90 後日談①
**パルティアーズ公爵**
ようやく、無能だった父が当主の座から落ちた。
パルティアーズの家門に生まれたにも関わらず、体を鍛える事はせず、剣すらも持てず、かと言って領地を運営する能力も無く、華やかな社交界で偉ぶる傲慢の塊でしかなかった。『父』とも呼びたくなかった。私は、パルティアーズの騎士としての誇りを持っている。そのパルティアーズの騎士を見下す先代を、私をはじめ騎士達も軽蔑していた。
“ブライアン”
彼もまた、立派なパルティアーズの騎士の1人だった。平民出身ではあったが、人一倍の努力家で、入団してから1年程で騎士団の中でもトップを争う程の実力を付けていた。そんなブライアンが、まさか、妹のアリシアと恋仲になるとは思わなかった。でも、私や母上や仲間の騎士達は2人の仲には好意的だった。それなのに、先代が反対した事によって、2人はパルティアーズから去らざるを得なくなった。それが、全ての始まりだった。
“アリシアには娘が居た”
その報せには驚いた。ブライアンに娘が居たのだ。ブライアンは、辺境地の領主達にとっては“救い主”の様な存在だった。辺境地は比較的魔獣の出現率が高く、領民への被害もそれなりにある。ブライアンは、そんな領地を定期的に訪れては魔獣を倒していた上に、魔素が溜まり過ぎないように、魔素を吸収する魔法陣を設置したりしていたのだ。ブライアン本人が『目立ちたくない』『助けるのは当たり前の事だ』と言っていたから、敢えてこの事実を国に報告したりはしていなかった。
ただ、もし、この報告をしていれば、今でもブライアンが病死せずに済んだかもしれない─と思うと、悔やんでも悔やみ切れない。
そんなブライアンの娘だ。必ず探し出してブライアンの分も幸せにしてあげたい──と思っていた。
“ナディーヌ”
ピンク色の髪と瞳の、可愛らしい女の子だった。見付ける迄は本当に大変で、アリシアが壊れてしまうのでは?と心配する程だったが、そうなる前に見付かって良かったと安心した。私は領地住まいで、ナディーヌは王都の邸に住む事になったから、ナディーヌと会ったのは一度だけだった。
それが、まさか、ナディーヌも偽者だったとは。その事実を隠そうとした先代。私が何故知る事になったのか──
『ナディーヌは偽者で、本当の姪は、ピサンテ唯一の生き残りの女の子で、今は私の保護下にある』
と、グリンデルバルド大公から聞かされた時は、本当に驚いた。
『そろそろ、公爵には引退してもらおうと思っているんだが……嫡男としての意見はあるか?』
『願ってもないお話です』
そこで、どうして引退と姪が関係するのか分からなかったが、更に話を聞き、妹の愚かさに呆れてしまった。親子鑑定での結果からすれば、アリシアは被害者と言えるだろうが、カイリーと言う女を単純に信じた事と、魔力持ちを優先した事はアリシアの落ち度だ。その本当の姪も、パルティアーズに認められたいとも思っていないと言うなら、もうその子は大公様に任せた方が良いだろう。
『姪の事は、宜しくお願いします。父の事は……お任せ下さい』
と、私が返事をすると、大公様は薄く笑顔を浮かべて頷いた。
それから暫くして、アリシアとナディーヌと先代が領地へとやって来た。アリシアとナディーヌは別館に住まわせ、先代は問答無用で現場に立たせた。後から監視役としてやって来た第一王子は、これまた使い物にもならなかったが、ロクサーヌ王太女の指示があったから、第一王子も現場に立たせる事になった。
先代の無能は置いといて、第一王子はしっかりと反省し、騎士団の一員として努力して食らいついていた。そんな第一王子は、今ではパルティアーズの騎士達とも上手くやっている。それに引き換え──
「もうそろそろ……いい頃合いだろう………」
広大な森に出現する穢れや魔獣。必ずとはいかないが、おおまかな出現率と出現ポイントは、パルティアーズの騎士であれば誰もが把握している。勿論、先代は把握していない。だから、あの広大な森の巡回中に、その場所にうっかり迷い込んでしまっても不思議ではない。そのうっかり迷い込んだ先で、魔獣に遭遇してヤラれたとしても──
「不思議ではないだろう」
“先代公爵が、森の中で片足を失った状態で発見され、死亡が確認された”
その一報を伝えると、ナディーヌはショックを受けていたが、アリシアはホッとしたような顔をした。アリシアも、ギリギリのところで自分の非を認めて、本物の我が子を守れて安心したのだろう。
ー残るはナディーヌだけだー
名前を貰った上に、『自分は何も知らなかった』と言って、赦されると思っている。未だに第一王子に愛想を振りまき、平気な顔をしてお茶会にも参加をする、その厚顔無恥さに尊敬すらする。
「第一王子の代わりを……探してやらないとな」
金持ちと身分に拘るナディーヌに、私から最後のギフトを用意した。




