89 2人の始まり
**ロクサーヌ視点**
叔父様と一緒に、アラールからの報告を聞いた後、アラールの話を聞いて、そろそろ昼食を──と言ったところで、タイミング良くやって来た。
「ロクサーヌ様、今日は誘っていただいて、ありがとうございます」
「良いタイミングで来たわね」
「セレーナ!?」
セレーナの登場に驚きつつも、真っ先に駆け寄ったのは、勿論叔父様だ。私達が居る事を忘れているのか、態となのか、叔父様はセレーナに駆け寄ると、そのままの勢いでセレーナを抱きしめた。
「!!??」
そんな2人を見て、顔を赤くして狼狽えているのはアラール。叔父様の予想外の行動に狼狽えつつ、セレーナの可愛らしさに顔を赤くしていると言ったところかしら?アラールが美人に弱いのは、相変わらずのようだ。
ーその辺りを何とかしないとねー
第一王子が、二度もハニートラップに引っ掛かる訳にはいかない。
「ロクサーヌ様が、ジェラール様と一緒に昼食を食べるからと、私も誘って下さったんです。元気そうで良かったです」
「ずっと会いたかったから、来てくれて嬉しいよ。ロクサーヌもありがとう」
「どういたしまして」
叔父様のこんな優しい笑顔は見た事が無い。セレーナも、私に向ける笑顔とは違う笑顔だ。2人が本当に惹かれ合っているのがよく分かる。
「第一王子様も、お久し振りです。お元気そうで安心しました」
アラールのせいで、自分が危機に陥ったと言うのに、そのアラールを心配するセレーナは優し過ぎる。だから、腹黒な叔父様が丁度良いのかもしれない。
「あ…の……本当に、私のせいで迷惑を掛けてしまって……申し訳無かった!」
「その謝罪は受け入れます。なので、今日はご一緒してよろしいでしょうか?」
「もっ…、勿論だ!!」
「ありがとうございます」
「………」
そんな2人の微笑ましい?様子を見守る私と叔父様。ただ、アラールの態度により一層深い笑みを浮かべている叔父様に、アラール本人は気付いていない。
ー詰んだんじゃない?ー
セレーナ本人は全く気付いていない、アラールからの好意。それに気付いている叔父様。
ハニートラップの問題も、直ぐに解決できるかもしれない。
4人で昼食を食べた後、セレーナが作って持って来てくれたプリンを食べた。
「セレーナは本当に良いお嫁さんよね」
「本当にな」
「叔父上が羨ましいです」
「平民は、自分で料理ができないと生きていけませんからね」
褒められ過ぎて1人焦るセレーナを、優しい目で見続けている叔父様は、普通の男性と何の変わりもない。そんな叔父様を見るのも新鮮だ。
**セレーナ視点**
結局、ジェラール様が王城に滞在していた1ヶ月の間に、差し入れを持って行けたのは、ロクサーヌ様に誘われた日だけだった。
ジェラール様と同様に、私は私で薬師の仕事が忙しかったからだ。お陰で、寂しさを感じる暇もなかったのは、幸いだったのかもしれない。
そして、今日。いよいよ1ヶ月ぶりにジェラール様が帰って来る事になった。もう既に“大公様”ではなく、平民になっているそうだ。
ー大金持ちの平民だけどー
騎士として働いた分や、魔導師となってから働いた分のお金はジェラール様本人の物として、そのまま貰い受けられたから、贅沢をしなければ、働かなくても生活ができる位のお金持ち。男爵となった私よりお金持ちじゃないかな?
「ただいま」
「わぁ──っ!ジェラール様!?」
色んな事を考えていると、いつの間にかジェラール様が帰って来ていて、今はバックハグ状態になっている。
「お…おかえりなさい!」
「あぁ…本当に久し振りのセレーナだ……落ち着く………」
「ふふっ……それなら良かったです」
『落ち着く』と言われると嬉しい。
「えっと……ご飯はどうしますか?要るかどうか分からなかったから、準備はしてないけど、簡単な物ならできるようにしてます」
「その簡単な物をお願いできるかな?でも、その前に──」
と、ジェラール様と二度目のキスをした。
******
婚約してから寒期を超えて、暖かい季節を迎えると直ぐ、私達は結婚した。『男爵と平民の結婚だから』と言う事で、畏まった式は挙げす、婚姻はルチア様とエリック様に見守ってもらいながら、神殿に婚姻届を提出するだけにした。それでも─とルチア様に言われて、後日デミトリア邸でお祝いをしてもらう事になった。
「それじゃあ、1週間後にお祝いをするから」
「はい。ありがとうございます。宜しくお願いします」
「今日は、ありがとうございました」
ルチア様達と別れて家に帰って来た。今からは、“夫婦”としての生活が始まる。
「改めて……ジェラールさん、今日からは夫婦として、宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします──と言う事で、部屋に行こうか」
「ひゃあ──っ」
突然ジェラールさんに抱き上げられたかと思うと、そのまま2階の部屋へと運ばれた。
その部屋は、数日前に改装したばかりの部屋で、2つの部屋の壁にドアを付けて行き来できるようにして、片部屋に少し大き目のベッドを置いている。そのベッドで、今日からジェラールさんと一緒に寝る事になる。
「今日は寝かせないけどね」
「ふえっ!?」
「顔真っ赤……ホントに可愛い………」
そこからの事は、正直、あまり記憶がない。
優しかった………と思う。
ただ、朝起き──れないと言うのは普通なの?
新婚初日にも関わらず、私は何もできない状態で、ジェラールさんが嬉しそうに私を介抱してくれている。
「ホントにごめんなさい…」
「いや、寧ろ謝るのは俺の方だから」
「?」
と言いながらニコニコ笑っているジェラールさん。何故ジェラールさんが謝らなければならないのかは分からないけど、怒ってないようで安心する。
「よく分からないけど、それなら、今日は1日ジェラールさんに甘えさせてもらいます」
「喜んで甘やかせていただきます」
こうして、私達の夫婦としての生活は穏やかに始まった。
“穏やか”ではなかった事には、後から知る事になったのは、言うまでもない。




