閑話 イギリスのとある屋敷内
「……」
「……」
豪華なソファーに腰掛け、何かを真剣に見つめる幼い女性の隣でタキシード姿の中年男性が無言でティーカップに紅茶を注ぐ。
女性の見つめる先には青白いウィンドウのようなものがあり、そこには真紅の人型のトカゲのような生き物と人間の少年とが戦っている映像が映っている。
「……ねぇ、デヴィッド」
「はい、何でしょうか? お嬢様」
デヴィッドと呼ばれた男性はそう言いながら女性の前にある机の上に紅茶の入ったティーカップを置く。
その時持ち手が男性から見て奥、女性の右側になるようにして調整する。
「彼をどう思う?」
女性は男性に対してそう言いながら机の上に置かれた紅茶を右手で持ち香りを嗅ぎ、笑みを浮かべる。
「どうとおっしゃられましても、私は会ったことも無いですから何とも」
「会った事が無いのは私も同じ、そうじゃなくて彼の戦いを見てどう思うかと聞いてるのよ」
「戦いですか……そうですね。彼の少年の強さは明らかに頭一つ抜けていると感じますね。果たしてそれが天性の物なのか、あるいは彼の少年だけが有する何かがあるのかまではわかりませんが」
男性の言葉に女性は満足そうに数回うなずく。
「因みにデヴィッドなら彼と同じように一人であのトカゲの相手は出来るかしら?」
「流石にそれは無理でございます。お嬢様」
「そうかしら?」
「はい、そうでございます。何せ私は守りに特化しておりますので」
「なら私と二人ならどう?」
「……失礼ながらそれでも不可能かと」
タキシード姿の男性はそう言いながら女性に向かって軽く頭を下げる。
それに対して女性は笑みを崩すことなく、右手に持った紅茶に口をつける。
小鳥のさえずりが聞こえる程の静けさの中、その静寂を破ったのは紅茶を口に含み飲み込んだ女性だった。
「一応理由を聞かせてくれるかしら?」
「単純に我々では力不足だと思われます。我々では恐らく一撃を与えるどころか一方的にやられるだけでしょう。それに炎を使っている事からお嬢様とも相性が悪いですから」
タキシード姿の男性は頭を下げたままそう答える。
その答えに対して女性はしきりに頷き、にかっと笑みを浮かべる。
「デヴィッド、頭を上げて構わないわよ」
「……先に申し上げておくとやめておいた方がよろしいかと存じます」
女性にそう言われ頭を上げた男性は表情を変えることなくそう言う。
「あら? 私はまだ何も言ってないわよ?」
「彼の少年は我々と同じように恐らくネームドと思われる魔物を倒しています。しかも我々と違い一人で尚且つ犠牲を出さずに、です」
「そうね?」
「となると既に国外への流出を恐れ国から声がかかっているものと思われます」
「そうでしょうね?」
男性の言葉に、女性は何を当たり前のことを言っているの? と言いたげな表情でそう答える。
それに対して男性はあからさまにため息をつく。
「そこまでわかっておいでなら、彼の少年を引き抜こうなどという事は言い出さないでください」
「それなら大丈夫だわ! 引き抜くなんて言わないもの。だってデヴィッド、貴方も言ったじゃない。彼の方が強いと。なら引き抜くんじゃなくて彼の下につけばいいのよ。そうすればパーティーを組んでダンジョンを一緒に攻略できるじゃない」
「何を言っておられるのですか、お嬢様。そんな事許されるはずがありません」
男性はそう言いながら頭を抱え、深いため息をつく。
それに対して女性は意味が分からないという雰囲気で首を傾げる。
「どうして? 彼の方が強いんだから彼の下につくのは自然でしょ? それにいくら彼が強いと言っても一人で攻略するのには限界が出てくるはずよ? なら信頼できる優秀な部下が居た方が彼も嬉しいはずよ?」
「私はそう言う事を言っているのではありません。お嬢様にもそれなりの立場があるのですから、気安く誰かの下につくなどとはおっしゃらないでください。それにそんな事ご両親が承諾されませんよ?」
「それなら大丈夫よ。既にお父様を説得して一度彼を直接見て話をし、自身の剣を捧げてもいいと思える人だったら構わないと許可は貰ってあるから」
「あの当主様は本当に……」
嬉しそうにそう言う女性に対して男性は思わずそんな言葉が漏れる。
「そうと決まれば早く準備して向かうわよ! 日本に!!」
「ご当主様とそこまで話が進んでいるならわかりました。ですがお嬢様……くれぐれも、くれぐれも慎重に行動してください」
「わかってるわ。にしても楽しみだわ! 彼がどう私達を使ってくれるのか……果たして私の剣を捧げるに値する男なのか……楽しみね」
「はぁ~。またお嬢様の悪い癖が……悪い結果にならなければいいと心底願うばかりです」
笑みを浮かべながらそう言う幼さの残る女性を見て、男性はそう言いながら準備をするため部屋を出る。




