49 魔法陣に刻まれていたモノ
「4時間もあれば、十分だったでしょうね」
魔法陣の調査の結果、発動させてから4時間後に召喚された魔獣が、魔法陣の中心に出来た穴に取り込まれて強制送還されて行った。今回、その4時間の間に魔法陣から現れた魔獣は、ヘルハウンドの1頭だけだった──と言う事は
「予め、召喚する魔獣を用意していたのは確実だね」
そうでなければ、何頭もの魔獣が一斉に現れるなんて事が起こる筈がない。
「後は、この魔法陣は誰が作ったかを調べないと」
「模写した魔法陣があるから、ゆっくり調べられるよ」
幾重にも魔法が組み込まれていた魔法陣だったけど、それぞれの魔法はシンプルなもので、ジェラール様とエルトン様とアデールさんは数日のうちに、組み込まれていた魔法全てを読み解く事ができた。私にはイマイチよく分からなかったけど──
魔獣を召喚する
魔法陣を維持する
召喚した魔獣を返還する
そして──
「ここに“ナディーヌ”と言う名前が刻まれてるわ」
「………」
あの時のピサンテに、名前を奪われていたとは言え、ナディーヌと言う名前は私しか居なかった。
「『生きていられたら困る』と言われたから、きっとそう言う事なんですよね……」
確実に私を殺す為に、魔獣達に私を襲わせるつもりだったんだろう。本当に、お父さんの結界やマントがなかったら、私は真っ先に死んでいたかもしれない。私は、どれだけお父さんに助けられて来たのか。全く記憶に無いお父さん。無理……なんだろうけど、将来、この家で暮らしていけたら良いのに。
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魔法陣に組み込まれていた魔法は、すぐに読み解けたけど、誰が描いて仕組んだものなのかの手掛かりは、まだ見付かっていない。殆ど魔力の痕跡が残っていなかった上に、私の魔力を流し込んだから、魔力の痕を辿ったところで、辿り着く先はセレーナになる。
他には、魔法陣の描き方による選別方法もある。魔法陣の描き方は個人によって違っていて、クセがあったり、中にはサインを入れる人もいる。ただ、クセがあっても、その人が描いた魔法陣の見本が無ければ比べられないから、あの魔法陣がカイリーさんが描いたものだと証明するには、カイリーさんが描いた魔法陣の見本がないと証明できない。私は、カイリーさんが魔法を使ったところどころか、魔力持ちだったことさえ知らなかった。
他人の名前を奪う
幾重にも組み込まれた魔法陣
魔獣を捕獲する
それらをしただろう事から、カイリーさんはそれなりに優れた闇魔法使いなんだそうだ。
「だから、そろそろ気付いてしまうかもしれないわね」
私の瞳に残っている呪術を、少しずつ解呪してくれているアデールさんが、今日の解呪を前に私に確認する。
「セレーナに掛けられた呪術も、今日の解呪で殆ど無くなる迄になるから、それ相応の返しが向こうに行くと思うの。となれば、向こうもセレーナの生存に気付く可能性があるわ。もし、そうなった場合、向こうは必ず動くでしょうね。それでも、今日も解呪をする?」
私の生存に気付いたら、また私を殺そうとするだろう。だからと言って、このまま放っておく事はできないし、もしカイリーさんが動けば──
「ピサンテについて、何か聞き出せるかもしれないですよね?」
カイリーさん本人の口から聞き出せれば、何よりの証拠となる。ピサンテの人達に良い思い出も感情も無いけど、あれだけの人達を殺めておいて、何の罰も無く意気揚々と過ごしているのは赦せない。
「私は、名前を取り戻すと決めたから、名前だけは取り戻したいです。だから、今日も宜しくお願いします」
「分かったわ。それに、セレーナには私達が付いているから、向こうが動いたところで……迎え撃つだけよ。ふふっ……」
「ありがとうございます」
ー本当に、独りじゃないって事は心強いなぁー
誰にも頼れる事のなかった幼少期。
私の話を聞いてくれる人は居なかった。
頼れるのはお父さんのマントだけだったあの日。
それが今では──
優しい言葉を掛けてくれる人達。
私の話を聞いてくれる人達。
私を支えてくれる人達。
そんな人達に囲まれている。いつか必ず、この恩返しができるように、私も力をつけないと──と思っている。恩返しなんて、求められてはいないと思うけど。
「それじゃあ、今日も予定通り解呪をするわね」
「はい」
そして、今日も予定通り、アデールさんから解呪を受けた。
**王都・パルティアーズ公爵邸**
「────っ!!」
グッと目を閉じて痛みに耐える。
この数週間、時々襲う目の痛みが少しずつ酷くなっている事には気付いていた。『まさか…』『そんな事は有り得ない』と、その度に否定していた。でも、それは間違っていたのかもしれない。この目の痛みは返って来たモノだ。
「ナディーヌ………」
あの子が生きている。
どうやって生き延びたのかは分からないけど、生きている上に、私の掛けた呪術にも気付いて解呪もされている。
「やっぱり、私の手で直接始末をしておけば良かった」
ーあの子は今、何処に居るの?ー




