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領地を持つ貴族は、王都に身内を置くのが慣習だ。忠誠の証ではあるが、つまりは人質のようなものである。アイリスはそのために王都に住んでいた。姉家族が王都に移り住むのであれば、アイリスは王都にいる必要がなくなる。
学校に通っているという理由もあるのだが、
「アイリスくんは学園という枠の中に当てはめられるような人物ではないよ」
と、ガライルに言われる程度には偏りのある成績であった。科目によってはトップクラスの成績であるにもかかわらず、進級基準に満たないため進級のためには補講を受けなければいけないくらいに。
開墾中の農地は、やれるだけやって姉に引き継いだ。姉も農家の娘なのである。
アイリスはあっという間に王都にいる理由を消化してしまったのである。
実家での生活は、鍛錬か農作業でできている。人によってはつまらない生活にも見えるのだろうが、アイリスには安寧の日々であった。王都の生活は楽しかったが、うるさくて煩わしいことも少なからずあった。まだ修行が足りないというのがアイリスの結論である。
「何事も経験するのはいいことだ。アイリスも、王都での生活で“気”に深みが出た」
「なんですか、その煮込み料理に隠し味を入れたような言い方は」
達観した曽祖父には、アイリスにはまだ見えていないものが見えるのである。
アイリスも、王都での生活はいい経験になったと思っている。人の流動がほとんどないこの村では、新しく人と出会うことが稀だ。色んな人がいるのだな(オブラート包み済み)と実感できたのは、王都での生活の中であった。そう思うのは、穏やかな村での日常がアイリスの普通であるからなのだ。
すんなりと穏やかな日々に戻るかと言うと、そうならない程度に、アイリスは王都に爪痕を残していたのである。
アイリスは口を開く。
「王子様は視察と言い張ればどこにでも現れていいものなのですか?」
アイリスの実家の応接室にて、黙っていれば大変麗しいリュシアンの口元を引きつらせていた。
相対するのはもちろんアイリスである。少し離れてロクドウが控えている。
「……あぁ、そうだとも。私はえらいからね!」
開き直っているのか、ややふんぞり返るように姿勢をかえていた。
「アイリス、なぜ、何も言わず帰ってしまったんだい?」
「必要な届け出は出していますが、なにか不備が? 王都には姉一家が住んでいますから、義理は果たしていると思います。それに、こちらの事情でわざわざリュシアン様のお時間をいただくわけにはいきません」
「──アイリス、君を迎えに来た」
「私の実家はここですが?」
「……城に迎え入れるために、迎えに来た」
「まあ、お戯れを」
そっけなく返すと、リュシアンは泣き出しそうに顔を歪めた。内外問わず交渉事も仕事の一つである王子が、そんなていたらくで大丈夫だろうか。
「理由を聞いてもいいかな?」
「それはこちらの台詞ですが?」
「……私が君に好意的であることはわかっていると思っているのだが、ちがうだろうか?」
「リュシアン様がご結婚なさる相手は、政治上の都合で選ばれると思っています。好意のみでどうにかなるのは、物語の中だけですよ」
「見初められて王妃になった庶民など、いくらでもいる。珍しくはあるが、ない話ではない。それに比べれば、君は十分な立場にあるだろう」
「殿下との婚約が可能であるという以上の意味は持ちません。それはご命令ですか? 私も土地を与えられた地方貴族の娘ですから、強くおっしゃられると、拒否できませんよ」
「それはさすがに職権乱用だ。アデルにも呆れられる。私はただ、強く気高く美しい君を愛しいと思っているだけなんだ」
政治的意図はない。ただの好意のみである。そういうことなのだろう。しかし、第二王子としてはむしろ政治的意図がなければならないと、アイリスは思う。王子様に見初められてお姫様になる女の子は、物語の中でこそ活きるのだから。
