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お嬢様は笑わない  作者: ゆなみ
後編
14/17

##5

 収穫が落ち着き、久しぶりのお茶会である。

「せっかくお誘いいただいたのに参加できずに申し訳ないです。遅れてしまいましたが、プレゼントを受け取ってもらいますか?」

「ええ、もちろんですわ!」

 予想通り、アデルの誕生日パーティーには参加できなかった。あらかじめ侍女に渡しておいたものがアデルの手に渡る。

「まあ!」

 ドロップ型に磨かれたピンクの珊瑚が下がっているだけのシンプルなネックレスである。珊瑚はアイリスがカットと研磨をしたが、金具までは作っていない。ちゃんと宝石商のつてで買い付けた、ちゃんとした貴金属なのである。

 アデルが首元に当てると、すっと立ち上がったリュシアンが後ろに回り、ネックレスの金具をつけてあげていた。

「よく似合っているよ」

「ふふっ」

 微笑ましい兄妹である。

「パーティーにつけて行きたかったですね」

「申し訳ないです。収穫と開墾で忙しかったので」

「責めているわけじゃないのです。イヤリングとお揃いにしてくださったのでしょう? ああ、でもまた珊瑚のアクセサリーが話題になるのは、アイリスさんにも間接的にご迷惑がかかるかしら」

「それはアデル様の気になさることではありませんよ」

 実のところ、忙しかったことは嘘ではないのだが、アデルの珊瑚の新アイテムがまた話題になるとアイリスにも何か降りかかってきそうで、渡すのをパーティーの後にしたのだ。

「そういえば、その開墾について聞きたいことがあるのだが」

「何でしょうか? すぐに許可を出していただいたので、もう取りかかっていますが」

「害獣よけの結界を張るために魔術師を派遣したのだが、もう強固な結界が張られていたと報告を受けている。アイリスがしたのかい?」

「私が張りました。既に張られていたものと同じような展開をしたのですが、間違っていましたか?」

「いや、とても綺麗な術だと感心していたそうだ」

「農家の娘ですから。……あ、もしかして勝手にしてはいけませんでしたか? 同じように展開できると思って自分でしてしまったのですが。そうですよね、獣よけとはいえ、国防にも関わることですね。申し訳ないです。浅はかでした」

「今回は十分な強度の結界であると確認できたから問題はない。用途が限定的な魔法だから習得者も少ない。だから必然的に我々からの派遣を待ってもらうものだが。そうか、農家の娘には当たり前……なのか?」

 当たり前というほどではないが、アイリスの村では数人使うことができる魔法だ。珍しいわけでもない。王都郊外での畑仕事の時に話を聞いたのだが、農業用に特化した魔法はそもそもほとんど知られていないようだった。偉大な魔法使いである曽祖父がそばにいるため、感覚が違うことをしったのは最近のことである。

「結界があるとは言っても、害獣が出たということも聞いている」

「はい。クマが三匹。毛皮もいい素材になりますからね。三匹とも絞め殺しました」

「しめっ……!? 収穫祭で熊鍋を振る舞ったというのは本当だったのかい?」

「はい。この辺りでは食べないそうですね。クマは開墾の副産物のようなものですから、許可をいただいて、うつわの代金だけで振る舞いました。マルシェで顔見知りになった方や、縁のある孤児院の方が来てくださって、どうにか売り切ることができました」

「それは……よかった。すごい、ね」

 言葉に迷ったようで、リュシアンの言い方は年齢感が下がっていた。

「全て鍛錬の一環です。それに、クマにはクマの生活があるところを、私の理由で切り開いて脅かしたのですから、その責を最後まで面倒を見なければいけないと曽祖父から言われています。最後まで無駄なくいただきました。クマの毛皮、献上しましょうか?」

「気持ちだけ受け取っておくよ」

「私は気になります! 熊鍋も!」

「肉は残していません。熊鍋に興味は持たないでください。アデル様が口にするようなものではないですよ。毛皮は後日届けさせます」

「アイリスさんが届けてくれないのですか?」

「すみません、少し立て込んでいるし、お約束できないのです。収穫が終わっても気は抜けません。次に取り掛からなければいけませんから、開墾もまだ途中です」

 加えて、学業も進級のための補講が課せられ、姉夫婦が王都に住むことになったため、その手伝いもあるのだ。

「ですから、次のお約束はできかねます。申し訳ないことですが」

「そうか。残念だけど仕方ないね。でも、それはアイリスがすべきことなのかい? 結界も張ってしまえば、あとは人を雇えばいいだろう」

「普通ならそうすべきでしょうが、私には全てが鍛錬ですから。それに、農作業は落ち着きます」

 人を雇うだけの資本は十分にある。資金を溜め込まず市場に流すためには人を雇った方が健全ではあるが、ロクドウいわく鍛錬になるということで進んで作業をするようにしているのだ。

「私の知らないことばかりですわ、お兄様。今度私も連れて行ってくださいな」

「遊びに行くわけじゃないんだぞ」

「視察といえば、どこにだって行けるなんて、職権乱用ですわよ!」

「なっ……! そんなことはないぞ! これも立派な仕事だ。しかし、アイリスが麦を刈ってきたところはとても美しかったな。ただ歩くだけで次々とひれ伏していくようで」

「私、そんなに偉そうに見えましたか?」

「違うよ。とても気高く見えたんだよ」

「私も見てみたかったですわ。またお話聞かせてくださいね」

 兄妹は同じ顔で微笑むのだった。


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