87 素直な気持ち
「俺は、セレーナの料理だけじゃなくて、セレーナ自身の事も好きなんだ。だから、俺と結婚──は早いだろうから、俺と婚約して欲しい。これから先もセレーナの隣に居られる事を、確実なものにしたい」
ー私を好き!?私と婚約!?ー
「俺はこれから先も、セレーナと一緒に居たいと思っている。勿論、無理にとは言わない。セレーナの気持ちを尊重する。だから、セレーナの気持ちを正直に話して欲しい」
「正直に………」
冗談──ではなさそうだ。色々と驚きでいっぱいだけど、ジェラール様からの好意は嬉しいと言う気持ちが勝っている。だけど──
「私も……ジェラール様と一緒に居ると安心して、頭を撫でられたりすると心も温かくなって、嬉しい気持ちになるし、ジェラール様に料理を作るのも楽しくて好きなんです。だから、一緒に居られるのは………嬉しいなと思うんですけど、でも……私は貴族になったと言っても、男爵に過ぎませんから。大公であるジェラール様とは──」
流石に、大公と男爵では身分が違い過ぎる。2人が良くても、周りどころか国王様が認めてくれない可能性が高い。
「前にも言ったけど、俺は一代限りの大公だから領地も持ってないんだ。それに、もともと兄上とは交渉済みで、俺は結婚すれば爵位を返納しても良い事になってるんだ。そうすれば、俺はただの魔導師になって、セレーナの方が身分が上になる」
爵位を返納とは驚きだけど、返納したところで王族だと言う事には変わりない。
「それとも……セレーナが好意を持っているのは、“大公の俺”?」
「違います。国王様が、私との仲を反対したりは───」
「寧ろ喜ぶんじゃないかな?その相手がセレーナなら、兄上もロクサーヌも祝福してくれると思う」
国王様とロクサーヌ様が反対しないのなら、問題は無いんだろうけど、何だか……都合よく事が進んでない?貴族社会に入らなくて良い男爵になって、領民は居ないのに領主となって、お父さんの家に住み続ける事ができるようになった。
その家で、ジェラール様の料理を当たり前のように作って、2人で過ごしていた。
『隠さなくても大丈夫ですよ』
『応援してます』
『憧れます』
あれはひょっとして───
「ひょっとして、私とジェラール様は恋仲だと噂されたり──」
「しているようだな。皆、好意的に受け止めてくれている」
と、ジェラール様がにっこり微笑む。
ーなるほどー
ジェラール様からの提案で、ピサンテの家で暮らす事と、ジェラール様の料理担当になる事を受け入れた時から、私はある意味逃げられなくなっていたようだ。
ーなんて……はらぐ─計算高い人なんだろうー
とは言え、全く嫌な気がしないどころか、嬉しい気持ちのほうが大きいのだから、私はジェラール様の事が好きなんだろう。私にとっての“大公”と言う足枷も、アッサリと返納してしまうジェラール様が、更に愛おしく思ってしまっている。なら、断る理由なんて何一つ無い。
「私も、ジェラール様の事が好きです。こんな私で良かったら、これからも───」
「セレーナ、俺を受け入れてくれて、ありがとう!!」
「っ!?」
私が言葉を最後迄発する前に、ジェラール様が笑顔で私の体を抱きしめた。ジェラール様に抱きしめられるのは恥ずかしいけど、やっぱり安心する温かさでもある。そんな人とこれからも一緒に居られるのは、本当に幸せな事だと思う。この幸せを、これから先も奪われる事無く大切にしていきたい。
「ジェラール様、今迄ありがとうございました。これからも、宜しくお願いします」
「こちらこそ、これからもずっと、宜しく頼むよ」
それから、暫く抱き合ったまま、私はジェラール様に身を預けた。
*ジェラール視点*
俺を受け入れてくれて、俺の腕の中に、おとなしく収まっているセレーナが、更に愛おしい。
正直、一度だけでは受け入れてくれないかもしれない─と思っていた。好意と結婚は別物だろうから。それでも、受け入れてくれたと言う事は、俺に好意があったと言う事だ。
ーこれで、これからもセレーナと一緒に居られるー
料理を食べられる事は勿論嬉しいが、セレーナと一緒に居られる事が嬉しい──と思うのだから、俺はかなりセレーナの事が好きなようだ。俺の腹黒さに気付かれたような気もするけど、そこは気にしない事にする。
「あの…そろそろ離して──」
「もう少しこのままが良いなぁ」
「ゔ──少し恥ずかしいので、今日はこれで許してもらえませんか?」
と、下から俺を見上げて恥ずかしそうに訴えて来ると、逆にもっと閉じ込めておきたくなる─が、そこはグッと我満をして、抱きしめていた腕の力を緩めると、セレーナが俺から一歩下がって距離を空けた。
「ジェラール様は慣れているかもしれませんけど、私は恋愛事どころか、人付き合いにも慣れていないので、お手柔らかにお願いします」
なんて素直に言うセレーナはやっぱり可愛い。
俺に落ちてくれたセレーナを、これからはもっと甘やかしていこうと思っている。
ー誰にも奪われないようにー
「俺も、それ程にも恋愛事に慣れている訳じゃないけどね。お互い、少しずつ慣れていこうか」
そう言ってから、セレーナの銀色の綺麗な髪を少し掬って、髪にキスをすると、セレーナが「ひゃっ!?」と顔を真っ赤にして変な声を上げた。




