52 2度目の失言
*第一王子アラール視点*
「アラール様、お茶のお誘い、ありがとうございます」
「ナディーヌ、急な誘いに応じてくれてありがとう」
ナディーヌは、私の急な誘いにも関わらず、嫌な顔をする事も無く笑顔でやって来た。ナディーヌの笑顔にはいつも癒やされる。
「アラール殿下、お久し振りでございます」
「パルティアーズ公女も、今日は母上とのお茶会だったんですね」
「はい。王妃様のお茶会に行く前に、アラール殿下に挨拶をと思いまして。本日もナディーヌの事を宜しくお願いします」
母上が『パルティアーズ公女とお茶会をする』と聞いてすぐ、私はナディーヌをお茶会に誘ったのだ。母親と一緒なら必ず来てくれると思ったから。そして、今日は珍しい客人も一緒だった。
「体調が優れないと、ナディーヌが心配していたが、今日は大丈夫なのか?」
「お久し振りでございます。お気遣いありがとうございます。体調は問題ありません。王妃様からのお誘いですから、喜んで参りました」
「なら良かった」
公女とカイリー夫人は、私への挨拶を済ませると、直ぐに母上のお茶会へと向かって行った。
カイリー夫人
詳しい出自は知らないが、自分の娘を喪った後、独りになったナディーヌを守り育てていたと言う事で、ナディーヌと一緒にパルティアーズに来て、表向きとしてナディーヌ付きの侍女として召し上げられた。公爵家では『カイリー夫人』と呼ばれていて、時々王妃のお茶会にも呼ばれて参加している。容姿は美人で貴族社会のマナーは完璧。本人は平民だと言っているが、ひょっとすると元貴族だったのでは?と思っているが訊いた事はない。
そんなカイリー夫人は、最近は体調を崩す事がよくあるそうで、今日は会うのは久し振りだった。ピサンテでの暮らしは大変だったそうで、その体への負担が今になって現れたのかもしれない。
村民から酷い仕打ちをされていたのに、全く擦れていないナディーヌ。そんなナディーヌと、あの唯一の生存者を会わせてはいけない。あの生存者も、ナディーヌを苛めていた者達の1人だろうから。なのに、ロクサーヌはその子に名前呼びを許した上に、叔父上と一緒にお茶会に誘った。
ー何故、そんな事ができるんだ?ー
ナディーヌは公女の実の娘で、ロクサーヌとは友達じゃないのか?その子よりもナディーヌを優先すべきじゃないのか?しかも、あの叔父上までもがあの子を側に置いている事が気に食わない。誰彼構わず信じるなと言っておいて、何故あの子を優先するんだ?父上までもが何も言わない。それなら、ナディーヌを護れるのは私しかいない。
「アラール様、どうかしましたか?」
「いや、何でもない。さぁ、ナディーヌ座ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
******
「叔父上が?」
「はい。アラール殿下にご挨拶にいらっしゃっていますが、どうされますか?」
ナディーヌと2人の時間を楽しんでいると、女官から尋ねられた。
「勿論、通してもらって構わない」
尊敬する叔父上の挨拶を断る理由はない。女官に許可を出すと直ぐに叔父上がやって来た。
「アラール、急に来て悪かったね。視察以来だったから、挨拶だけでもと思ってね」
「いえ、私も叔父上にお会いしたかったので、来ていただいて嬉しいです」
「大公様、お久し振りです」
「あぁ、ナディーヌ嬢も元気そうで良かった。お茶の時間を邪魔して悪かったね。私はこれで失礼するから、また2人でゆっくり──」
「叔父上、ここで一緒にお茶をしませんか?ロクサーヌにはあの子が居るから良いでしょう?ナディーヌも良いよね?」
「あ、はい。でも、ロクサーヌ様が……」
ロクサーヌの事を心配するナディーヌは、本当に優しい子だ。
「ロクサーヌなら大丈夫だ。ロクサーヌにも相手の子が居るからね」
「相手の子?」
「あぁ、ロクサーヌは唯一の生きのこ───」
「アラール!」
「「っ!?」」
ーしまった!また言ってしまった!ー
ピサンテに、唯一の生存者が居る事は極秘事項で、この前うっかりナディーヌの前で言ってしまって注意を受けたばかりだったのに。相手がナディーヌだから油断してしまった。叔父上は微笑んでいるけど……これは、かなり怒っている時の笑顔だ。それに、ナディーヌの顔色もまた悪くなってしまった。余程、ピサンテには良い思い出が無いんだろう。
「“子”と言う事は……生存者は……子供なんですか?」
「それを訊いてどうする?これは極秘で他言無用だと言っただろう?」
「はい、申し訳ありません!」
顔色を悪くして震えているナディーヌに向ける叔父上の視線は、とても冷たくて私でも体が震えそうになる。
ーそこまでナディーヌに怒りを向ける必要があるのか?ー
「叔父上、これは……私の失言です。ナディーヌは何も悪くありません」
「………そうか?兎に角、ナディーヌ嬢、この事は他言無用だ」
「はい………」
「アラール、お茶が終わったら私に連絡をするように」
「はい……」
叔父上はそれだけ言うと、直ぐに部屋から出て行った。
それからのナディーヌに笑顔はなく、いつもよりも早目にお茶の時間を終える事になった。




