91 後日談②
**ジェラール視点**
パルティアーズ公爵から、手紙が送られて来た。
“リデラン辺境伯家の三男と、ナディーヌの婚約が調いました”
「リデランの三男は確か───」
「リデラン四兄弟の中でも一番の戦闘狂で、上に立つタイプではないけど、実力は一番で、叔父様に憧れを持っていて、ブライアンとも面識があったと聞いてます」
ロクサーヌも把握しているリデランの三男。俺も何度か会った事があるが、戦闘狂と呼ばれるに相応しい体格と顔をしている。“厳つい”と言うのが正しい程に。ただ、性格は馬鹿並みに真っ直ぐで、正否の考えがハッキリしているから、三男にとってのナディーヌは“否”の存在だろう。しかも、そのナディーヌが陥れたのが、俺と結婚したブライアンの娘のセレーナだ。そんなナディーヌとの婚約を受け入れた理由は、言わずもがな─だろう。
「確か……三男はもう既に結婚していたような……?」
確かに、数年前に結婚はしたが、どこぞかの貴族と密通して、三男に文字通りにバッサリと切り捨てられたのだ。戦闘狂が故に、夜も色々と大変らしく、三男から逃げたくなったのかもしれない。逃げたら逃げたで“裏切られた”として、結局は切り捨てられただろうけど。
そんな男との婚約を調えたパルティアーズ公爵。余程、ナディーヌの事が赦せなかったんだろう。本当は、俺が直接方を付けたかったが、セレーナが求めなかったから我慢したまで。だから、パルティアーズ公爵がどう動こうとも、俺は止める事はしない。
「セレーナには……」
「『婚約した』と言う事実だけを伝える」
その相手がどんな男なのか─までは伝える必要はないだろう。
アリシア公女はどうするのか。ナディーヌとは違って、あまり表には出ていないようだから、このまま静かに過ごすのかもしれない。それもまた、兄のパルティアーズ公爵次第だろう。
「これで、“終わり”と言ったところですね」
「そうだな……」
これからは、セレーナを甘やかして幸せにしていくだけだ。
******
「ジェラールさん!」
「セレーナ!?」
ロクサーヌとの面会を終えて王城の廊下を歩いていると、セレーナが前からやって来た。
「あぁ、今日は騎士団に納品する日だったな」
「はい。納品は終わったので、今から帰るところです」
「それじゃあ、一緒に帰ろうか。俺も今から帰るところだったんだ」
兄上に『たまには顔を見せろ』と言われていたけど、兄上よりセレーナが優先だ。
「嬉しいです……ふふっ……」
ー可愛いな!ー
王城の廊下じゃなかったら、すぐにでも抱き寄せて───
「グリンデルバルド大公、お久し振りです」
「ん?」
声を掛けて来たのは、パルティアーズ公爵だった。
「公爵……どうして王城に?」
「3ヶ月に一度の、森についての報告に登城していました」
と答えた後、公爵がセレーナに視線を移した。
「セレーナ、彼が、現パルティアーズ公爵だ」
「あ……の…、初めてお目にかかります。私は……セレーナと言います」
「挨拶、ありがとう。先代の公爵が迷惑を掛けて、申し訳無かった。これからは、もう二度とパルティアーズが貴方に迷惑を掛けない事を誓うよ」
「ありがとう…ございます」
公爵の、セレーナを見る目は優しい。本来なら、伯父と姪として、良い関係を築いていただろう。
「パルティアーズ公爵様も、体には気を付けて…お過ごし下さい」
「ありがとう。では、失礼します」
公爵は、俺達に軽く頭を下げてから、廊下の先へと進んで行った。
「ナディーヌの婚約が決まったそうだ」
「そうなんですね。お祝いは……しなくて良いですよね?私達、平民だし」
「うんうん。平民はお金もないしね」
「ふふっ………それじゃあ、私達の家に帰りましょう」
「うん……帰ろう」
『さようなら。伯父さん』
と言うセレーナの呟きは、聞こえないフリをした。
******
それから暫くして、ナディーヌはリデラン辺境地に向かい、直ぐに結婚したと言う報告の後、ナディーヌに関しての報告は途切れた。何故途切れたのか──どうでも良い事だ。ナディーヌがどうなろうとも、俺達には関係無い。
「ジェラールさん、今日はご機嫌ですね。何か良い事でもありました?」
「ん?特に何も無かったけど……セレーナが毎日俺の側に居るだけで幸せになれるよ」
「あっ……ありがとうございます!!」
未だに褒められる事には慣れていない。
「私も、ジェラールさんと一緒に居られるだけで……幸せです。一緒に居てくれてありがとう」
顔を赤くしながら必死に気持ちを伝えてくれるセレーナが可愛いのだから、仕方無い。
「俺は何も悪くない」
「え?何が──えっ!!??」
セレーナを抱き上げて2階へと階段を駆け上がる。
「えっ!?ちょっ…何で!?夕食もまだで──」
「夕食は……諦めようか。多分、直ぐには……終わらないから覚悟してくれ」
「え!?覚悟!?何で────」
抵抗しようとする手を軽く押さえて、キスをすれば、セレーナの力が抜ける。
「ジェラールさんは……意地悪だ……」
その言葉を切っ掛けに、長い長い夜が始まった。
アリシア公女が自ら修道院に入ったとの報告があったのは、それから半年程経ってからだった。
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これにて完結となります。
最後迄読んでいただき、ありがとうございました。
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