第57話 守りの弱点
「斬れそうですか?」
「わからん」
水野さんはそう言いながら刀を軽く振り、棟の部分を右肩に乗せる。
アイツらを仮にリザードマンと呼称するとして、奴らが銃弾を弾いていたのは皮膚が硬いだけではない。
近づいたことによってはっきりとわかった。
アイツらは体表に魔力を纏っている。
果たしてそれがスキルなのかあるいは俺と同じ[魔力操作]によるものなのかまではわからない。
どちらにしてもあまり猶予はない。
正直必死に耐えてはいるが、いつまで持つか……
俺はそう思いながら奥に見えるリザードマン達と三人一組で戦っている複数の人達を見つめる。
一人で太刀打ちできないのなら複数人でというのは十分理解できるし、理に適ってはいる。
ただそれは連携をしっかり取れる前提での話だ。
恐らくここに居る自衛隊の人達以外はたまたま近くに居合わせた人達がほとんどだろう。
つまりは今まで面識すらない寄せ集めということだ。
果たしてそんな人達を三人一組にして連携を上手く取れるか? と聞かれれば正直微妙なところだろう。
今はどうにか耐えはしているが、少しでも綻びが生じればそこから連鎖的に瓦解するのは目に見えている。
「因みに水野さんって他の武器って何が使えます?」
「藪から棒にどうした? まぁ一般的なものなら平均以上には扱えるとは思うが、それがどうしたんだ?」
「なかなか激しくなりそうなので一応確認をしておこうと思いまして」
「大体察しはつくが、俺はもうおじさんで少年みたいに器用じゃないんだ。流石に声かけはしてくれよ?」
「わかりました」
俺は水野さんにそう答えながらリザードマン達を見つめる。
とりあえず抜けてきたのは五体か……
装備も皆同じで左手に湾刀、右手に円形の盾を持っている。
「ググェ。グッエ!」
湾刀を水野さんに斬られたリザードマンがそう言いながら突然俺達に向かって斬られた湾刀を振ったかと思うと、魔力が収束し空中に拳大程の水の玉が数個出現し俺達の方に向かって飛んできた。
速度があるわけじゃないから避けるのは簡単だ。
だが避ければ後ろに居る自衛隊の人達に当たる……
この場で戦うのは守るものがあるせいで選択肢が狭まる。
引き離すべきだ。
「水野さん! あれは俺が対処するので構わず進んでください!」
「わかった!」
俺の言葉に水野さんはそう言ってリザードマン達に向かって走り出す。
俺は左手に持つ[引き寄せのライトシールド]に念じ、飛んできている水の玉の軌道を強制的に曲げる。
多少のばらつきはあるものの、ある程度俺の方に向かって飛んでくるのを確認するとすぐさま[土魔法]で俺の正面に厚みのある土壁を作る。
水が土壁にぶつかると凄まじい衝撃音が鳴り、ぶつかった部分がえぐられたかのように削れていた。
念のため同じ魔法を連続使用して厚みを増しておいたのだ……正解だったな。
てかこれは喰らうのは極力避けるべき威力だろ……
俺はそんな事を考えながら土壁の横を抜け、リザードマン達の方へと走り出す。
先に走り出していた水野さんは俺達に向かって魔法を放ってきたリザードマンの首めがけて刀を振っている所だった。
ただその攻撃に対してリザードマンは体を後ろに倒し攻撃を躱し、そこから尻尾で体を支えながら水野さんに蹴りを入れる。
それに対して水野さんは何とか体を捻って蹴りを躱し、更に手に持つ刀の柄の部分で蹴りだしていたリザードマンの足を強く殴る。
「グェェ!」
殴られたリザードマンはそんな声を上げる。
それを見て少し後ろの左右に居たリザードマン達は助けるために近づこうとするが、俺が近付こうと足を踏み出したリザードマン達に向かって[風魔法]を弓なりの鋭利な刃物のような形にして飛ばす。
