第65話 覚悟の戦い
「ねんぴは、わるいが……わるく、ない」
リザードマンはそう言いながら燃え上がる左腕を見つめ、感覚を確かめるかのように握って開いてを繰り返す。
勝機が見えないってのにコイツは長引かせれば長引かせるほど危険ときてやがる!
何せ言動から推察するにコイツは俺が盾に[風魔法]を当てて攻撃を回避したのを見て、自身の体に魔法を使って炎を纏うとかいう意味の分からない成長の仕方をして見せた。
つまりは変に手札を見せれば見せる程、それを吸収し成長される可能性があるという事だ。
しかも言動的に魔物を喰らって強くもなりやがる。
こんな奴がダンジョンの外に出れば……
考えなくてもわかるぐらいには最悪の結末が待っているだろうな。
「……」
リザードマンは握って開いてを繰り返していた手を止め、何を思ったのか手のひらと俺が投げ捨てた折れた剣を交互に見つめる。
どうしたんだ急に?
黙りこくりそんな挙動をし始めたリザードマンに対して俺がそう思っていると、急に燃え盛る左腕を右から左へと勢い良く振った。
直後リザードマンの燃え盛る左手には、《《炎で形成された剣》》が握られていた。
「やはり……ねんぴは、わるいが……わるく無い」
「ハッア! ふざけるなよ……」
そんな光景を見て、俺は思わずそう漏らす。
アイツがやったことをやろうと思えば俺も出来はする。
要は属性魔法で剣の形を形成し、それを持って戦えばいいだけだからな。
ただそれには大きな問題がある。
それは質量のある属性魔法でなければほとんど意味が無い上に、効率が悪すぎるという点だ。
例えば[火魔法]で剣の形だけを形成したとする。
そしてそれを鉄の壁に振った場合、どれだけ振ったところで壁には傷一つつけることは出来ない。
だがそれが[土魔法]で強固に形成された剣なら話は違う。
恐らく一度振っただけで傷をつける事は出来るだろうし、場合によっては壊すことも出来るかもしれない。
つまりは質量のない属性魔法では物理的ダメージを与えることは出来ず、しかも普通に武器を使った方がMPを消費しない分効率が良いのだ。
しかしながらこれは一般的な場合の話だ。
もし仮に壁が鉄ではなく木製だった場合、内容は違えど結果的両者共破壊することは出来るだろう。
そして現状、アイツは鉄の壁で俺は木製の壁ってところだ。
アイツと同じように炎で剣を作ったところでアイツには効かないかもしれないが、俺は普通にあの剣で斬られれば熱にやられる。
それに相手が魔物なら形を操作できるのに態々剣の形に固定して叩きつけるより、貫通力の高い形状にして飛ばしたり伸ばしたりする方が圧倒的に殺傷能力が高いというのもある。
「ふせげる、しゅだんがあるなら……みせてみろ」
リザードマンは一瞬で俺との距離を詰めて来たかと思うと、そう言って炎の剣を横なぎに振ってきた。
正直コイツの前であまり手札は切りたくないし、言われた通りに動くのはかなり癪だが……そんな事を言ってられる状況じゃない!
「……ほおぅ。しゅだんは、あったか」
リザードマンはそう言いながら俺に向かって振り抜いた事によって崩れた剣の形状を再度構築しながら、笑みのようなものを浮かべる。
そして炎をぶつけられたはずの俺はというと、全身を薄い氷のようなもので覆い難を逃れた。
今回俺が使ったのは[氷結武装]だ。
それを全身を覆う鎧にして発動することによって、炎の熱によるダメージをある程度回避した。
とはいえこれはまだレベルも低いこともあってそれほど強度は無い。
故に物理的な攻撃にはめっぽう弱い。
このスキルを発動して尚、熱は完全に防げなかったか……
普通の火魔法ってレベルじゃなさそうだ。
俺はそう思いながら斬りつけられた右横腹付近に熱によるひりつく痛みを感じながらも、表情には出さない。
というかコイツ少しずつ表情が出てきて、しかも喋り方も徐々にしっかりしてきてないか?
それとさっきからコイツが全身に纏っていた魔力が徐々に減っているような気がするのは気のせいか?
「となると……こっちの方が、こうりつは……よさそうだ」
リザードマンはそう言うと左手に持っていた炎の剣が霧散したかと思うと、今度は左腕と同じように右手までも炎で燃え上がる。
「……本当にふざけやがって」
「ほめことば、だ」
リザードマンはそう言った直後に左腕で俺を殴ってくる。
それに対して俺はすぐさま左に軽く移動し回避する。
デカい分避けるにも相手の倍動かないと避けられないんだよな!!
