第56話 前線
「水野さん、ここからは先程までの様にはいかないみたいです」
「そんなのはこの発砲音と声を聞けばわかる」
俺の言葉に水野さんはそう答える。
あれから俺達は堤防を目指して進み、今は堤防を目視できるところまで来ている。
ただ近づいている途中で突如として銃の発砲音のような音が聞こえたかと思うと、そこからその音が鳴りやまなくなったのだ。
滝波さんが自衛隊も来てると言っていたころから、恐らく銃声で間違いないだろうとは思っている。
ただこれ程までに撃ち続けなければならないのが不思議でならない。
いや、気配的にはかなりの数居るのだが正直それが人間なのか魔物なのかの区別が出来ないのだ。
それが果たして今はなのか、今後もなのかわからない。
だがレベルが上がり俺自身も努力すれば何とかなりそうな気はしている。
そんな事を思いながら堤防を登り、その先に広がっていた光景に俺は思わず息をのむ。
「こりゃぁまた派手にやってるな」
水野さんの言葉通り広がっていた光景はまるで映画か? と思うほどのものではある。
何せ河川敷から自衛隊が川の上にあるダンジョンゲートに向かってアサルトライフルを連射しており、更には連射されているゲートからはひっきりなしに魔物が出てきているのだ。
しかも出てきている魔物は俺達が先程倒したトカゲとカエル以外にもう一種類、人型で体を鱗に覆われたリザードマンのような魔物が居るのだが、ソイツは体を覆う鱗が硬いのか何らかの魔法を使っているのかはわからないが、銃弾をものともせず進んでいる。
ソイツを近接装備を持った自衛隊や冒険者風の人達が、二~三人で一体を押さえ込む様に戦っている。
ただリザードマンと思われる魔物は銃弾を体表で弾くほどなので相当硬いらしく、かなり苦戦している様で魔物の死体もそうだが、人間の死体もちらほら見受けられる。
「大丈夫か、少年? 人の死を見るのは初めてか?」
水野さんはそう言いながら俺の肩に手をやる。
俺はそれに対して「大丈夫です」と小さく呟く。
人の死を見る可能性はダンジョンブレイクが発生した段階で予想出来ていた。
ここに来るまでも可能性はあったし、その覚悟を決める時間は十分にあった。
だがやはり直に見ると感じるものは違う。
俺はそう思いながら左手に持つ[引き寄せのライトシールド]と右手に持つ剣に力を入れるが、その手が僅かに震えているのを感じる。
この震えが恐怖からくるものなのかあるいは怒りからくるものなのかは正直わからない。
ただ言える事はこの状況を見過ごす事は出来ないという事だけだ。
「水野さん、俺の事を信じてくださいって言ったらどこまで信じれます? この後の戦いを考えて正直に答えてもらえると助かります」
「そうだな。少年とは今日会ったばかりだが、少年が信じろというのであれば全幅の信頼を寄せよう。何せここに来る前に共に戦うと決めたからな。例え背中から刺されても文句は言わんという覚悟はしてきた」
俺の質問に真剣な表情で水野さんはそう答える。
何でこの人は逆にそこまで覚悟が決まってるんだよ?
生まれた時代が違うんじゃないか?
とそんな考えがよぎるが、そこまでの信頼を寄せてくれている事に笑みがこぼれる。
「それじゃあ俺の背中も預けますね」
「子供の背中は守るものが大きいから、守りがいがありそうだ」
俺達は戦場を見つめながら互いにそう言う。
そしてどちらともなく突破してきたリザードマンに向かって走り出す。
「隊長!! トカゲ野郎がこちらに向かってきてます!」
「突破されたか……こちらに向かってくるトカゲ野郎に一斉射撃! スキルがある奴も構わず使え! 何としてもここで食い止めろ!! ……撃てぇぇぇ!」
リザードマンが数体向かってきている先に居る自衛隊の集団からはそんな声と共にすさまじい銃声が鳴り響く。
俺と水野さんはそんな声を聴いて更に速度を上げる。
「クッソ!! 停まりやがれ!!」
「撃て撃て撃て!!!」
そんな声とは裏腹に突っ込んでくるリザードマンは停まる気配は全くなく、遂には一番先頭のリザードマンがかなり近づき、先頭に居る自衛官は発砲ではなく銃の先についている剣をで突き刺すが、その攻撃はあっけなく弾かれる。
そしてリザードマンは笑みを浮かべながら左手に持つ湾刀を掲げ、目の前の自衛官に向かって振り下ろす。
「うっ! ……え?」
「グェ!?」
振り下ろされた湾刀は、右から俺の剣で左から水野さんの刀でクロスされるような形で受け止められ、自衛官に当たることは無く両者それぞれそんな驚きの声を上げる。
そして受け止めた水野さんの刀が青白く光り始めたのを見て、俺は受けている剣を湾刀の手の方にずらす。
直後、水野さんは青白く光る刀を全力で振り抜く。
そうすれば湾刀は中程から綺麗に真っ二つに斬られ、そのまま刀がリザードマンの首をとらえるかと思われた瞬間、ギリギリの所でリザードマンが後ろに跳びその攻撃をかわす。
「ハ! アイツ目もいいのかよ」
「そうみたいですね」
水野さんの言葉にそう答えながら、更に一歩前に出る。
「……助かりました」
「狐の仮面……」
「狐さんだ……」
「連絡は受けております。少年に任せるのは大変心苦しいのですが、我々では歯が立たず……頼みます」
上官らしき自衛官は歯を食いしばりながらどこか悔しそうにそう言う。
「だとよ? 狐さん?」
「……任せてください。ただ俺達はアイツ等の対処に専念するので、カエルやトカゲの魔物の処理は任せていいですか? 後今必死に戦って耐えてくださってる方々にも、俺達が来たら同じように対処するよう伝えてもらえますか?」
軽口を言ってきた水野さんを軽く睨みつけてから、俺は自衛隊の人達にそう言う。
「勿論です。その二種の魔物はお任せください。それに情報の伝達に関しても承知しました。後こちらをどうぞ」
そう言って小型の無線機を俺と水野さんそれぞれに一つずつ手渡される。
「現在重要な連絡に関してはこれで行われておりますので持っておいてください」
「わかりました」
「……ご武運を」
「ありがとうございます」
自衛官から言われた言葉にそう返しながら、俺は動きを停めたリザードマン達を見つめる。




