第2話 カナタとユイト
「こっちにきたら?カナタ。おいしいよ」
銀髪を揺らしながら、茶菓子を頬張るユイトは、庭を眺めるカナタに呼びかける。
仲居が部屋や施設の案内をしている間も、ユイトが荷物を整理している間も。
ずっと同じ表情で中庭を眺めている。
実はその目線は一転ではなく、中庭の細かいところまで視線を走らせているのは分かっている。
ずずず、ユイトはお茶を飲む。
「おお、うまい」
あの仲居。
若いようだが、仲居として経験がありそうだ。
案内の口調、お茶を淹れる仕草、そしてお茶のおいしさ。
「やるねぇあの仲居さん」
「おい、誰にでもへらへらすんじゃねぇよ」
「大丈夫大丈夫!僕ら水入らずの旅行だもんねぇ」
「うるせぇ」
気が済んだのか、中庭から目を離したカナタは、ユイトの前にどかっと座る。
しかし、仏頂面はかわらない。
「…ユイト、匂うぞ」
ぼそっと呟くように言ったカナタの言葉に、ユイトの口元がほころぶ。
「そっかぁ」
ユイトは微笑みに意地悪さを添えた。
* * *
「こちらが本日の水物 季節の果物です」
「おおー!」
部屋に夕食を一つずつ運んでいく。
できたての食事を鮮度が落ちないうちに運んで、客人の前で最高の状態で提供する。
ユイトは喜んだように振る舞ってくれるのに、カナタは眉一つ動かさない。
「温かいお茶も用意できますが、用意いたしましょうか?」
「ああお願いします」
問いかけても返事をするのはユイト。
口を開かないカナタはユイトに全てを預けているようだ。
これが信頼関係か、と半ば興味をもちながらも、サナはお茶を淹れ、空になった食器を片付けていく。
「本当においしかった。さすが噂に聞く蝶の宿さんだ」
「ありがとうございます。料理長にも伝えますね」
「それにサナさんのお茶もおいしいよ」
「ありがとうございます」
「ね!カナタ!」
「…」
ユイトの言葉に、カナタがちらりとサナを見るが、無言のまま果物を口にいれる。
話が苦手なタイプなのだろう。
夕食の準備中にサナはそう分析していた。
笑顔は変えずに、「よかったです」と気にしていないように返す。
「ところで…」
事件が起きたのはそのときだった。
「うわああああ‼」
時が一瞬停止した。




