60 親子鑑定の謎
*ジェラール視点*
「あら、言ってなかった?あの女─カイリーは、名前だけじゃなくて、“歳”も奪っていたのよ」
全く聞いてない!奪われていたセレーナ本人ですら驚いて固まっているからな!
「でも、セ…ティニー本人でさえ自分は13歳だと言っていたが……」
「名前を奪われると、記憶が失われたり曖昧になるって言ったでしょう?ティニーも名前を奪われた事で、実際の年齢じゃなくて奪われた後の年齢に引き摺られていたんだと思うわ」
とは言え、セレーナは今の所見た目の変化は無い。と言う事は、それ程の年齢の差が無いのかもしれない。
「ナディーヌ!どうして───」
ただ、呪詛返しを食らったナディーヌは違うようだ。目を介した呪術だったからか、特に目へのダメージが酷いようだ。それに、まだまだ幼さの残る可愛らしかった容姿は、母親の公女よりも老けた顔になっている。倍以上どころではないのでは?
「これで、ハッキリしたな。そのナディーヌが偽者だったと」
「っ!」
冷たい声でハッキリと言い放ったのは国王だった。その言葉を受けて、顔色を悪くしているのは公女だ。それも仕方無い。信じていた娘が偽者だったのだから。そもそも、公女は違和感を抱きながら受け入れていたようなところがあった。その理由は簡単に予想ができる。あのナディーヌがピンク色で“魔力持ち”だったからだ。
幼い女の子が必死で伸ばした手を払い除けた公女。きっと、魔力持ちだと分かっていたら、払い除けずに話を聞いていて、今のような状況にはなっていなかったのかもしれない。それでも、公女に同情する気持ちは微塵もない。自分で選択したのだから、自業自得でしかない。
「でも……親子鑑定で90%の結果が出たんです。もちろん私は不正なんてしていません!」
そう。それが一番の謎だ。
公女も神官も不正をする理由は無い。不正をしたところで何の得にもならない。誰が得をするかと言うと、カイリーとジェイミーしかいない。でも、2人とも不正をした様子はなかったと、神官達も言っていた。
親子鑑定は、少量の血か髪の毛で鑑定する。どちらでも鑑定結果は変わらない。ただ、カイリーがジェイミーの髪を切って、その切った髪を神官に渡しただけだ。
「髪………あ、分かった……かも?どうして90%が出たのか」
そう呟いたのはセレーナだ。
「私の作ったご飯に、髪の毛が入ってると言われて………髪を切られた事があって……」
『そんな長い髪の毛は、料理をするにも邪魔になるし、また料理に入ったりすると嫌だから切ってあげるわ』
そう言って、“髪を整えてくれた”のではなく、1つに纏めて括っていた所をザクッと切られたそうだ。昔程、髪の長さに拘る風習は無くなっているとは言え、髪を勝手にバッサリと切る事は非常識だ。本当に本物のクズだ。
「それは、学校に行く少し前の事でした。その時の私の髪を、カイリーさんが持っていたら?」
「「「あぁ!」」」
「それなら、親子鑑定で90%が出てもおかしくはない。なるほど……だから、血ではなく髪の毛で鑑定したのか」
血で鑑定する場合は、神官が相手の手に針を刺して2、3滴程採取するが、髪の毛の場合は自分自身か鑑定する側の者が切る。他人が髪を触る事を良しとしない貴族が多いからだ。だから、カイリーがジェイミーの髪を切っても、誰もおかしいとは思わなかっただろうし、簡単に違う者の髪の毛と入れ替える事ができただろう。2人の髪の色は違うが、色はなんとでもなる。
「髪の毛か……今後は、髪の毛での鑑定に関しては色々考えなければならないな……」
兄上の言う通りだ。
「それじゃあ……まさか……」
「おかあさ……ちがっ……わたしはほんと…に……」
自分に呪いが返って来ている事が、偽者だと言う一番の証拠になっているのに、それでもなお、ジェイミーは認めようとはしない。公女はようやく理解したようだが──
ーもう、何もかもが遅いー
何度かのチャンスはあったし、与えられたが、それらを全て払い除けて自分達で選んで今がある。セレーナに視線を向ける。セレーナに至っては、いくつかの驚きの事実を知って目をパチパチさせてはいるけど、公女とジェイミーに対しては何の感情も持っていないように見える。
目をパチパチさせているセレーナは、今の姿の年相応な様子で可愛らしい。本来の年齢は分からなくなったが。
「取り敢えず、この場はお開きにする。公女は今日はこのまま王城に留まってもらう。その娘は、エルトンの監視の元で地下牢に入ってもらう」
「ちかろ…なんで…イヤです!おかあさま!」
「…………」
ジェイミーが公女に必死にしがみついているが、公女は無言のままでジェイミーを見つめている。
ー偽者だと理解した途端、また切り捨てるのか?ー
何が悲劇の母娘なのか。公女は子供の事を何だと思っているのか。でも、今回は切り捨てて終わらせる──ような事はさせない。
「───っ!!??」
「ティニー!?」
慌てた様な声を出したアデールの方を見ると、息苦しそうに倒れているセレーナが居た。




