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第6話 ユイトとカナタのオハナシ

「蘇芳の間に泊まっていたお二人は、二人とも人間だったようです」


聞いてもないのに、ユイトが話を始めた。

もちろん、サナにお茶を淹れた湯飲みを握らせてから。

まるで手錠てじょうをされた気分だ。


「お二人はこの旅館が初めてではなく、何度か来ていたようですね。夕食を終え、一人は大浴場に、もう一人は部屋付きの露天風呂を利用した…このあたりはよくわかりませんが。で、大浴場から帰ってきたところ、部屋で倒れているのを確認した」

「死体に刺されたあとは無かった。出血もない。口から泡が吹いたような痕があった。あれは毒殺だな」

「食器をさげた仲居によると、おかしい様子はなかったらしい。仲居はこの二人を担当したのは初めてで、特に違和感はなかったと言ってます」

「部屋に残っている硝子がらすや湯飲みも確認したが、毒の痕跡こんせきはなかった。個人の荷物はもう持って行かれたあとだから、わからん」

「確かに、彼の部屋にもう荷物は運ばれていたけど、調べるのは難しいね。ただ、荷物を運ぶときに彼は仲居には頼まず自分で運ぶことに固執こしつしたらしい」

「ま、あの同室者が犯人でしかないだろ」

「あの…私は何を聞かされているのですか…?」


彼らから個人情報を求められているわけではないから、悪いことはしていない。

だが、知らなくてもいい情報を聞かされていて、居たたまれない。

彼らがサナに求めているものが分からない。


「まぁまぁお茶を飲んで。寛いでくれたらいいんだよ」


ユイトがそうすすめてくるのが、また怪しい。

何よりサナは忘れていない。

ユイトに関わった人達の様子がおかしいこと。

サナは眉をひそめながらお茶を一口のんだ。


「必要なのは証拠だ」

「正直なところ、警察がまだ到着していないというのも、おかしい話です」

動機どうきはありそうか?」

「聞いた限りではわかりませんでした。ただ、十分には聞けていないので、難しいですね」

「まぁこの組み合わせだとここまでが限界か」


カナタはそう言ってふぅと息を吐く。

これまで全くしゃべっていなかったのに、事件のことになると妙に饒舌だ。

改めて見ると彼の目もキラキラ輝いているように見える。


「で」


その瞳がぐるり、とサナをむく。

正面から見たのは初めてで、刺された様な感覚に陥る。


「お前はどう思う?」

「こらこら。お前とか言わない」


ぶっきらぼうに投げられた疑問。

ユイトがなだめるが、止める気はないらしい。


「ど、どうして私に聞くんですか?」

「仲居なら他にも情報を持っているだろ。けど、その情報を俺達に教えるわけにはいかない。それなら、おま…君が考えるべきだろ」

「いえいえ、私は全然そんなの考えられないです!」

「考えなくてもいいんですけど…」


ユイトが助け船を出してくれるかと思いきや、その笑みの裏を感じる。

他の助けを求めてカナタを見るが、助ける気はなさそうだ。


「あなた、旅館の女将や同僚どうりょうにも言わない、事件に関係ないかもしれないことでも何でもいいんですが、気になっていること、ありませんか?」


その笑みに、ぞくり、と背中が震える。

しかし、脳裏のうりに一つのことが思い浮かぶ。

この人達になら言ってもいいのかもしれない。

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