20章 グランプリ
グランプリ出走馬の名前が表示されるまで、諸星は息を呑んだ。 「諸星、名前が……ある!」 仲間の声が遠くに届くが、本人の心臓は早鐘のように打つ。ドーブルも緊張した足踏みを繰り返す。
出走権をギリギリで得たことで、諸星の中に焦りと同時に、田中への想いを背負う責任感が増す。 「田中さん、俺たち、行くよ……」 小さく呟き、目を閉じて手綱を握り直す。
スタンドには熱狂的な観客が集まり、ライバル馬も整列している。ドーブルの前方には、ノワールスターが輝く黒い馬体で並ぶ。そして、その騎手は――諸星の兄だった。
諸星の胸に一瞬、複雑な思いが走る。兄は視線を向け、少し挑発するように声をかける。 「諸星、今日は俺に勝てると思ってるのか?」 笑みを浮かべ、余裕そうに見せる兄に、周囲の空気もピリリと張り詰める。
しかし諸星は深呼吸し、手綱を握り直す。 「関係ない、俺はドーブルと全力を尽くすだけだ」 心を静め、呼吸をドーブルと合わせる。挑発に心を乱されることなく、二人の絆だけに意識を集中させる。
ドーブルも、諸星の心の変化を敏感に察知し、耳をピンと立てて静かに呼吸を合わせる。緊張感の中で、二人の世界だけが確かに広がった。
ゲートが開く瞬間、諸星は田中の手紙と声を思い出す。 “諦めるな、信じろ……お前とドーブルはできる”
ライバルが目前に迫る中、諸星は手綱を強く握り、ドーブルに呼びかける。 「よし、行くぞ、ドーブル!」
静かな集中と覚悟が、スタートの瞬間に最大限に凝縮された。年末グランプリの戦いが、今始まろうとしていた。