「では、私からも理由を申し上げます。『気高く美しい』はよくわかりませんが、私は強いです。本当に。いずれ、曽祖父から珊瑚の杖を受け継ぐつもりで、鍛錬を積んでいます」
「それはすばらしいね。と、いう話ではないのかな?」
「えぇ。だから、リュシアン様とともに生きることはできないのです」
「──? 鍛錬を止めるように言うつもりはないよ?」
後ろで控えていたロクドウがアイリスのとなりにどかっと腰を下ろした。
「もちろん、そんなことを言うならば、そもそもお断りだ」
「あら、ジジ様。よろしいのですか?」
「こうなったら、ぐうの音も出ないほど納得させなければ引き下がらないだろう。ひ孫の進退だ。口くらい出す」
「……ひ孫?」
「私、人の及ばぬところまで強くなるつもりです。自力で、魔女をも凌ぐほどに。こちら、そのモデルケースのロクドウ・カーマインです」
「……ロクドウ?」
髪は白く、小柄だが、はつらつとした青年に見えるアイリスの曽祖父は、先の大戦で名を馳せたその時にはすでに人の及ばぬ領域に達してた。アイリスはもちろん、当人も正確な年齢がわからないくらいに。
「私、こうなる予定です。今のところ、師匠のもと、順調にその道を歩んでいます。申したはずです。私は、リュシアン様が思う何十倍も生きるつもりでいるのです。リュシアン様のおそばには、いられないのです。私は、リュシアン様の一生に寄り添うことはできますが、リュシアン様はそれが叶いません。それでもかまいませんか?」
ただでさえ小柄で幼い少女のように見えるアイリスだ。老いから遠ざかり、その幼さを持ったまま、年老いていく者に寄り添うことは到底できないのだ。
「俺の嫁──ベネディクタは、子をなすためにあっさり魔女であることを手放した。そして、先に死んでしまった。これからも愛したものを失った喪失感を抱えたまま、俺はまだ長く生きるつもりでいる。俺の勝手なワガママだが、アイリスにはそんな気持ちを知ってほしくない。だからジジイは反対するぞ! お前のような弱っちいやからにうちのひ孫はやれん!」
「ジジ様に言わせれば、弱っちくない人は殆どいないのですけどね」
身分の差など些細なものだ。それは強者だから言えることだろうが。それは、双方が“人”だからだ。身分と言っても、人が作った決まり事に過ぎない。やろうと思えばどうとできる。しかし、アイリスの場合はそれ以前の話なのだ。いずれ、人の枠を超えるつもりでいるのだから。
「無理やりにでも連れて行くと言うなら、俺は英雄という評価を反転させることになる。よくしてもらったが、ひ孫を差し出すほどの恩も義理もない。国の一つくらい滅ぼすさ」
「英雄が私情でそんなことをする、と?」
「先に俺を英雄扱いしたのはお前さんたちの方だ。そう呼ばれたかったわけじゃない。先の大戦も、誰に頼まれるでもなく、私情で参加しただけだ。たまには大規模魔法も使いたいからな。タイミングの問題で、敵国についていた可能性もあった。繰り返すが、俺にはこの国のために何か成そうとするほどの恩も義理もないんだよ。今は、ベネディクタが残した子らと、愛弟子が何より大事だ。俺に愛国心など期待しないでくれ。戦争が得意な英雄は、戦争がなければ疎まれる存在なんだ」
以前にロクドウが言っていたことがあるのだが、王都から遠くの領地を与えられ、王都に血族を置くことを五十年免除したのは、封じ込めの意味もあったのだろうと。戦争における英雄は、いつ反転するともしれない恐怖の対象になりうるものだ。
リュシアンは小休止のように、ふう、と息を吐いた。
「アイリス、君は、果たせない約束はしない気質だろう」
「果たせない約束は、約束とは言いません。放言といいます」
「ふふっ、そうだね。一生守ってくれると約束したと思ったのだが?」
「この国を守ることは、リュシアン様を守ることでしょう。人は、まず何より食べなければいけません。ここで食料を安定して生産することは、この国の安寧につながると、私は思っています」
