5 異変
違う。まだ……捨てられたと決まった訳じゃないと、自分に言い聞かせる。
この日記に書いているのが本当の事なら、カイリーさんは勝手にお母さんの物を売っていたと言う事になる。8年も経っているし、お金も無いしどんな物だったのかも分からないから、捜す事もできない。
ー私達のお金で生活しておいて、私にはまともな食事も与えず扱き使われていたんだー
この事を誰かに訴える?13歳にもならない私の話を聞いて信じてくれる人が居る?カイリーさんとジェイミーは狡猾で狡賢い。私以外の人達には、母親に捨てられた子の面倒をみてあげている優しい親子を演じているし、周りはそれを信じている。
ー取り敢えず、カイリーさんに直接確認してみようー
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それから、カイリーさんが帰って来たのは3日後だった。帰って来た日は夜が遅く、翌日は食事以外は部屋から出て来ず、その翌日には昼から買い物に出かけて夜迄帰ってこず、なかなか話をする時間が取れなかった。その間も、私は色々と家事や難癖をつけられて1日中忙しい日々を過ごしていた。ただ、機嫌は良いようで、食事は3食食べれていた。
そして、今、珍しくカイリーさんに誘われて、一緒にお茶を飲んでいる。
ー何か、良い事があったのかな?ー
帰って来てから、カイリーさんは出掛ける事が多くなり、かなりの買い物をしている。そのお金も、ひょっとしたらお母さんの物を売って手に入れたお金かもしれない。機嫌は良いようだから、話をするなら、今なら大丈夫かもしれない。
「……カ……カイリーさん」
「何?」
「その……そんなに毎日買い物なんてして……お金は大丈夫なんですか?」
「アンタが気にする事じゃないわ。私は、必要な物を買ってるだけだから」
「ひょっとして……そのお金も………私のお母さんの物を売って手に入れた物ですか?」
「アンタ、何を言って──」
スッと、カイリーさんの日記を差し出した。
「これに書いてます。お母さんの物を勝手に売って!返して下さい!」
「はっ……何を言ってるの?そんな物、私は知らないわよ」
「これが証拠です!」
「ふふっ……そこに、私が書いたと言う証拠があるの?」
「え?だって、これはカイリーさんの部屋に……」
ペラペラと日記を捲る。
「あ………」
「ね?証拠なんてないでしょう?」
カイリーさんが書いたもので間違いない。間違いはないけど、この日記の何処にも名前が書かれていない。お母さんの名前すら書いていないから、他人がこの日記を読んだところで、誰の事か、ハッキリとは分からない。
「捨てられたアンタを育ててあげたのは私なのに、泥棒扱いするなんて、本当にアンタはあの女そっくりの嫌な子ね。でも……最後だから赦してあげるわ」
「最後?」
「本当に、ここは相変わらず王都からの情報が届くのが遅いわね。ジェイミーが、貴族の養子になる事が決まったのよ」
「ジェイミーが?」
ジェイミーが入学してから1ヶ月が経った頃、その学校に視察に来たとある貴族が、ジェイミーの魔法の才能に目をつけたそうで、王都の国立の学校への編入と、更には養子に迎えたいと申し出たそうだ。
何故養子に?カイリーさんが居るのに。ジェイミーが貴族になったら、カイリーさんはどうなるの?
「それでね、有り難い事に、私もジェイミーと一緒に来て良いと言われたのよ。だから、私は一度ここに戻って来て、王都に行く準備をしているのよ。その為の買い物なのよ」
「それじゃあ……ここから出て行くの?」
「そうよ。そろそろ迎えが来るの。だから……今私の手元にあるお金は、全部アンタにあげるわ」
「と言う事は…私はここに?」
「そうよ。アンタを連れて行く事はできないからね。それに……アンタには生きててもらっても……困るのよ」
「え?生きてて…困る?」
何を言っているの?と言いかけた口が動かない。椅子に座っているだけなのに、体が重くて動けない。
ーどう……なっているの?ー
「アンタが生きていると、色々と困るのよ。だから、アンタにはここでおとなしくしておいてもらわないといけないのよ」
ふふっ…とカイリーさんは笑った後、何かを口にした。
『お前が❋❋❋❋❋と────ない。❋❋❋❋❋と───れば、─────だろう』
その言葉はまるで呪いのようなもので、目の前にじわじわと闇が広がり私に纏わりついた。
「おやすみなさい❋❋❋❋❋」
カイリーさんのその言葉を最後に、私の意識はそこで途絶えた。
それから、異変が起こったのはその日の夜中の事だった。
薄暗くなった部屋で目が覚めると、そこにはもうカイリーさんの姿も、買い物をした物も無くなっていた。予定通り、迎えが来て出て行ったのだろう。そして、言っていた通り、お金の入った巾着袋が机の上に置かれていた。
ーこれで、暫くの間は生活に困る事はないわー
問題は、これからどうやってお金を稼ぐか。働ける所があるかどうかだ。
「ん?」
ーもう夜中なのに、何だか外が騒がしい?ー
私の住んでいる領地はとても小さな集落で人口が少ない上、この家はその集落の外れにあるから、夕方を過ぎれば風の音や草木の音しかしない。不思議に思って窓から外を見ると────
「な………で?」
立ち並んでいた木々が倒され、その倒れた木々を飛び越えて行く魔獣の姿があった。




