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お嬢様は笑わない  作者: ゆなみ
前編
3/17

#2

 リュシアンが手を回してくれたという王立学園の編入テストを受けることになった。

「テストを受けるのは君だけですから、質問は随時受け付けます。筆記テスト、実技テスト、その後に面談をしてどの学年に編入するかを決定します。年齢ではなく学力で判断して編入することはよくあることですから、あまり気負わずに受けてください。では、始めてください」

 渡されたテスト用紙の隅に、気になる言葉があった。

「質問よろしいですか?」

「なんでしょう?」

「これ、『初等部用学力判定試験』と書いていますが、合っていますか?」

「合っていますよ。低学年から高学年まで様々な問題が用意されていますから、ボリュームはあります。時間に不安がある場合は言ってください。考慮しますから」

「……はい」

 王立学園には初等部と高等部がある。五歳からの初等部と、十歳からの高等部。提出している書類にはちゃんとアイリスは十三歳であることが書かれているはずなのだが。

 リュシアンが村を訪れた際、アイリスを幼い子ども扱いしていた。その勢いで初等部へねじ込んだのではないだろうかと訝しんでしまう。が、いざテストを受けてみると、学力の偏りを突きつけられてしまったのだった。

 表情で訴えることができないならば、言葉で伝えねばならないと考え、語彙力強化のためにアイリスはよく本を読んでいた。読み書きは、字は少し下手だが、問題ない。算術は、四則演算の範疇ではあるが、農作業は案外計算することも多いため初等部レベルなら問題はない。自然科学は肌感覚で初等部レベルならば理解できたが、錬金科学は壊滅的だった。歴史は読んでいた書物の中に知識があったので、ある程度はできた。地理と公民は本で得た知識で推測できる部分はあったのだが、目も当てられない結果になった。自分には初等部がお似合いなのかもしれない。

 実技のテストは身体能力を見るのかと思っていたのだが、社交ダンス、マナー、魔法のテストだった。

 社交ダンスは経験がないため、その場で最低限教わり、どうにか踊れた。及第点にも満たないだろうと思ったが。

 マナーは壊滅的。無表情も減点ポイントかと思われる。

 魔法はというと──。

 魔法学の教師はいかにも好々爺とした男性だった。

「私はガライルという。よろしく、アイリス君」

「よろしくお願いします」

「早速だが、アイリス君は自分がどれくらい魔法を使えるかわかるかい?」

「それに関しては二点……いえ、三点先にお伝えしておきます」

「なにかな?」

「火の魔法は得意ではありません。私の魔法の師匠は曽祖父なのですが、トーヨーの出身でトーヨー思想の魔法を使います。やり方も古いかもしれません」

「なるほど。トーヨーの思想は座学で少し学ぶ程度だね。こちらの魔法学に合わせてもらうことになるが、構わないかな?」

「はい。実践は四大元素それぞれの魔法でよろしいですか?」

「ああ。杖は必要かい? 練習用のものであれば貸し出せるよ」

「いえ、大丈夫です。これで」

 アイリスはハーフアップにした髪からかんざしを抜き取った。軸は真鍮でできており、赤いコロンとした珊瑚が飾りとしてついている。

「珊瑚の杖かい? ふふっ」

 ガライルが少し笑った理由には、心当たりがあった。

 魔法を使う際、杖は必須ではない。追加効果が付与された杖もあるが、それはまず魔法が使えなければ効果はない。アイリスが杖を使うのは、座標を定めやすいからだ。その辺に転がっている木の枝でも目的は達せられる。

「火の魔法は火をつけるくらいです」

 テストは屋外の練習場で行なわれた。

 魔法の実践のための道具は様々用意されていた。ろうそくを作業台の上に置き、かんざしをかざす。

 ぽっと火が灯った。

「苦手と言うけれど、使えるんだね」

「ええ。本当に最低限ですが、マッチ程度の火でも便利ですからね」

「なるほど。アイリス君は実践的な魔法を使うんだね。私はそれも好きだよ」

 魔法の四大要素は、火、水、土、風だ。どれも生活に密着している。うまく使えば魔法は生活を豊かにしてくれるものなのだ。アイリスの場合、その「生活」という言葉には、農作業が多く含まれていた。

「次、水と風を使います」

 言いながら、太陽の位置を確認する。かんざしを振り、水を出現させる。すかさず風を送り込み、水を散らす。水滴となった水は地に落ちる。一瞬だけ虹を作りながら。

「次、土を使います」

 足元から小石を拾い、作業台の上へ。こん、とかんざしで突き、石を砂へと変えた。

「これでどうでしょうか? もっと規模の大きい魔法使いますか?」

「基礎は見れたから十分だよ。それにしても、ふふっ、珊瑚の杖か。アイリス君は知ってるかな? 先の大戦で活躍したという、珊瑚の杖の魔法使いの話を」

「ええ、知っています」

 かんざしをハンカチで軽く拭い、髪に戻す。

「私も少しだけ戦場を共にしたことがあったんだ。まあ、下っ端だったがね。赤い珊瑚の杖を振るい、大草原に海を出現させた。兵士は溺れ、地に伏した。魔法を解けば残るのは敵兵のみ。いやあ、捕虜の収容に困ったくらいだったよ。恐ろしくも美しい光景だった。ここは内陸地だから、私は本物の海を見たことがないのだけどね。功績を上げた魔法使いは、恩賞として領地を授けられた。杖の、深く赤い珊瑚の色から、カーマインと……」

 そこでガライルは気づいた。

「アイリス君、カーマインだね。師匠がトーヨーの出身?」

「お察しの通り、珊瑚の杖の魔法使い、ロクドウ・カーマインは私の曽祖父です」

「曾孫さん!? ああ、私もジジイになるわけだ」

 ガライルはワハハと声を上げて笑って見せた。

「伝説の魔法使いの弟子に教えるなんて恐れ多いかな」

「曽祖父からは実践でしか教わっていませんから、学問として魔法は学びたいと思っています」

「そうかい。では、授業で会えることを楽しみにしているよ。──時間に都合がつけば、ロクドウ様のことを教えてくれないかな?」

 ガライルはただのロクドウのファンであった。


 テストと面談の結果、学力にかなりの偏りがあるので、この半端な時期に編入することは見送り、次の年度始まりまで学力を底上げしてから編入することになった。学力の底上げは自主学習ではなく、学園で行ってくれるという。さすがはリュシアンが手を回してくれただけのことはある。待遇が手厚い。

 たくさんの資料と書類を抱えて帰ることになったのだった。

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