「そう。それはアデルと聞いた時の『守る』のニュアンスだ。『私は一生寄り添ってくれる婚約を了承した』というニュアンスの約束もしたんだ、君と」
「記憶にございませんが、何か正式な文書があるのですか?」
「ないよ。前にも言ったかな。夢の中での話だと思っていたからね」
「あら、アデル様のお言葉ですけど、乙女がすぎるのではないですか?」
アイリスの顔面は内心を反映せず、ピクリともしない。
「どうやら夢の話ではないという証拠が見つかってね。つい今さっき、君は『私が思っている何十倍も生きる予定だ』と言っていた。君が以前にも言っていた通り、と。私はそれを聞くのはたしかに二回目なんだ。ただ、一回目はその夢の中だったんだ。私が勝手に見た夢であるなら、なぜアイリスは今回が二度目とカウントしたんだい?」
アイリスが仙人を目指して修行中であることを知るものはほとんどいない。こちら風に説明すれば、魔女の始祖に頼らず自力で魔女になるようなものだ。魔女の始祖に認められることすら正気の沙汰ではないというのに、言わんや仙人をや。アイリスは他人にどう評価されようが気にしないタチではあるが、下手に公言しては煩わしいことになるのは想像に易い。ロクドウも今はほとんどロクドウを名乗ることはなくなっているくらいに。アイリスもほとんど誰にも言っていないくらい。
だが、確かに言った。夢と思わせたあの時に。アイリスは憶えていた。だからといって、所詮人の曖昧な記憶でしかない。記憶は、証拠にするにはむかないのである。
「言ったかもしれませんし、言っていないかもしれません。私の記憶違いかもしれませんね」
いつ、どこで、何を言ったのか、ほとんどは記憶の奥底深くにどんどん投げ込まれるものなのだ。
「……探偵小説のようにはいかないものだね」
リュシアンは怯んだ様子もなく顎を撫でた。一瞬目を伏せ、まっすぐアイリスを見つめてきた。「確信があるのだ」と言いたげに。
「先日、魔女を拘束した。正しくは、魔女だったものだな。私に呪いをかけた呪いの魔女だ」
ヒヤリと背中が冷えた。動かない顔面だが、かすかに口元に力が入る。
「誠意を持って聞き出したよ。呪いは王の血に連なるものだけじゃなく、外から来た婚約者にまで有効なのだそうだ。解呪がどうして行われたのかも聞いた。ロクドウと会ったという話も。一緒にいたのは黒髪の少女だということも。君だね? 私との婚約の意思を見せて、わざと呪いを受け、その呪いを伝って魔女にたどり着き、魔女を成敗したのは」
リュシアンは穏やかな声で告げた。「魔女のわりに足りていない」印象だったが、捕縛されているとは。印象は間違っていなかったようだ。さすがに元魔女当人を出されては、言い逃れは難しい。
「……タイム」
アイリスが言うと、ロクドウは気を利かせて音声遮断の魔法を展開してくれた。
「さすがに、あれがとっ捕まるとは思っていませんでした」
「俺が名乗ったのもよくなかったか……」
読唇を警戒して口元を隠しつつこそこそ話し合う。
「記憶違いで押し切るには強い証拠が出てしまいましたね。魔女を捕まえたのがブラフなんていうことはないですよね? それにしては魔女しか知らない情報が出すぎです」
「細部までは見ていないが、嘘はついていない。本当だろう。魔女に証言をさせたのも」
「だからと言って受け入れるわけにも……」
「お? 国を滅ぼすか? それとも一〇〇年くらい修行の旅にでも出るか? 俺は愛弟子兼ひ孫を優先させるさ」
「一生守るという宣言を反故にするつもりはありません。しかしそういう好意ではないでしょう、婚約とか結婚とか。そもそも私をそういうふうに好きになる意味がわからないんですけど?」
顔面の表情筋はあまりにも動かないが、声は荒ぶる。そもそもなぜアイリスなのか。王子様を全うしているリュシアンがここまでする理由が全くわからないのだ。
「聞いてみるしかあるまい」
「それは……そうですね。ジジ様、いざとなったら旅に出ましょう」
「ははっ、楽しみだ」
