第4話 女将
「さて、皆さん集まりましたね」
ユイトとカナタを部屋に送り届けたあと、仲居の召集がかかった。
従業員室に入ると、多くの仲居がサナに目線を送った。
急いで列に並ぶが、女将の視線からは逃げられなかった。
「今回起きたことについて説明します。まず、蘇芳の間でお客様が何者かに殺されたようです」
蘇芳の間はサナの担当する沢の間の隣の部屋のことだ。
「今、警察を呼んでいますが、到着までは時間がかかりそうです。それまで、あの間には入らないように。現在は鍵を締めて、発見時のままにしています」
それはユイトの指示だった。
警察に友人がいるらしく、なにか起きたときにはそうするように言われた、という。
「第一発見者は同室のお客様で、大浴場から帰ってきたところ、発見したとのことです。今は部屋を変えて過ごしていただいてます。他のお客様には事故が起きた、と説明してください。また、状況がはっきりするまでは外出を控え、お部屋で過ごしていただいてください。大浴場や遊技場は閉鎖しています。不審者を見つけたときにはすぐに警備を呼ぶように。特に」
女将の鋭い視線がサナに向かう。
「個人情報ですので、事件について詳細は伝えないように。上記をお客様にお伝えしてください。解散」
わらわらと仕事を始めても、何かを監視するように女将はその場で立ったまま。
その監視の目が主に自分に向いている気がしてサナは居たたまれなかった。
多分、女将はあの場で他人に指示されたのが気に食わないのだと思う。
あの状況をサナが収めていなかったのも。
「お客様に説明してきます…」
他の人たちからの目線もあって、居心地が悪い。
逃げ出すようにサナは客室へと向かった。
* * *
「…どこだ…」
女将に言われたことをユイトやカナタに伝えるために彼らがいるだろう沢の間に向かったのに、誰もいなかった。
ただでさえ女将に目をつけられているのに、これ以上何か起きたらクビにされるかもしれない。
別の冷汗がこめかみを伝い、慌てて旅館内を探しているところだ。
「あ、サナ!」
大浴場や遊技場にはいなかった。
もう各階を探すしかないと腹をくくったところで声をかけられる。
急いでいるがお客様がいなくなったなんて知られたらとんでもない。
サナは冷静なフリをして答えた。
「どうしたの?」
話しかけてきたのは、サナの同僚で中の良い仲居、ミキだった。
そして、事件が起きた蘇芳の間の担当。
ただ様子が変だ。満面の笑みだ。
「あのね!あなたが担当していたお客様ってとても素敵な人なのね!私感動しちゃって!で、その人達がきっとサナが困ってるだろうからって伝言を預かっているの!」
「えっと、何の話…?」
なぜミキがその話をするんだ?
話の意図が見えない。
しかし、ミキは気にしている風もなく、堂々と言い放った。
「あなたのお客様に、私のお客様の部屋へ連れて行ってほしいって言われて。一緒に泊まりにきた方が亡くなってきっと不安だろうからって!」
嫌な予感しかしない。
サナは走って件の部屋に向かった。




