泣かないよ
かあちゃんがいなくなった。さっきまで後ろにいたのに。
でもボクは泣いたりなんてしないんだ。男の子だもん。
「ボク、迷子? お父さんかお母さんは?」
上から下まで黒くて、おなかにトラさんの怖い顔が書いてある、色の付いた眼鏡に紫頭のオバチャンが訊いて来た。
「おばさんと一緒に迷子のところに行く?」
ボクは迷子じゃない。迷子は、かあちゃんの方だ。
「大丈夫。ボク迷子じゃないから」そう答えた。
近くでドラゴンが火を噴いた。
でもボクは泣いたりしないよ。お兄ちゃんだもん。
だから、迷子になったかあちゃんを探して右にいく。
そして今度は左に行こうとクルリとしたら、何かにぶつかった。
太くて大きい木があった。
「おやおや。ごめんね、ボク。大丈夫かい?」
ちがった。木じゃなくてオジサンの足だった。
「大丈夫。ボク迷子じゃないよ」
「そうかいそうかい。気をつけるんだよ」
にこりとしてオジサンが頭をなでてくれた。
ボクは少し重く感じるリュックをしっかりと背負い直す。
近くでライオンさんが、握手したり写真を撮っているけど、今のボクは握手なんてしたくない。
ライオンさんの上には、大きな丸い形のものがゆっくりと動いていて、骨みたいなのがいっぱい繋がっていた。
今日はなんだか静かだな。音があまり聞こえない。少し寒くなったのを感じた。
ボクは走る。全速力で。かあちゃんを見つけたんだ。迷子になったかあちゃんをやっと見つけたんだ。
「かあちゃん!」と叫んで上をみたら、知らないオバチャンだった。
絶対かあちゃん見つけて怒ってやるんだ。“メッ”って。
だからボクは泣かないんだ。絶対泣かないんだ。だってボクが怒ってやるんだから。
「ユウキ!!」
ボクの後ろでかあちゃんの声がした。
何も言わずに、走ってかあちゃんに抱きついた。
鼻水がいっぱい出た。それ以外もいっぱい出た。
「かあちゃん」って言おうとしてるのに、違う言葉になった。
妹がボクをみて笑ってた。




