだろう? 仕組みが知りたいな。
「……おーい、現実逃避してないで帰ってきてよ。今からいろいろ説明するからさ」
「…………あ、はい」
「間があったよ?」
「気にしないでください」
現実逃避してただけなんで。力がなくて刀鍛冶やれなかったあげく永久退場させられたあの世界のことなんて思いだしてないので。力がどうとかそんな言葉にトラウマは持ってないので安心してください。
「あー……。なんかゴメン」
「いえいえ、お気になさらず。全部私のせいですので」
「これってホントに亜里沙ちゃん? ずいぶんとやさぐれちゃって……」
体操座りで黒いオーラを纏いいじけていると、カミサマらしきオオカミが呆れたように溜息を吐いていた。どうでもいいけど、やっぱり私のことを知ってるんだ。
まあカミサマだもんね。
「ちなみにこの世界じゃ、亜里沙ちゃんはもう立派な鍛冶師だからね」
「……え」
「そりゃそうだよ。亜里沙ちゃんには丈夫で可愛い体をプレゼントしたんだから、もう鍛冶やれるよ?」
「マジッすか!? ひゃっほう!」
「亜里沙ちゃん、キャラは守ろう」
呆れた口調でオオカミが言うが、テンションだだ上がりの私には焼け石に水。そんなことはどうでもいいのだ! 今の私は鍛冶師なんだからね!
「うん、意味分かんない。神様にも理解できない暗号を話すとか、亜里沙ちゃんさすがだよ」
「ちょっとー、勝手にー、心を読むのー、やめてもらえますー?」
ぶりっ子で言ってみる。
「気味悪いよ?」
「ひどいっ! いたいけな女の子に言う言葉じゃないよ?」
一言で封殺された。
とは言え、今のやりとりで暴走状態は解除されたようだ。テンションは高いままだけど。
「さて、落ち着いたみたいだし説明しよう。……て言うかようやく本題……」
疲れたような溜息が聞こえる。
「まあいいや。さて、この世界だけど、ここは昔ボクが作った……ってそんなことはいいか。じゃあまず、心の中で『ステータス』って言ってみようか」
「ええと……『ステータス』」
目の前に半透明の板が浮かんできた。「名前」とか「年齢」とか「種族」とか項目の名前は記載されてるけど、そこには何も書かれていない。空欄だ。
キャラメイク前のステータス画面的な?
「ゲームみたい」
「ゲームみたいじゃなくて、きみたちの世界にあるゲームがこの世界みたいなんだよ」
「ふーん」
何言われたって、私にとってはここは『ゲームみたい』だ。
どっちが先とか分かんないんだから、どっちでもいい。
「あ、ちなみにこれ、きみしか使えないし見えないから人前では言葉に出さないほうがいいよ。……さて、有効化」
「わっ」
オオカミカミサマ……もうカミサマでいいや。の言葉とともに、目の前の板が光を発して何か文字を刻んでいく。
「これって……ステータスプレート?」
そして現れたのは、予想通り私たちの世界のRPGゲームでよく見かけるアレだ。
「そう、それがきみのステータス。カミサマパワーでいじっておいたから結構チートになってるよ」
そして見た私のステータスは。
******
名前 アリサ・ヒメカワ
年齢 15
種族 人族
性別 女
階梯 1
スキル
鍛冶 10
錬成 10
魔剣創造 10
複写 10
物質収納 10
*****
こんな感じである。
さて、これは強いのか否か。
「あ、ステータスじゃあパラメータまでは表示されないのか。そういうのは冒険者ギルドでやってね。冒険者になるのかどうかは亜里沙ちゃん次第だけど」
「私は鍛冶師になる」
だって……さ。鍛冶だよ? スキルに鍛冶があるんだよ? 錬成と魔剣創造は分かんないっていうか想像しかできないけど、鍛冶スキルだよ?
これはもう決まりでしょ!
前世ではなれなかった鍛冶師に、私はなるんだ!
「で、隣にある数字は?」
「レベルだね。10が最高で、目安としては神業とか伝説に残るとか言われるくらい」
「最高っ!」
これすごいよね? すごすぎるよね?
本気でチートだよね?
鍛冶スキル、レベル10……工房の仲間に自慢したら、ひがみの視線で殺されそうな予感がひしひしと伝わってくるよ!
「で、次。物質収納をタップしてみて」
「ん……これは?」
言われたとおりに『物質収納』という文字を触ると、ページが切り替わった。上から良く分からない名前が羅列されている。
でも、「ソート」って文字があった。助かるよ。
押してみると、結構細かい並べ方ができることが分かった。一先ずは種類順にしておく。
「それがきみの持ってる物。右の数字は所有している数だね。タップすると取り出せるよ」
「すごいっ」
思わず歓声が口を突く。
なぜならーーーー。
*****
鉄のインゴット 99
銅のインゴット 99
銀のインゴット 99
金のインゴット 99
緋緋色金のインゴット 99
ダマスカス鋼のインゴット 99
ミスリルのインゴット 99
アダマンチウムのインゴット 99
…………
オリハルコンのインゴット 99
*****
と、「インゴット」欄には伝説架空の金属オンパレードである。目にしたことのない金属が目の前にあり、それを加工する技術が私にはあるのだ。
きっと私は、世界で一番幸せな刀鍛冶だろう。
カミサマありがとう!
「……あはは。現金な子だなあ」
「いいの! 鍛冶ができればなんでも! 死んで良かった! ……あれ、そう言えば私って何で死んだの?」
カミサマすごく微妙な顔をした。
いや、オオカミだから分からないけど、そんな表情が透けて見えるようである。
「あー……炉の暴発だよ」
「え? 親方が失敗したってこと?」
それこそ、異世界転生以上に信じられない。
あの人間国宝にまで指定された親方が失敗するなんて!
「いや、失敗したのはきみの友達のユリカちゃんだよ」
「え、ユリカが!? ……まさかっ」
「いや、彼女は生きてる」
「! ……そっか、良かった」
ほっと息を吐くが、カミサマの顔色は優れない。
……どうかしたのだろうか?
嫌な予感がする。
「あの、ユリカは……」
「……右腕、右足の切断と顔も半分爛れてて意識も不明。でも、瀕死のところで蘇生に成功しちゃったからこっちにも呼べないんだ」
「そんなっ」
予想以上の惨状に、私は言葉も出ない。
「……運命の女神が許可をくれれば可能かもしれないけど、ボクは生憎、運命に関する権利は持ってないんだ。ボクがもってるのは輪廻転生に関する力だけ」
「じゃあ、ユリカはこのまま……?」
「いや、手はあるよ」
その言葉に、私ははっと顔を上げる。
ユリカは私の大事な友達だ。そんなことになって、見捨てるなんてありえない。
「どうすればいいの? できることならなんでもする! だから……」
「要は、運命の女神が許可をくれるくらいの事をしてやればいいんだ。世界の危機を救うとか、さ」
「でも、世界の危機なんてそんな都合良く転がってるわけがないよ」
「ところがどっこい、転がってるんだな」
今カミサマがすごいこと言ったよね。
ていうか、このパターンって小説に良くある……
「今、魔王が復活しそうなのですっ!」
「やっぱりーーっ!?」