そう思いながら避けた先にはリザードマンの右手からアッパー気味のパンチが放たれる。
俺はそれを後ろに下がりながら上半身を反らしギリギリの所で躱す。
「クッ!」
ただ直撃自体は回避できても、纏っている炎による熱までは躱せないわけで腹部に痛みを感じ思わず声が漏れる。
「やはり……かんぜん、には……ふせげない、みたい、だな」
「どうだろうな!!」
俺はそう言いながらリザードマンから距離を取り、リザードマンをよく観察する。
やはり間違いない。
明らかにアイツが纏っていた魔力が減っている。
考えられる理由は二つに一つ。
一つは時間経過とともに喋り方と表情が豊かになってきてるのを見るに、絶賛成長中である可能性が考えられることから、何らかの成長に使っているという可能性。
もう一つはあの両手の炎。
あれに全身の魔力が燃料として吸われ、もはやあの魔法と同化してしまった可能性。
仮にどちらであったとしても今の所時間は俺の味方じゃない。
むしろ時間が経てば経つほど不利に追い込まれるのは俺の方だ。
なら一か八か今ここで賭けに出るべきだ。
普通の攻撃が効きそうにないなら普通じゃない攻撃をすればいい。
……覚悟を決めろ!
ここで勝負をつけなければ勝ち目は無い!!
俺はそう思いながらステータス画面を開き、残っているステータスポイントを全て魔力に割り振る。
「覚悟しやがれ、デカブツ。お前は俺がここで絶対に倒してやる!」
俺はそう言いながら距離を取ったリザードマンに向かって突っ込む。
それに対してまるで牽制でもするかのようにリザードマンは右足で横なぎの蹴りを放ってくる。
それに対して俺は軽く飛びあがり回避する。
すると飛び上がった俺に向かってリザードマンは五つの火の玉を出し、俺に向かって飛ばしてくる。
ここで止まるわけにはいかない!
多少の被弾は覚悟の上だ!!
俺はそう思いながら指輪から盾を足下に出し、その盾に向かって[風魔法]を放ち飛んでくる火の玉の先、リザードマンに向かって加速する。
「おも、しろい。かくごの、ある眼だ」
俺は飛んできていた火の玉をもろに右肩に喰らい、歯を食いしばりながら痛みにこらえリザードマンの足元に着地する。
「ざんねん、だ」
そんな俺に対してリザードマンは左腕を上から勢いよく振り下ろす。
一瞬の静寂の後、砂埃が晴れた瞬間俺は地面に突き刺さるリザードマンの左腕をガッチリとホールドするように腕を回し、リザードマンの顔を見つめる。
「こちとら火傷するのは最初から覚悟できてるんだよ!!」
俺はそう叫びながらとあるアイテムの効果を発動させる。
すると突然リザードマンが纏っていた炎が消え、更には全身を覆っていた魔力も一緒に消えてなくなった。
予想は後者だったみたいだな!!
俺は心の中でそう歓喜しながら自身と地面、そしてリザードマンの腕を[氷魔法]で固定する。
それと同時に火以外の属性魔法でアイスピックのような先端を尖らせた円錐状の形を形成し、それを全方向に出せるだけだしその全てを[風魔法]で加速させながらリザードマンに向かって飛ばす。
「お前にも弱点の属性ぐらいあるだろ!!」
この為に魔力にポイントを全振りしたんだ!
これで倒れろよ!!
リザードマンはそんな俺の攻撃に対して動揺したかのように腕を引き抜こうとするが、俺の氷によって引き抜くのが一瞬遅れる。
とはいえ氷の拘束自体は力尽くで脱出し、俺はその勢いによって吹き飛ばされる。
馬鹿が……
[風魔法]で態々速度を上げ、更には貫通力を上げる為に回転まで加えたんだ。
回避するにはもう間に合わねぇよ。
俺は吹き飛ばされながらそう思い、自身に向かって飛んできている魔法からまるで心臓を守るかのように右手を胸に当てながら体を丸くする。
「クッ!!」
その後地面に叩きつけられるように落ちた俺はそんな声を漏らす。
直後、洞窟内に凄まじい音とうめき声が響き渡る。
MPが底をつき[氷結武装]も[魔力操作]や[身体強化]による強化も強制的に解除される。
「……これでやれてなかったら……もう無理だぞ……」
俺は背中の痛みと前面の火傷の痛みに必死に耐えながらそんな言葉を漏らしながら、意識を失う。