音声遮断の魔法を解いてもらい、改めてリュシアンに向き合う。
「私が深夜、忍び込んでリュシアン様とお話ししたことは認めます。不法侵入ですか? 不敬罪ですか?」
「そういう意味で捕まえに来たわけじゃないよ。私に危害を加えたわけでもなく、むしろ呪いをどうにかしてくれたんだから、帳消ししてもあまりある。私はあの夜の約束について話したいんだ。私は君を孤独にさせない。君は私を守る。そういう約束だっただろう?」
「私は孤独ではありませんから、その点はお気遣いは不要です。リュシアン様を守るというのも、例えば魔女の呪いを退けたように、御身の安全の意味以上のことはありません」
「しかし、元魔女は『王族とそのパートナーと認められるものが呪いの対象だ』と言っていた。アイリスもその呪いを受けたのだろう?」
「呪いの仕組みは知りません。元魔女の言うことは信じるのに、私の言うことは信じてくださらないのですか?」
アイリスは強気に言うが、一時しのぎだと思っていた。まだ元魔女の口述しか情報は出されていないが、呪いの解析が行われれば、アイリスが仮初めとはいえ婚約の約束をしていたことがバレてしまいかねない。そうならないことを願うより、妥協点を探した方がいい。
「理由お聞きしてもよろしいですか? 王子様に見初められた、ただの女の子がお姫様になることは、現実にはそんなに甘い話ではありません。好意のみでどうにかしていいものではないことを、王子様を全うしていらっしゃるリュシアン様が考えないわけないでしょう。どうしてそうまでして私を引き込もうとするのですか?」
「引き込もうとしているなんて、人聞きが悪いな。君をお姫様にしたいから、じゃダメかな?」
「それが一番嫌なんですけど」
「あれ?」
「乙女が過ぎますよ、リュシアン様」
地位も力ではあるのだろうが、アイリスが欲しいタイプの力ではない。興味がないを通り越して、忌避したいとすら思っている。
「呪いの魔女すら退けたボディーガードをやすやすと手放すものか。どう振る舞おうが私をよく思わないものは出てくるものだ。そばにいてもらうために必要な理由を手っ取り早く作るには、身内になってもらえばいい。そういう意味でもそばにいてほしい」
「他にどういう意味が?」
「もちろん、君への好意だよ。君は高潔で美しい。己の芯を持ち、どんな場所でも自分の足でしっかりと立っていられる。同時に小さくて可愛らしく、守りたいとも思ってしまう。君は不思議だ。もっと知りたくなってしまうんだよ」
「それはまあ、趣味がわる……変わったご趣味ですこと」
「その言葉、自分に返ってくるけどいいのかい?」
「普通の女の子は、王子様に喧嘩を売ったりしませんよ」
「あぁ、自覚があるんだね」
さすがのアイリスも知っているのだ。クマを絞め殺せる人間は、そうそういるものではない、と。
「リュシアン様の理屈は理解しました。リュシアン様を守るという点に異存はありません。そのためにリュシアン様の近くにいられるようにしようというのも理解できます。ただ、その方法が、私を婚約者にすることによってという点は短絡的かと思います」
「そうかい? いい案だと思ったのに。どういう点で考えが足りなかったのかな?」
「私の気持ちを無視しているところですね」
「お姫様はダメかい?」
「ダメです。私はそこに立てるようなものではありませんから。ですから私に適した立場を作ってください。まあ、愛妾でしたらギリギリ受け入れます。王宮に入るつもりはありません」
「どうしても入ってくれと言ったら?」
「ジジ様と修行の旅に出ます」
「五〇年くらいでいいかな? キリよく一〇〇年行くか?」
「すぐに検討しよう! そばにいてくれるのに、懐には入ってくれないのかい?」
「リュシアン様、もっとセキュリティ意識を高く持ってください。気軽に人を懐に入れないでください」
「アイリスだからだよ。誰でも招き入れたりはしない」
