第50話 技
「俺を呼んでるみたいでしたが……どちら様ですか? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ?」
「そう警戒するな若人よ」
俺の言葉に仁王立ちのままでそう言ってくる怪しい男性。
何なんだよこの人……
ただこの人存在感があるというかなんというか……他の人より強く気配を感じるんだよな。
「離れないなら先生を呼びますよ?」
「落ち着け。少し話をしようじゃないか」
「俺は何も話すことは無いので遠慮します」
「そう言わず少し話をしよう。まずは自己紹介からだな。俺の名は水野 弥吉。一応これでも道場の師範をやってる」
浴衣姿の男性はどこか自信満々にそう言う。
何となく誰かに似てる気はするが……まさかな。
「ではそんな自称師範さんがどうして態々こんな所に? 学校に用があるなら先生を呼んできますよ」
「いやいや、話をしたいのは君になんだよ。久遠君」
俺はその言葉に、自然と視線が鋭くなる。
「落ち着きたまえ。君の名前を知ってるのは娘に直接聞いたからだ」
「娘?」
「あぁ。君と一緒にダンジョン攻略をしてたんだが、覚えてるか? 水野 冬花」
うん?
水野 冬花?
もしかして人狼の居たダンジョンに一緒に居た水野の事を言ってるのか?
確かに言われてみればどことなく似てるような気がしなくもないが……
本当か?
雰囲気はまるで違うぞ。
「失礼ですが、本当に水野さんのお父さんですか? 流石に聞いただけで信じる事は……」
「それもそうだ」
水野さんはそう言うと、浴衣の袖に手を入れ中からスマホを取り出す。
そしてスマホを俺に対して見えるように見せてくれた。
見せてもらった待ち受けは肩を組もうとして水野に嫌がられている、これまた浴衣姿の男性が写っていた。
「確かにそれっぽい感じですけど……」
「そうだろう? これは娘が中学に入学する時に撮った写真なんだ」
「……それで自称水野さんのお父さんが一体俺に何の用ですか?」
「まだ信じないか。まぁいい。色々話はあるんだが、その前に少年。授業は大丈夫なのか? チャイムが鳴っているが?」
自称お父さんはそう言いながら俺の後ろの校舎に視線をやりながら確認してくる。
いや……ここまで来て俺を手招きしておきながら今更何聞いてるんだよ。
「大丈夫ですよ。ついさっきリモート授業になる話が決まって今から帰るところでしたから。それより態々ここまで来て、もし俺が授業に行くって言ってたらどうしてたんですか?」
「うん? そりゃぁここで待っていたさ。若者の学びを妨げるなんてことをする馬鹿になった覚えは無いからな」
「……授業が終わるまでですか?」
「あぁ勿論」
男性はそう自信満々に頷く。
こんな格好で学校が終わるまで校門前で仁王立ちしてたら普通に通報されるだろ……
とそんな事を考えていると、不意に後ろからの視線を感じる。
流石にこのままここで喋るのはまずいよな。
「とりあえず場所を変えますか?」
「そうだな……近くに知り合いの道場があるんだ、そこへ行こう」
「そうですね」
俺は水野さんの言葉にそう返しながら、歩き出した水野さんの後を追いかける。
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「それで話とは何ですか?」
俺は案内された木造の床に正座しながら水野さんに向かってそう言う。
「遅くはなってしまったがまずは娘を無事帰してくれたこと、心より感謝申し上げる」
水野さんは真剣な表情でそう言って、俺に対して深々と頭を下げてきた。
俺はそんな水野さんの行動に戸惑う。
「ちょ! 水野さん!」
「正直あの配信を見ていたのだが、今の冬花では君無くして帰ってくることは不可能だったろう。故にこの感謝は受け入れてほしい」
「俺はただ自分がダンジョンから出るためにやっただけで……」
「だとしても! 結果として君は俺の娘を救ってくれたんだ。過程がどうであろうと、内心がどうであろうと、救ってくれたという事実に変わりはない。本当にありがとう」
水野さんはそう言ってゆっくりと頭を上げる。
余りにも予想外の言葉に、俺は何と言っていいのか返答に困ってしまう。
「この感謝を何らかの形で返そうと考えたのだが、俺から今の君にあげられるものはほぼ無いだろう。したがって二つの物を用意してきた。そのうちのどちらかを選んでほしい」
「別にお返しが欲しくてやった訳ではないので、本当に気にしないでください」
「まず一つは、我が家に伝わる家宝の一つである刀一振を君に贈呈する」
そんな俺の言葉を無視するように水野さんは話を続ける。
「勿論その刀を売ろうが捨てようが君の自由だ」
「いや、流石に貰い物を売ったり捨てたりはしませんよ」
「そして次……此方が本命ではあるんだが、君に経験を積ませて尚且つ技術を磨くというものだ」
「……どういうことですか?」
俺は水野さんの言葉についそう聞き返す。
それに対して水野さんは露骨に口角を上げ笑みを浮かべる。
「俺も馬鹿じゃないし、君の強さも重々承知している。そして今の俺では逆立ちしても勝てないこともわかっている。だが君が望むなら多少手加減してもらう必要はあるだろうが、俺や俺の知り合いを組み手の相手としていくらでも用意するし、俺達の持つ技術を教えてもいい。何せ今の君は言うなれば力のみでゴリ押している状態だろう。そこに技術が加われば? 面白そうじゃないか?」
俺は水野さんの言葉に少し考える。
確かに今の俺はどちらかと言えばステータスとスキルのごり押しではある。
武器の使い方や体の動かし方に関しても動画等で見ただけであり、誰かに教えてもらったことは一度もない。
それに対人戦はかなりいい経験になるんじゃないだろうか?
正直ダンジョンの魔物は多少思考はしているだろうが、どこか単調なのだ。
とはいえこの先もそうとは限らない。
人狼のような魔物が居る以上、ダンジョンの攻略をしていればそう言った魔物に遭遇する可能性は大いにある。
戦いの引き出しは大いに越したことは無い。
「悩んでいるようだな。そんな悩める恩人である若人に、一ついいものを見せてあげよう」
水野さんはそう言うと立ち上げり、俺から距離を取る。
そして腰の木刀に手をやり腰を低くする。
「よく見ているんだぞ」
水野さんはそう言って目を瞑りながら深く息を吸い、呼吸を整える。
静けさの中で水野さんの呼吸の音はより鮮明に聞こえ、何故だか緊張感が高まっていく。
そして水野さんが腰に差す木刀に力を込めたかと思うと、その木刀を凄まじい速度で振り抜く。
「!!」
俺はその行動を見て驚愕した。
驚愕した理由はとても簡単で、振り抜かれた木刀の軌道上に青白い粒子のようなものが飛び、更には木刀自体が青白い何かに包まれていたからだ。
ただそれはほんの一瞬で、すぐさまその光は消えてなくなる。
何だよアレ!!
魔力は一切感じなかったから[魔力操作]とかではないだろうし……
マジでなんだよ!!
「どうだ? 今のは俺がつい最近見つけたスキルに技術を乗せる事で発生する技だ。これを教える事も出来るぞ?」
俺の知らない何か……
それを教えてくれるって言ってるのを断る理由があるか?
そんなの存在しないだろ!!




