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第3話 蘇芳の間

「お、お客様⁈」


サナより先に部屋を飛び出したユイトとカナタを追いかける。

息を切らしながら、二人の背中に追いついたとき、その間から見えた光景に目を見開く。


「っ!」

「見ない方が良い」


声が出なかった。

詳細を確認するよりも早く、視界が手でおおわれる。


「ユイト、そいつを頼むぞ」

「はい」


低く落ち着きのある声。

その主がカナタだと気付くまで少しかかった。

カナタは部屋に入っていき、サナの視界はユイトの姿に変わった。


「い、一体何が…」


呼吸が落ち着いてくると、周りの音が聞こえてきた。

複数の人の声と足音。


「どうした?」

「叫び声はここからか?」

「皆さんは入らないでください」

「何事ですか?」


集まってきた人に、ユイトがそう呼びかけている。

そんな中、一際凜りんとした声。

サナは思わず振り返る。


「女将…」

「サナ、これはどういうことですか?」


周りをぐるりと見渡して女将が鋭く言う。


「あの、その…」

「あなたが責任者ですか?」


言いよどむサナの肩を支える手。

見上げると、中に入っていたはずのカナタがそこにいた。

食事をしていたときと表情は変わらない。


「中で客が一人死んでいます。すぐに警察を呼んでください。どうやら殺人事件のようですので。それとこの人は俺の部屋の担当ですが、この部屋の仲居はいますか」


淡々と、先ほどの低い声で状況を伝える。

サナが口をはさむ暇もなく的確で、開いた口がそのままになってしまう。

女将も圧倒されたようで、ぐっと喉元のどもとを押しとどめてから「わかりました」と一言言った。

最後にサナをにらむのを忘れない。


「サナ、あなたはそのお客様を自分の部屋に案内して…」

「まずはこの野次馬やじうまをどうにかしてください。見世物じゃないんでね。それと、この部屋のもう一人の客が第一発見者なので、その扱いを考えてください」

「っ、わかりました…」


女将はサナから目を離し、言われた通りに指示をしていく。

他の仲居も集まってきていて、指示に従っていく。

その様子をカナタと部屋の前に立ったまま眺める。


「あ、ありがとうございます…」


カナタの腕が無ければ、力が抜けて座り込んでいたことだろう。

それにあの女将が怖いことは誰よりもよく知っている。

見上げると、こちらを見ていたカナタと目が合う。


「…別に」


先ほどの饒舌じょうぜつはどこに行ったのか。

短くそう言ったきり、黙りこんでしまった。


「サナさん、大丈夫ですか?」


ユイトの心配そうな表情が視界を遮る。なんだか安心感がある。


「あ、なんとか…」


足も地に着いてきた気がする。

そして感じるのはカナタの体温。

ぶわぁと顔に熱が集まってきた。


「あああ、すいませんすいません。お客様になんてことを…」

「ふふ、気にしなくていいですよ」


カナタから慌てて離れて頭を下げた。

ユイトの優しい声色がふってくるが、それどころではない。

頭では一気に情報処理が始まる。

誰かが死んだ。いや、殺された?女将が来た。カナタが喋った。女将の相手をしてくれた。サナ以外の仲居が動いてくれている。ユイトが助けてくれた。


「あの…一体何が起きました?」


サナの問いに、ユイトはただ微笑み、カナタは眉にしわを寄せた。

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