66 玉子サンド
*ジェラール視点*
数日ぶりに王城に戻り、兄上の執務室に行くとロクサーヌも居て、2人からカイリーとジェイミーの話を聞いた。
ピサンテから転移した後のカイリーは、数時間して目を覚ましたが、魔力は枯渇して体を動かす事もできないそうだ。そして、2度目の呪詛返しをくらって体は苦痛だらけで、どうやら視力も完全に失ってしまったそうだ。
「拘束を解いて2度も呪術を掛けた──として、『生かして手懐けて置いておく』と言う声は上がらなくなった。それに『死刑』では甘いと言う事になって、『今の状態を見守る』事になった」
「それで十分でしょう」
『見守る』と言いながら、実のところは『放置する』と言う事だ。あの苦痛から逃れられず、苦痛と共に死を待つだけ。
セレーナを奪う事もできず、娘のジェイミーも助けられずに死を迎えるだけ。1度目の呪詛返しで反省していれば、もう少し長生きができたかもしれなかったのに。まぁ、俺としては予定通りの結果だ。
「次にジェイミーについて。未だにアリシア様はジェイミーに会いに来ていません。ただ、パルティアーズ公爵から面会の申請があって、3日後の午前中に面会予定です」
これは意外だった。予想では、公爵が面会に難色を示して来ないと思っていた。どんな理由で会いに来るかは分からないが、あの公爵が来るのは驚きだ。
「ただ、ジェイミーも呪詛返しを更にくらって、もう視力も失ってしまって、苦痛で意識を失う事もよくあるので、予定通り面会できるかどうかは微妙です」
正直なところ、ジェイミーも時間の問題と言ったところか?ただ──
「ハッキリとは聞いてはいないが、セレーナは公女とジェイミーに会って話がしたいようだった」
理由は分からないが、最後に言いたい事があるのかもしれない。
「セレーナが目覚めてからの話で、ジェイミー次第になるだろうけど」
「それじゃあ、セレーナが目覚めて元気になったら連絡して下さい。直ぐに対応します」
「分かった。ありがとう」
3日後の面会で、公爵と公女がジェイミーに対してどんな対応をするのか。
「始末されないように、数人の見張りを付ける予定です」
「抜かりないな」
切り捨てて終わり──にはさせない。セレーナをはじめ、ピサンテの殺された者達が味わった苦痛から、簡単に逃れるような事はさせない。
2人に関しての話が終わり、俺からセレーナについての話をして、久し振りに王城で夕食を食べた後、俺はまたピサンテに戻った。
******
ピサンテに戻ったのは夜も遅い時間だった。
「セレーナなら、もうすっかり落ちついて、今はぐっすり眠っているから、明日にでも見に行ってあげて」
「そうか、なら良かった」
今すぐ見に行って、穏やかに眠るセレーナを見て安心したいところだが、アデールがそう言うなら大丈夫なんだろうし、起こしてしまっては申し訳無いから、明日の朝一にでも見に行こう。
「それじゃあ、私も部屋で寝るよ。おやすみ」
「ええ、おやすみなさい……ふふっ……」
「?」
ーアデールが笑ったような気がするが…気のせいか?ー
少し気にはなったものの、俺も疲れていたせいか、ベッドに寝転ぶと、あっと言う間にそのまま眠りに落ちていった。
よほど疲れていたのか、次に目を覚ましたのはお昼前だった。何か食べようかとキッチンに行くと、机の上にサンドイッチが用意されていた。
ーセレーナの作る玉子サンドが食べたいなー
玉子サンドは、王城の朝食でもよく食べていた。それはそれで美味しかったし、俺の好きな物でもあったけど、セレーナの作る玉子サンドは、それよりも美味しかった。『隠し味を入れてます!』と少し自慢気に答えていたセレーナは可愛かった。隠し味を入れている事を、堂々と言っても良いのかは分からないが。
「………」
正直、玉子サンドだけじゃなくて、セレーナの作った物が食べたい。もうどれぐらい食べていないんだろうか。
「………」
ー餌付け……されてるのか?ー
「………ふっ………」
たとえそうであっても、嫌な気にならないから不思議だ。“娘”だからか?
兎に角、このサンドイッチを食べたらセレーナを見に行こう─と、目の前のサンドイッチを手に取って口に入れた。
「!」
ガタンッ───
口に入れて直ぐに気付いて、椅子から立ち上がり2階に駆け上がる。部屋の扉をノックしてから入ると、そこには───
「居ない?」
寝ている筈のセレーナが居なかった。
「何処に───」
と焦っていると、外からアデールの声が聞こえて、俺は走って1階に下りて庭に出た。
「これも食べれるの?」
「食べれますよ。ミントみたいな味でスッキリするんです」
庭に出ると、そこにはアデールが居た──のは居たが──
「あら、ようやく起きたのね」
「あ、ジェラール様、おはようございます」
「おはよ………では……なくて……え?」
アデールと一緒に居たのは、銀髪に水色の瞳の女性だった。




