8 唯一の生存者
*ルチア=デミトリア辺境伯視点*
「生存者が居ました!」
「本当か!?」
「はい、今、オリビアさんが診察していますが、目立った怪我はないようです」
ー何と言う幸運な事だろうー
魔獣にヤラれるか、火災に巻き込まれるかで全滅したと言うのに。一体、どうやって生き延びられたのか?は、また追々訊くとして───
「そこに案内してちょうだい」
「はい。こちらです」
案内されてやって来たのは、ピサンテの集落より少し外れた所にあった家だった。その家の周辺の木は燃え尽くされているのに、その家は多少の煤れた所はあるが、火災からも魔獣からの被害も殆んど受けてはいなかった。
「これは………」
家の周りには、セイヨウイラクサやゼラニウムが植えられている。これらは魔除けにもなり、魔獣が嫌う植物でもある。ここに来る迄には目にしなかったから、わざわざ植えていたと言う事だろう。それに、この家にも“護りの結界”が張られている。
ーここには一体どんな者が住んでいるの?ー
「この家の屋根裏部屋で、見付けました。見た目からすると、まだ成人していない女の子です」
「女の子?他の同居人は?」
「まだちゃんと確認してませんが、同居人らしき人は一緒には居ませんでした」
魔獣に襲撃された上、炎に包まれた状態で、子供だけを残して親が居なくなると言う事があるだろうか?分からない事だらけだなと思いながら屋根裏部屋迄やって来ると、その部屋には小さなクローゼットとベッドがあり、そのベッドの上に幼い女の子が寝ていた。
「オリビア、その子の容態は?」
「ルチア様、ご苦労様です。この子は──」
その女の子は、外傷は無いようだけど、精神的にショックを受けているのか、マトモに会話をする事ができなかったそうだ。
「発見した時は意識もあったんですけど、診察をしている最中に意識を失ってしまって……この子が13歳だと言う事ぐらいしかまだ分かってません」
「13歳!?そんな年齢には見えないけど……」
「そうですね。平均的な13歳の子供よりも、かなり小さくて幼く見えますね」
「「…………」」
ひょっとすると、この子はこの家で1人だったのかもしれない。
「兎に角、このままここには置いておけないし、住み続ける事もできないから、ウチで預かろう。マーロン、この子を屋敷に運んでちょうだい」
「承知しました」
マーロンが女の子を抱き上げて部屋を出て行くのを見送った。
「この家全体に“護りの結界”が張られているけど、あの子は魔力持ちなの?」
「魔力……は感じませんでした。まぁ…状況が状況ですから、ちゃんと調べてみないと分かりませんけどね」
とは言え、かなりの大掛かりの魔法だから、あの子が張った魔法の可能性は無いだろう。
「それに、これまた凄いマントね……」
「本当に。このマントのせいで、最初はあの子に気付きませんでしたから」
魔法を纏わせて作られたマント。詳しく調べてみないと分からないけど、おそらく、“認識阻害”の魔法が掛けられているのだろう。ひょっとすると、“護り”の魔法と二重に掛けられているかもしれない。
「あの子は、このマントのお陰で無事だったのね」
「そうですね」
ならば、状況を見る限りでは、あの子は親に愛されていた筈だ。それなのに、何故1人だったのか。
「あの子が目を覚まして落ち着いたら、ゆっくりで良いから話を訊かないとね。オリビア、ここはもう良いから、貴方も先に屋敷に戻ってあの子に付いてあげてちょうだい」
「分かりました。それでは、お先に失礼します」
オリビアを見送った後、家の中を少し見て回り、あの子の物らしき服と、お金の入った巾着袋とマントを持って、私もこの家を後にした。
あれから2日──
女の子は、深い眠りと微睡みを繰り返している。意識のある時に何とか薬を飲ませ、余裕があればスープなどを口にさせている。
『この子が幼く見えるのは、栄養不足だからですね。それと、見えない所に傷痕がありました』
典型的な虐待が疑われる。ただ、あの家にはこの子しか居なかったから、同居人は逃げた先で──
「やっぱり、ピサンテの住民票等は見付からなかったので、行方不明者が居るのかどうかの確認は無理のようです」
「仕方無いわね」
ピサンテのような少数の集落の納税は、1年の収入や収穫から決められた割合分を収めるようになっているから、その集落に何世帯で何人が住んでいるのか、国は把握していない。国にとって脅威になるような村でもないから、特に報告義務すらない。
「取り敢えず、10日程見回りを続けて、もし人が居たら保護して連れて来るように」
「承知しました」
不思議な事に、魔獣に襲撃された跡は残っているのに、被害を受けたのはピサンテだけだった。穢れが溜まれば、そこから魔獣が現れる事もあるけど、そんなような場所はまだ確認できていないし、魔獣達が何処へ去ったのか、何故他の領は何の被害も無かったのか──
「謎が多過ぎる」
先ずは、あの子が目を覚ますのを待つのみ。




