85 埋まった外堀
ジェラール様との生活がまた始まると、料理をする事が楽しくなった。時々ジェラール様に頼まれて、登城する日にも私が作った昼食を持って行く事もある。そんな日には、ロクサーヌ様にドーナツを届けてもらっている。そのロクサーヌ様とは、月に1、2回程一緒にお茶を飲んだりしている。
そして、私は男爵を叙爵されると言う事で、来週にでも登城して叙爵式をする事になった。ただ、曰く付きの領地で領民の居ない領主になると言う事で、ごくごく限られた人達が見守る中で式になるそうで、個人的には良かったと思っている。社交活動も免除されているから気が楽だ。とは言え、国王様との対面では無礼の無いように気を付けないといけないから、どうしても緊張はしてしまう。
『お父様は、セレーナの事は気に入っているから大丈夫よ』
と、ロクサーヌ様は言っていたけど、気に入られる要素が思い当たらない。
『お父様はセレーナに会いたがっていたから、式当日は直ぐに帰れるとは思わない方が良いかも』
会いたがられている理由も全く思い当たらない。カイリーさん関連で迷惑を掛けた覚えしかない。
『叔父様が一緒だから、何も心配する必要はないわ』
どうやら、国王様は、ブラコン並みに弟のジェラール様を可愛がっているらしい。
兎に角、叙爵式の日は、何の問題も無く終わる事を祈るのみだ。
**ロクサーヌ視点**
「ブライアンに与えるべきモノは、セレーナが受け取る権利があると思う。セレーナもまた、ブライアンの研究を引き継いで、新たに改良したポーションを作って民を救っているのだから」
叔父様の言う通りで、ブライアンとセレーナとオリビアは、報奨を与えるべき功績を上げている。特に、ブライアンの魔法陣は国の為になるモノが多い。そこに目をつけてセレーナに爵位を与えつつ、貴族でありながら貴族生活をしなくていい、ピサンテ領の領主にさせるとは──
「本当にぬかりないですね」
「ありがとう」
「褒めてませんけど?」
貴族に嫌悪感を抱いてるセレーナでも、この条件なら爵位を受け取るだろう。
これで、セレーナはピサンテに居続けられるようになって、叔父様から逃げられなくなった。
セレーナも、叔父様の事は好意的に思っているようだから、私も叔父様を止める事はしないけど、何とも腹黒い計算なのか……。
「気付いていない事が幸いだわ」
「何の事やら?」
そして、叙爵式は特に問題無く執り行われ、セレーナとオリビアは男爵になった。
「一緒にお茶でもしようか」
叙爵式の後、やっぱりお父様がセレーナとオリビアをお茶に誘い、そこにお母様と叔父様と私が加わり6人でお茶をする事になった。
「ジェラールは剣だけではなく魔法も得意で、更に男前だろう?兄としては、もう嫉妬は通り越して自慢にしかならないんだが、結婚となるとなかなか相手が見付からなくて、本当に色々心配しているんだが、セレーナやオリビアから見て、ジェラールはどう思う?」
「ジェラール様に婚約者が居ないのは、不思議ですよね。私はジェラール様は温かい人だと思います」
「うんうん……そうだね……」
「「「…………」」」
お父様が叔父様を自慢しつつ話をすれば、セレーナは素直に返答する。その返答がまた、お父様にとって嬉しい返答だったりするから、お父様は終始笑顔で、その横で叔父様がセレーナを見つめながら微笑んでいる。そんな3人を、お母様と私とオリビア3人が見て苦笑している。
お父様がセレーナを認めたと言う事は明らかだ。
叔父様に囲われて、お父様に気に入られてしまったら、もうセレーナに逃げ場は無い。後は、セレーナの様子を見ながら見守るだけ。でも、叔父様のセレーナを見つめる目はどこまでも優しいし、セレーナも叔父様の事を“温かい人”と言うのなら問題無いだろう。
「グリンデルバルド大公様が、ピサンテで恋人と過ごしているそうよ」
「私、その恋人を王太女様の庭園で見た事があるんだけど、綺麗な人だったわ。グリンデルバルド大公様が、その恋人を慰めるように抱きしめてて……素敵だったわ」
「その恋人って、今回男爵を叙爵された女性の1人らしわ。薬師として功績をあげたそうよ」
「何でも、国王陛下もお認めになったとか」
「身分を超えた恋愛なのね」
気が付けば、2人は恋人になっていた。更には、お父様が認めていると言う話も広まっていて、もう誰も反対する者も居ないどころか、2人の仲を憧れる者が増えた。そんな事実を叔父様が知らない筈がないのに、『恋人ではない』と否定する様子は一切無い。
知らないのはセレーナだけ。まさに、外堀は埋まってしまった。この事を、セレーナ自身が知らない事が幸いなのか、不幸なのか………。
「叔父様は腹黒だわ……」




