65 都合の良い夢?
*アデール視点*
「お……ねが………ジェイミーだけ……は………」
「残念ね。貴方に助けを求める権利は無いわ」
クズ以下の女だけど、母親としては“良い母親”なのかもしれない。死ぬと分かっていながら、セレーナから名前を奪ってジェイミーを助けようとした。赦される事はないけど。
「ただ、ジェイミーに関しては、ティニー次第の処罰になるわ」
「……そ……う………げほっ……は……ぁ……ホントに……最後まで………✳✳✳✳✳…」
「っ!ジェラール!ティニーを護って!」
一体どこに魔力が残っていたのか。カイリーが呪文の様なモノを呟いた。
ガタガタガタ─ガタンッ────
「な……何!?」
「っ!?」
カイリーが呪文を言い終わる前に、部屋にある机がガタガタと大きな音を立てて揺れ出したと思えば、その引き出しから光を放ちながら魔法陣が現れた。
「ま…法……陣?」
ー何故、机の引き出しから魔法陣が!?ー
その魔法陣から、人の顔程の大きさの水玉が現れ、そのままカイリーの顔を取り込んだ。
「っ!!??」
顔だけ水の中に突っ込んでいる状態。そうなれば、普通の人間は息ができない。カイリーも、苦しそうにもがいている。
「セ……ティニーの魔法陣かしら?」
「おそらく……ふっ………」
ー何とも可愛らしい攻撃魔法ねー
背後でジェラールが笑っているのが分かる。
その水玉状態を保っていたのは1分にも満たなかったけど、今のカイリーには十分過ぎる攻撃となった。その水玉が消えたと同時に、カイリーはその場に倒れた。まだ微かに息はあるけど、長くは保たないだろう。
「これで、『生かして手懐けて置いておく』なんて意見はもう出ないでしょう」
再び呪詛返しを食らったのだから、その苦痛は計り知れない。このまま、苦痛に耐えながら死を迎えるだけ。ある意味、一瞬で終わる死刑よりも重いものになった。
「自業自得ね。この女の転移をお願いするわ」
「承知」
私がお願いすると、どこからともなく2人の影が現れて、倒れているカイリーと共に王都へと転移して行った。
「セレーナは大丈夫?」
「大丈夫だ。それに、体の熱も下がって来たような気もする」
確かに、呼吸も少し落ち着いている。それなら、そろそろ変化が起こるかもしれない。
「今日からは、私もここで過ごすわ。落ち着いて来た頃に何かあっても対処できるように」
「それなら安心だ」
その翌日──
『兄上から、一度戻って来いと言われたから王城に行って来る』
と言って、ジェラールは朝早くに王城へと転移した。
セレーナは、熱が下がった事もあって穏やかな表情で眠っている。まだ少し魔力の流れが不安定だけど、ここまで来ると、後は待つしかない。その時はまた、セレーナにとっては大変なのかもしれないけど。
「そう言えば、セレーナは一体何歳なのか……分からないままだったわね」
一体何歳奪われていたのか。カイリーからも訊けず、公女も未だに沈黙を貫いているから、誰も確認できていない。奪う年齢が多い程魔力が必要になるから、それ程の差は無いと思うけど。
「成長が楽しみだわ」
*セレーナ視点*
ようやく体が落ち着いて来た。それでも目蓋は重たいままで、今はゆっくり寝る事にする。
次に目を覚ました時、私はどうなっているのか。公女様やあの2人はどうなっているのか。
公女様とは……話をしなければいけないと思っているけど、話したくないとも思ってしまう。
ーどうすれば良いんだろう?ー
「お父さん、私、どうすれば良い?」
『セレーナ………』
どこからか、私を呼ぶ優しい声がする。
誰の声なのか分からない。でも──
「おとう……さん?」
『やっと、呼んでくれた』
「!?」
私の目の前に、あの絵とそっくりなお父さんが居た。
『色々大変だったな。でも、もう大丈夫だから』
「お父さん……」
『セレーナの成長が見れないのは残念だ』
「…………」
『セレーナ、アリシアの事は、無理に赦さなくて良いんだ。母親だからと言って、セレーナが赦す必要は無い。それに、セレーナには、アリシアが居なくてもセレーナを思ってくれる人達がたくさん居るだろう?その人達を大切にすれば良いんだ』
「お父さん………は……一緒には居てくれないの?」
『ごめんな………でも、いつでも見守っているから』
困った顔のお父さん。困らせたかった訳じゃない。
「お父さん、お父さんの事を覚えてなくてごめんなさい。それと、私を助けてくれてありがとう。お父さんの事が大好き!」
ガシッとお父さんに抱きつけば、しっかりと受け留めてくれた。
『俺も、セレーナが一番大切で愛してるよ。これからは、もっと幸せになるから』
「お父さん、ありがとう……」
『それから、セレーナは────』
なんて都合の良い夢だろう。
それでも、たとえ夢でも妄想だとしても、お父さんに会えた事は嬉しい。このまま覚めなくても良いのに───
と思っていると、また体中が痛みだし、私の意識は外に引き摺られた。
『セレーナ……会えて良かった』




