57 対峙
突然ジェラール様がやって来て、一緒にお茶をしてご飯を食べた日から2日。今日は色んな魔法陣を描いている。お父さんは防御の魔法陣が得意だったようで、薬草のノートにも、何個かの防御の魔法陣が殴り書きされていた。文字通りの殴り書きでちゃんとした魔法陣ではないから、解読するのは難しい。でも、ひょっとしたら、お父さんが考えた魔法陣を纒めたノートが何処かにあるのかもしれない。落ち着いたら探してみようと思っている。
ー今日は、攻撃の魔法陣も描いてみようかな?ー
普段は、エルトン様が居ない時は攻撃の魔法陣を描く事はない。発動させてミスをして爆発させたりすると危険だから。それでも、今日は何となく描きたい気分になって1つだけ描いた後、間違って発動させないように、机の引き出しに入れておいた。
それから、お昼ご飯を食べた後、あまりにも平穏過ぎて、ソファーに座ったままうとうととしてしまった。
『──ナ……気を付けて…もし───なら───』
「──────ん?」
寝てしまったのは数分だけだったけど、お父さんの夢を見た──ような気がする。そのお父さんはボヤケていたけど、私に何かを言っていたような?
ブンッ───
と、リビングの窓際に設置していた魔導具のランプに明かりが点いた。
「っ!!」
このランプに明かりが点く理由は1つ。
ピサンテに、許可されている人以外の人がやって来た時だ。
ーカイリーさんが来たんだー
今、ピサンテ全体に魔法が掛けられていて、普通の人ならピサンテに入れないようになっているし、入れたとしても直ぐに外に出されるようになっているから、ピサンテの奥にあるこの家までやって来れる人は居ない。でも、カイリーさんほどの闇の魔力持ちなら、ここ迄辿り着く可能性が高い。否、きっと辿り着く。
「大丈夫。私は……独りじゃない」
そう言い聞かせてから、私はこれからの事に備える準備を始めた。
*カイリー視点*
「この家だけが……残ってる?」
久し振りに訪れたピサンテは、以前の姿とは一変していた。それもそうだ。あの日、魔獣によって壊滅させられたのだから。それなのに、何故この家だけ、そのままの状態で同じ場所に建っているのか?
「まぁ、それもどうでも良いわね」
この家の中に、あの子が居る気配がする。唯一生き残った生存者は、やっぱりあの子だった。運良く生き残ったのに、相変わらず独りぼっちのようだ。
「独りぼっちは可哀想だから、直ぐに皆の所に送ってあげないとね……」
私は、久し振りにその家の玄関の扉を開けた。
「カイリーさん?」
「久し振りね」
リビングのソファーに座っていたのは、やっぱりナディーヌだった。
「生存者が居ると聞いて、まさかと思っていたけど……貴方が生きていて…良かったわ」
「私の事を心配していた……んですか?」
「勿論よ」
虐げられ続けて来た子は、少し優しくすれば直ぐに気を許す。そうして気を許したところで──
「それは……心配になりますよね。私が死んでいなければ、全てを失う事になるから」
「何を言っているの?」
ーこの子は、どこまで気付いて……知っているの?ー
「私、知ってるんです。ジェイミーがナディーヌになって暮らしているって」
「………」
「この事をバラされたくなかったら、私の名前を返して下さい」
「……ふふっ…………」
「何が可笑しいんですか?」
「何が可笑しいか?お前の全てが可笑しいのよ。『返せ』と言われて返すわけがないでしょう。返すつもりなら、ピサンテを壊滅させたりしてないわ」
全てを奪う為に、お前の名前を奪ってピサンテに魔獣を召喚したのだから。
「魔獣の襲撃を受けて、どうやって独りぼっちのお前が生き残ったのか……本当に忌々しい!お前さえ生きていなければ、何の問題もなく全てを奪えるのよ。名前を返す必要なんて無いわ。どうせ、お前は今日ここで独りで死んで行くのだから」
「魔獣を召喚させて、ピサンテを壊滅した事を認めるんですね?全ては、カイリーさんが仕組んだ事だったんですね?私の名前を奪う為に、私に呪術を掛けたのもカイリーさんだったんですね?」
「ふふっ…………どうせ最期だから教えてあげるわ。そうよ。アリシアとお前から全てを奪う為に、私が仕組んだ事よ。でも、アリシア──お前の“お母さん”は、お前ではなくジェイミーを選んだ。お前は選ばれる事も話を聞いてくれる事もなく捨てられたのよ。可哀想にね」
アリシアは、自ら魔力無しの実の娘ではなく、魔力持ちの私の子を選んだ。アリシアの事故に私は関わっていない。事故に遭って記憶を失ったのは、本当に偶然に起こった事だ。でも、記憶を失ったからと言っても、自分の子を捨てても良いと言う事は無い。
「独りぼっちは寂しいでしょう?だから、私がお前を皆の所に送ってあげるわ」
この子が死ねば、私に返って来た呪詛からも解放されて、ジェイミーの存在も安定する。
「さようなら……ナディーヌ」




