81 無かった事にはならない
「アリシア!?どうしてお前がここに居るんだ?」
「お父様に手紙を送った後すぐ、私も領地を出て来たんです。嫌な予感がして……来て良かったです」
チラッと私に視線を向けた後、公女様はまた公爵様に視線を戻した。
「その子は何の関係も無い子です。今すぐに──」
「お前は知らなかっただろうが、この娘は魔力持ちだ」
「え?」
「…………」
公爵様のその言葉に、公女様が驚いたように目を見開いた。
「魔力持ちな上にグリンデルバルド大公のお気に入りだ。これ以上無い条件の娘だ。喜んで公爵家に迎え入れよう。そうすれば、あの偽者も始末できる」
「お父様………私の娘は……ナディーヌです。その子は………私とは何の関係も無い平民の娘です。手紙の返事にも書いていましたよね?ですから、どうかお願いです。その子を今すぐに──」
「お前の言葉を、私が信じるとでも思ったのか?お前からの返事で、もう既にお前の扱いは決まっていると言うのに」
ー公女様は、ようやく分かってくれたんだー
「お父様、私はどうなっても構いませんから、その子とナディーヌは……見逃していただけませんか?」
良かった。公女様は、ナディーヌも見捨てる事はしないようだ。もう少し早く分かっていてくれたら、私との関係も何かが変わっていたのかな?
「お前の願いを叶えたところでどうなる?私やパルティアーズが得るモノはあるのか?そもそも、お前を再び公爵家に入れたのは、お前の母親が死の間際に私に願っていたからだ。私は、今でもお前を赦してはいない。お前が、今の国王陛下と結婚していれば、私は今頃、国王陛下と共にこの国を動かせていたのだ!それを──」
なんて身勝手な人なんだろう。娘が国王様と結婚しなかったから自分が側近になれなかったと思ってる?そんな馬鹿な話がある?側近になれなかったのは、自分に能力がなかったからだ。有能だったら、娘の過去なんて関係無くその立場に立てた筈。今の国王様やロクサーヌ様ならそうする筈だ。
今のこの行動もそうだ。愚かでしかない。あの人達には……知られているだろう事にも気付いていないのだから。
「公爵様、この辺で引いた方が良いと思いますよ?」
「何を生意気な事を──」
「ここで私を帰してもらえたら、何も無かった事に───」
「───なる訳ないだろう」
「「っ!?」」
ーあぁ…思ったより……早かったなぁー
「グリンデルバルド……大公様が、どうしてここに?」
「アレでおとなしくしていれば、ギリギリ見逃してやったものを………どこまでも愚かだったな」
パルティアーズ公爵に向けていた冷たい視線は、私に向けた時には、いつもの優しい目になった─のも一瞬で、私の左手首に着けている魔道具を目にすると、眉間に皺を寄せた。
「セレーナは、罪人だったのか?」
「公爵の指示で、捕らえる時に着けられたようです」
と、ジェラール様の質問に答えたのは、私をこの部屋に連れて来たメイドだった。
「罪人ではない者に、この魔道具を使用すると罰せられると言う法を知らないらしいな。しかも、私が囲っていると知っていた上での犯行とは……パルティアーズ公爵は、よほど私の怒りに触れたいらしいな」
「それは───」
「『違う』とは言わせない。セレーナを利用しようとした事も把握済みだ。喩えセレーナを手に入れたところで、公爵の様な無能な愚か者が国王陛下の側に仕える事はできない。領地運営すら息子に任せ切りで、公爵は社交界に顔を出して権力を振り翳すだけ。これを機に、引退を勧めるよ」
にっこり微笑むジェラール様の目は、1ミリも笑っていない。いくつか突っ込みたい事はあるけど、今はおとなしくしておく。
「そもそも、パルティアーズ公爵は武に長けている者が長に立つはずが、何故まともに剣すら握れないお前が立っているのかが不思議でたまらない。あぁ、そうか。アリシア公女が選んだ男が、自分とは違って武に長けていて人望も厚かったから、自分や息子の地位が揺らぐと思って、2人を追いやったのか」
「大公とは言え、あまりにも失礼ではありませんか!?私も剣ぐらい──」
「なら、私と勝負でもするか?私が負ければ謝罪でも何でもしますよ?」
「───っ」
勝負なんてできないよね?ジェラール様は今は“魔導師”を名乗っているけど、元は騎士団の副団長だった。
「お父様、素直に自分の非を認めて大公様とセレーナさんに謝罪して下さい」
「私に非など────」
「国王陛下との約束を反故にした事。王弟である私の大切な者に手を出した事。その大切な者で罪も無い者に、罪人に使用する魔道具を使用した事。そして、孫を始末しようとした事。今だけでこれだけの罪を犯しているのも分かっていないのか?ここで素直に罪を認めて謝罪すれば、極刑だけは避けてやろうと思ったが…」
「申し訳……ありませんでした…………」
パルティアーズ公爵様の謝罪の言葉に、ジェラール様がニヤリと嗤った。
ー本当に、ご愁傷様ですー




