67 お父さんの色
体の痛みに引き摺られて目を覚ますと、そこはピサンテの家の私の部屋だった。
「ゔ………」
体に痛みはあるけど、倒れる前程の痛みではなく、我慢できる範囲の痛みだった。
「セレーナ、目が覚めたのね。ひょっとして、体に痛みがある?」
「アデールさん……はい。体中じゃなくて、手足の関節がギシギシと痛い感じです……」
「やっぱりね。でも、それは直ぐに治まるわ」
「そう…なんですか?」
「だって、その痛みは───」
と言って、アデールさんに手鏡を渡された。
「説明するよりも、実際に見た方が早いから」
「?」
何を見るのか?と思うけど、手鏡で見るものと言えば自分の顔。素直に鏡を覗くと──
「え?」
そこには、長い銀髪に水色の瞳の女性が映っていた。勿論、後ろを振り返っても誰も居ない。もう一度鏡を見る。
「あ……お父さんと同じ色?」
夢で会ったお父さんも、銀髪に水色の瞳だった。お父さんの水色のよりも、私は少し薄い水色だけど、指輪と同じような色でもある。
「その姿が、本当のセレーナの姿よ」
「これが……私の…………」
「“名前”を奪われると本当の姿さえも奪われるのよ。だから、存在があやふやになって、記憶からも消えてしまったりするの。“歳”は奪われるとその分容姿が変わってしまう。セレーナの場合は、2つの呪術によって、大分容姿が変わっていたから、奪い返した後、元の姿に戻る時の反応が大きくなってしまったのよ」
本当に大変だった。あんなにも辛かった5歳の時の魔力暴走の時よりも辛かった。体中の熱と痛みはアレどころじゃなかった。それでも、私が今回も乗り越えられたのは、この家─お父さんのお陰だったそうだ。
アレが夢でも妄想だったとしても、お父さんに会えてお礼が言えて良かった。お母さんに関しても、私にとっても更にスッキリできた。
『赦さなくて良い』
私は間違ってない──と言ってくれているみたいだった。
「急激な成長で、手足の関節が痛いと思うけど、それもすぐに無くなって、直ぐに元気に動き回れるようになるわ。取り敢えず、寝込んでいたせいで体力は落ちてるでしょうから、何か軽く食べてから体力回復ポーションを飲んでもらうわ」
「はい。ありがとうございます」
アデールさんが食事の用意をする為に部屋から出て行くと、私はまた鏡を見る。
魔力発現の前はピンク色だった。それが、魔力暴走を起こした後は薄い水色の髪に薄い紫色の瞳だった。そして、今はお父さんと同じ色。
「嬉しいな………」
それから、アデールさんがスープを作って持って来てくれた頃には痛みも無くなっていて、ポーションのお陰ですっかり元気になった。
「寧ろ、倒れる前より体が軽いかも」
「本来の姿に戻って、器と魔力のバランスが良くなったからだと思うわ」
名前と歳を取り戻せて良かった。とは言え、私のしたい事はする予定だけど。
「ジェラールも心配してたけど、今は王城に行っているから、帰って来たら……驚かせてあげましょう。ふふっ…」
そう言えば、倒れてから苦しんでいた間、ジェラール様が側に居てくれたような気がする。お礼も兼ねて、帰って来たら料理を作ろう。
「兎に角、今日はもう遅い時間だから、ゆっくり寝ると良いわ」
「はい、そうします。アデールさん、ありがとうございます。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
******
私が寝てしまった後、ジェラール様が王城から帰って来たそうだけど、驚かす為に私の部屋には入らせないようにしたと言うアデールさん。
「セレーナが起きている時に驚かせたいでしょう?」
「そうですね」
ジェラール様がどんな反応をするのか──正直、楽しみで仕方無い。
ただ、ジェラール様は疲れていたのか、午前中はずっと寝たままで起きて来なかった。それなら─と、時間があったから、ジェラール様がいつ起きても食べれるようにと、サンドイッチを作る事にした。多分、一番のお気に入りは隠し味が決め手の玉子サンド。ガッツリのお肉より鶏肉やハムの方を好んで食べる。意外とフルーツサンドも食べる。アデールさんはフルーツサンドが大好き。ちなみに、エルトン様はガッツリのお肉好き。
作ったサンドイッチをアデールさんと食べた後、久し振りに庭に出て家庭菜園をする事にした。
「これも食べれるの?」
「食べれますよ。ミントみたいな味でスッキリするんです」
アデールさんに説明しながら摘み取っていると、家の中から誰かが走って来る足音がした。
「あら、ようやく起きたのね」
ジェラール様だ。
「あ、ジェラール様、おはようございます」
「おはよ………では……なくて……え?」
そう言って、私を見たまま固まってしまったジェラール様。その様子を、アデールさんと私は
「成功したわね」
「成功ですね」
と笑い合った。




