84 それぞれの爵位
パルティアーズ公爵が、息子に当主の座を譲り、公女様の兄がパルティアーズ公爵となった。
前公爵は領地に引き下がり、年齢的には“引退”と言ったところだけど、そんな事は許される筈もなく、森の巡回や魔獣の討伐にも問答無用で駆り出されているらしい。
「『あの男は本当に使えない』と、アラールから報告があった。兎にも驚いていたそうだ」
「うさぎ……」
よく、今迄“パルティアーズ公爵”を名乗っていられたよね?そこには、公女様とナディーヌも一緒に暮らしているけど、殆ど顔を合わせる事はないそうだ。
「第一王子様は、お元気なんですか?」
「あぁ、アラールは頑張っているみたいだな。ようやく、パルティアーズの騎士達にも受け入れられたようだ。頭はお花畑だったが、騎士としての資質はあるようだ」
第一王子様は、前パルティアーズ公爵が私に何かするかも?と言う報告もしていたそうだ。
前公爵は、生き延びる事はできたけど、今は何の身分も無く、“ただの老いた役立たずの騎士”と呼ばれ、いつまで持つのか──と言ったところなんだろう。ただ『少し重すぎる処罰なのでは?』と思ったりもするけど、そう判断されたなら仕方無い。
「セレーナに、男爵を叙爵される事になった」
「はい???」
何を言っているのか分からない。
「ブライアンの実績が認められたんだ」
魔力や魔素を取り込む魔法陣を創り出したお父さん。それは、魔素が溜まりやすく穢れになり魔獣を生み出す土地に設置すれば、魔素の溜まりが減り穢れになる事が減り、魔獣の出現を減らす事ができる。そうなれば、そこに住む人達や街の被害が減る。
「本来、ブライアンが生きていればブライアン本人に叙爵されただろうけど、それは無理だから、そのブライアンの跡を引き継ぐセレーナに叙爵する事になったんだ」
お父さんの創り出した魔法陣が、認められて評価されるのは嬉しい。嬉しいけど、貴族になりたい訳じゃない。貴族になんて興味も無い。
「私、貴族になんて──」
「『貴族になんてなりたくない』と、セレーナならそう言うと思ったし、ロクサーヌも同意見だった。だから、セレーナには、このピサンテの領主として男爵になってもらう事にした」
「ピサンテの?」
ここに住んでいるのは、ジェラール様と私だけだ。これからも、ここに新たな領民を受け入れる予定も無い。
「領民は居ないから、名ばかりの男爵になる。でも、男爵に変わりは無いから、国からお金が貰える。ピサンテの管理はしてもらわないといけないけどね。それに、兄上とロクサーヌも事情を知っているから、強制的に社交界に入る必要も無い。だから、今迄の生活とは変わらない」
それが本当なら、私にとっては美味しい話でしかない。
「ただ、1つだけ条件がある」
「その条件とは?」
「これからも、私がここで研究を続ける事を許して欲しい」
「これからも?」
『これからも』と言う事は、これからもジェラール様と一緒に居られると言う事?国からピサンテ領を与えられて、ジェラール様の管理下から外れても、ジェラール様がこの家に居ると言う事?
「それは……私は構いませんけど、ジェラール様が構うのでは?」
ジェラール様が、研究の為とは言え、ここに住み続けるのは色々と問題が出て来るんじゃないかな?
「私は、一代限りの大公なんだ」
「一代限り?」
「王位継承権を放棄しただけでは、私に子供ができた時にややこしくなる可能性もあるから、一代限りにしてもらったんだ。だから、大公の私と結婚しても、その子供が大公を引き継ぐ事はない。と言う事は、私と結婚してもあまりメリットが無いから、結婚を急ぐ事もないし、貴族令嬢達から人気がある訳でもないんだ」
勿論、貴族社会に於いての結婚は、政略結婚が多いと聞いた事があるから、いくら大公と結婚しても子供に爵位を継承できなければ結婚する意味が無いかもしれないけど、されど王弟は王弟だし、その子供は王族の血を引いているから、メリットが全く無い訳じゃない。王族との繋がりができるし、元騎士団の副団長で、現魔導師で、何よりも容姿が整っているのだからメリットの方が多いと思う。それとも、これは平民が故の考えで、お貴族様からすればそう捉えるのが普通なのか。
「ジェラール様が大丈夫と言うなら……私は大丈夫です」
「ありがとう」
嬉しそうに笑うジェラール様を見ると、私も嬉しくなってしまうけど、これでまた、誰かが一緒に居る事が当たり前になってしまうのかと思うと、素直に喜んで良いのかどうか──分からなくなってしまった。
*ジェラール視点*
ピサンテ領をセレーナに引き継がせる
同棲生活を続ける
最低ラインはクリアした。後は、同じ時間を過ごしながら囲っていくだけだ。俺はいつだって大公を棄てる事ができる。セレーナにとって、大公と言うのは意味の無いものだから。