リュシアンは単なるお人好しではない。王子様を全うしているというのは、王子様像だけではない。為政者としての素質もよく備えている。何を根拠にしているのだろうかと思うのだが、リュシアンのその人を見る目はアイリスを認めているのだ。
「私はロクドウの血を濃く受け継いでいます。トーヨーの血のため、この通りちんちくりんの体は、もうほとんど成長しないでしょう。そして自力で魔女に匹敵する魔法使いになるために鍛錬を積んでいるので、いずれ来る老いはずっと先になります。一〇年ぐらいはいいでしょうが、二〇年、三〇年もこの容姿が続くとなれば、恐怖の対象になり得るんです。『王子のそばに化け物がいる』と。そうでなくても……」
「なにかな?」
「ロリコンのそしりは免れないかと」
「なっ……!」
アイリスには自覚があった。小柄で幼く見えるゆえに舐められがちなことを。
「お考えを改める気は?」
「ないよ!」
リュシアンはまだロクドウの化け物じみた存在を理解していないのだろうか。アイリスもいずれそうなるつもりでいるのだが。
「俺を化け物扱いとはひどいぞ、我がひ孫よ」
「あら、ごめんなさい。すぐそちら側に参りますから許してください」
「うむ。さすが俺の後継者候補は肝が据わっているな」
ロクドウは幼い子にそうするように、アイリスの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「アイリスはこれからそうなる予定ではあるが、お前さん達とは次元の違う道を歩んでいる。俺と同じように。今は俺たちの方が降りてそばにいてやっている。いずれまた道は分かたれる。アイリスが『お前さんの一生』と言ったからには、アイリスはそこまで付き合うつもりだろうが、お前さんには『そうさせている』という覚悟と自覚はあるのだろうな?」
ロクドウは静かだった。寒くないのにヒヤリとするような静謐さであったが。
そんなロクドウに対してもリュシアンは動じたようには見えなかった。表情が顔に出過ぎなのではないかと思うことも多いが、王族たる胆力も兼ね備えているようである。
「ああ、もちろんだとも。初めてここを訪れた時は視察地の一つでしかなかったが、今回は覚悟を決めてアイリスのために来たんだ」
訴えるリュシアンにロクドウは鋭い眼差しを向けている。嘘はないか、読心しているのだろう。
「まあ、いいだろう」
何を読み取ったのか、「仕方なく認めてやる」という風な口ぶりだ。
「何か不満が?」
「おっと、すまないな。お前さん個人の話じゃない。お前さんが気にすることじゃない」
「余計に気になる言い方をしておいて。受け止めますので話してください」
「一貫性がないと思っただけだよ。と言っても、俺だって気が変わることはいくらでもある。同じ人間の中でも方針はいくらでも変わるからな」
「私の気持ちが一過性だと?」
「そこじゃないさ。英雄と称えておきながら、こんな田舎に閉じ込め、次には『王都に来い』という。義務を果たしているのにまた呼び出され。まあ、それらは同じ人間からの命令ではないからな。一貫性を求めるものじゃないとわかっているさ」
ロクドウにとって数十年は大した長さではないのかもしれない。アイリスはまだそこにはたどり着けていないのでわからないが。
「確かに保証はできないが、私はこの気持ちを持ち続けるよ。口先だけの言葉になるだろうけど。──交渉は成立したと思っていいのかな? 私はアイリスのために役職を作ろう。私を守るためそばにいられるように。アイリス、一生そばにいてくれるかい?」
「ええ。おそばで一生、リュシアン様をお守りします」
「帰ってからすぐに取りかかる。知らせを待っていてくれ。一生守るというほどに、私を思ってくれているのだろう? どうして正室になってくれないんだい?」
「私はリュシアン様を大変好ましく思っています。しかし、為政者としての王子様であるリュシアン様であって、お伽話の中の王子様のようなリュシアン様ではないのです。為政者としての王子様は、私のような魔女に匹敵する怪しいものと結婚したりはしないのですよ」




