第9話 サナの処分
部屋から出てきたカナタの手には毒が入った小瓶、ケイジは犯人を連れて出てきた。
毒は時間差で殺す性質があったという。
警察が聞き取りをしたところ、あっさり自供したとか。
サナは安心した一方で、どこかで寂しく思うこともあった。
ユイトとカナタを沢の間まで送り届け、ため息をつく。
疲労感が強いが、充実感も同時にあった。
多分、自分の見えるものが認められた、というのが大きいかもしれない。
「サナ」
冷たい声。
反射的に背筋が伸びる。
振り返ると、冷たい目をした女将が立っていた。
「こんな夜中まで、何をしていたのです?」
「す、すいません…お客様とお話を…」
「お話?あなたの担当するお客様がうろうろしていたと、警備から報告が入ってますよ。あなたはお客様にきちんと説明もできないんですか?」
「そ、そういうわけでは…」
説明をする間もなく、向こうに巻き込まれた。
そう言っても言い訳にしか聞こえないだろう。
答えに戸惑っていると、大きくため息を吐かれた。
「そして、お客様の安全を確保せず、自由に外出させたという事実。あなたについて私は責任をとりきれないと、今回の件で思いました。あなたを仲居の仕事から外します」
「え」
一方的に告げられた言葉に思考が固まる。
そして、弁解も質問も許されない向けられた背中。
「明日、こちらのお客様は他の仲居に任せます。あなたは、日の出までにここを出て行きなさい」
サナは小さく「はい…」と答えるしかなかった。
* * *
サナに身よりはない。
父親はどこかで生きているようだが、どこにいるか分からない。
荷物をまとめる中でその痕跡を探したが、見つけることはできなかった。
このあとどうしよう。
考えても答えは出ず、そう言っている間に水平線が赤くなってくる。
もう出なければ。
従業員用の裏口から外に出ると、冷たい空気が顔を一気に冷やす。
「どこにいくんですか?」
知っている声が聞こえて、足を止める。
石垣の向こうに影が二つ見えた。
銀髪が揺れている。
「え、ユイト様?」
「もうあなたは仲居ではないんでしょう?様はいらないですよ」
そう言って笑うユイトの隣にカナタもいた。
興味深げにサナを見ている。
どうやら昨晩の話が聞かれていたらしい。
サナは頭を下げた。
「申し訳ありません、昨日解雇を言い渡されてしまって」
「うん。で、どこにいくの?」
「どこにと言われても…」
「いくところがなければ、私達と行きませんか?」
「え?」
突然の言葉に驚いていると、カナタが寄ってきて、サナの前で膝をつく。
そして、サナの右手を掴んだかと思うと、口づけるかのように顔に近づけた。
「ええ⁈」
「ああ、やっぱりそうだ。サナ、君は俺と同じ力をもってる」
「え?」
口ではなく、鼻で手の臭いを嗅がれた。
見上げるカナタの目は真剣で、サナの力を伝えたときと同じ目をしていた。
「あなたと同じような能力を、このカナタも持っているんです。その力でいろいろな仕事を請け負ってる。だから」
ユイトがカナタの後ろからそう言う。
「私達はあなたの力もお借りしたいと思っているんです。もしいくところがなければ、私達ときませんか?」
ユイトが改めて左手を差し出す。
右手はカナタが握ったままで、離してくれる気配はない。
かといって、彼の手を離してまで、行く場所はない。
サナは手を伸ばした。
「ち、父がどこかで生きているはずなんです。その、情報がわかるまで…」
「いいでしょう。十分です」
ぐっとユイトがサナの左手を握る。
「よろしくお願いしますよ、サナさん」
「…はい」
この選択が、私の穏やかではない人生を露呈することになるなんて、このときには思いもしなかった。




