73 父?兄?それとも─
「カイリーが亡くなった」
と言う報せを聞いたのは、あの面会から3日後、ナディーヌが地下牢から出て、パルティアーズの領地に向かってから2日後の事だった。
あれから一度だけ目を覚まし、『ジェイミーは……』と一言呟いた後、そのまま息を引き取ったそうだ。カイリーさんは、最期の最期迄、娘の事を思って逝った。
ー誰かとは大違いだよねー
複雑な気持ちにはなるけど、悲しい気持ちは無い。薄情と言われようとも、縁を完全に切った事は後悔してないし、未練も無い。スッキリした気持ちになれたのは、あの時に思い切り泣いたからだと思う。ジェラール様には感謝だ。
ーお父さんが居たら、あんな感じなのかなぁ?ー
と思っていたけど、今では歳の差が5つしか変わらないから、“優しいお兄さん”と言ったところかもしれない。相手は大公様だから、お兄さんにもならないけど。それでも、安心する存在である事に変わりはない。
ナディーヌは、国王様から王都での滞在を禁止された為に、“療養”と言う名目でパルティアーズの領地で過ごす事になり、母親の公女様も付き添って行く事になったそうだ。そして──
「アラールが監視役として、暫くの間パルティアーズの領地に滞在する事になった」
第一王子の2度目の失言は、ジェラール様が誘導したからと言うのもあるけど、失言した事に変わりはなく、そのせいで私が危険に晒された─と言う事で、その罰の1つとして、監視役を言い渡されたそうだ。
「王位継承権も剥奪された」
「えっ!?剥奪!!??それは、重過ぎでは───」
「重過ぎじゃないわ。もともと王になれる資質が無かったから、軽過ぎる処罰だと思うわ」
と、毒舌なのはロクサーヌ様。
「本当に、ロクサーヌが王太女で良かったよ」
と微笑んでいるのはジェラール様。
第一王子の扱いが何とも……分からなくもないけど。取り敢えずは、これで一段落ついたと言ったところだ。
「ロクサーヌ様、わざわざ報告をしに来ていただいて、ありがとうございます」
「当然の事だから気にしないで。それに、セレーナの手作りお菓子が食べたかったからね!」
「そっちがメインだろう?」
「ふふっ……」
この2人のやり取りは、見ていていつも楽しい。
それに、いつも褒めてくれるし、いつも温かい。これからも一緒に居たいと思ってしまうけど、きっとそうはいかないだろう。
ロクサーヌ様は王太女で、私がピサンテの唯一の生き残りではなかったら、出会う事すらなかった人だ。
それは、ジェラール様も同じ事だ。それに、ある程度の調査も終わったから、私が手伝う事も殆ど無い。殆ど無いと言う事は、もう関わる事が無くなると言う事だ。一緒に居る事が当たり前になりつつあるけど、貴族と平民の隔たりは大きい。だから、今のこの状態が異例なだけ。
「それから、この家についてなんだけど…セレーナはどうしたい?」
「どう──と言われても……」
ここは、取り敢えずジェラール様が管理をする事になったのでは?なら、私がどうこう言う事は無い。
「叔父様が管理するとは言え、ここはセレーナの家だから、もし希望があるなら聞きたいのよ」
「希望……としては、無理な事は分かってますけど、ここで暮していけたら…と思ってます」
お父さんの思いが詰まっているから。
「それなら、セレーナがここに住むと良い」
「え!?でも……」
ピサンテ村は、国王預かりとなって、ジェラール様が管理をしているから、平民の私が住む事はできない……筈。
「管理をしている私が『良い』と言ってるんだから、何も気にせず住めば良い。もし、それでも気になるようなら……これからも、私に料理を作ってくれれば良い。それなら、料理作りを口実に、この家に居られるだろう?」
「なるほど……」
確かに、そう言う理由があれば、私も気にせずこの家に居られるし、何より、私の手料理を食べてもらえる事が嬉しい。
「私なんかの料理で良ければ、作らせていただきます!」
「うん。セレーナの手作りだから、これからも食べられるなら嬉しいよ」
ぽんぽん─と、優しく頭を撫でられる。それがまた、嬉しい。
「流石は叔父様ね。早いわ………」
何が早いのか?とは訊けなかったけど、2人とも笑っているから悪い事じゃないんだろう。
「これからも……宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しく頼むよ」
*ロクサーヌ視点*
『ピサンテ村が、国王預かりとなり、大公が管理する』
と言う事は、貴族社会では既に知られている。そんなピサンテに、『女性が住んでいる』と言う噂が流れたりすればどうなるのか?予想するのは簡単。
『ピサンテには大公の恋人が住んでいる』
一度噂が広まれば、セレーナが否定したところで、それを信じる貴族は少ないだろう。叔父様が否定する筈も無いから。寧ろ、その噂を利用して──
腹黒と溺愛は紙一重
「セレーナが幸せになるなら…良いのかしら?」