そうすれば近づこうとしたリザードマン達はそれを感じ取ったのか、飛んでくる[風魔法]を避けるように後ろに下がる。
あわよくば一体ぐらいとも思ったが、やはりそう上手くはいかないか。
とはいえ牽制は出来た。
そう思いながら水野さんの方に視線をやれば柄で殴った勢いそのままに体を捻り、柄で押し開いたリザードマンの足と自分の体との間を通すように青白く光る刀を振り抜き、リザードマンの左足を切り落とす。
「グギェェ!!!」
左足を切り落とされたリザードマンはそんなうめき声を上げるが、水野さんはそんな事は気にも留めず返す刀で左上から刀を振り下ろし、リザードマンの右横腹当たりを斬りつける。
だが斬りつけられた刀がリザードマンの体に当たると同時にまるで金属と金属がぶつかったかのような甲高い音が鳴り、水野さんの刀が弾かれる。
それに対して水野さんは少し驚きながらも、すぐさま後ろに軽くジャンプして距離を取る。
「大丈夫ですか、水野さん」
「後ろの奴らを押さえてくれたのにアイツを仕留めきれなかった。悪いな、少年」
「いぇ、大丈夫です。今ので大体ネタは割れたので問題ありません」
「ほぉ! 少年には俺の二回目の攻撃が弾かれた理由がわかるのか?」
「理由はわかりました。まず前提としてアイツ等は体の周囲を何らかの力で覆っているのですが、先程水野さんの攻撃が弾かれる瞬間その力を攻撃が当たる箇所に集めていました」
水野さんが刀を振り上げてから振り下ろすまでの間に、全身に広がっていた魔力が凄まじい速度で右横腹当たりに集められていたのだ。
そしてその魔力は水野さんの攻撃を弾いた今、また全身を覆うように広がっている。
ただこれはある程認識していないと難しい可能性がある。
何せ無意識で可能ならそもそも足を切断出来てないはずだからな。
まぁ相手が油断して使ってなかったという可能性も無くは無いが……その可能性は極めて低いだろう。
「なるほどな。大体俺もわかった。つまりは意識外から決定的な攻撃を加えるか、あるいは逆に一か所にその力とやらを集めさせて手薄になった場所を叩くかのどっちかって事だな?」
「集められた力を正面から突破できないならその二つのどちらかという事になります」
「俺には無理だ。少年は?」
恐らく労力はかなりかかるが、不可能ではないだろう。
あの力がスキルにしろ[魔力操作]にしろ、要はあの魔力を上回る魔力をぶつけてやればいいだけの話だ。
かなりの量の魔力を消費するだろうが、[魔力操作]でリザードマン達の纏っている魔力を上回る魔力で装備している武器を覆えばいいだけの話だ。
とはいえこれは相手が纏っている魔力が今以上に増えない場合の話だ。
仮に俺と同じように増やせるなら徒労に終わる可能性の方が高い。
「可能かもしれませんが、正直賭けなのでやりたくはありません」
「なら決まりだ」
水野さんはそう言いながら手に持つ刀を鞘に納める。
「金なら後で払うから、刃こぼれしたり折れて使いものにならなくなってもいいような武器を出してくれ。できれば刀に近い形状の方が良い」
「剣でいいですか?」
「あぁ」
俺は水野さんの返答を聞いて俺に向かって手を出している水野さんの手に直接指輪から剣を出す。
「本当に便利だなそれ」
「かなり重宝してます。それで動き方は?」
「その力とやらを認識できてない俺が陽動。本命が少年で行こう。それと悪いが俺は少年が本命だと気付かれた時の為に本気で攻撃する。だから武器が使い物にならなくなった時は即座に捨てるから頼むぞ?」
「わかりました」
俺は水野さんの言葉にそう答えながら尻尾で体を支えながら立ち上がり、血走った目でこちらを睨みつけるリザードマンを見つめる。
そして水野さんが先に一歩踏み出したのを見て、俺はそれに続くようにリザードマンに向かって走り出す。




