46 ロクサーヌの考察
*王太女ロクサーヌ視点*
『初めまして、ナディーヌ=パルティアーズと申します』
『私の娘です。年齢も近いですから、これから宜しくお願い致します』
『私は第一王子のアラールだ。“ナディーヌ”と呼んでも良いかな?私の事も“アラール”と呼んでくれ』
『あ……ありがとうございます!わ、私の事は、どうぞお好きにお呼び下さい!アラール様』
『私はロクサーヌよ。ナディーヌ嬢、よろしくね』
『はい、ロクサーヌ様宜しくお願い致します!』
ー私は、名呼びは許していないけど?ー
『ナディーヌ嬢』呼びした意味が分かっていないようだ。それも、今迄平民として暮らして来たから、仕方が無い事なのかもしれない。アラールが名前呼びを許したのもあるだろうし。ここで王太女だからと注意したところで、相手はまだデビュタント前の女の子で、筆頭公爵家の孫娘。ゴタゴタするのも面倒だから、ここはサラッと流しておく事にする。母親のアリシア公女を見ると、少し焦った顔をしているから、後で注意くらいはされるだろう。
双子の弟のアラールは、誰に似たのか良い意味でも悪い意味でも純粋過ぎるところがある。ナディーヌ=パルティアーズは、パルティアーズがようやく見付けた孫娘で、ピサンテでは苦労をしていたらしく、パルティアーズ公爵がピサンテに攻め込む勢いで怒っていた──らしい。そんな可哀想な境遇を憐れんでいたアラールは、ナディーヌを一目見た瞬間、その可愛らしさと儚さ?に、コロッとやられたようだった。
ー本当に、私が王太女で良かったわー
“ナディーヌ探し”には、色んな事があった。偽者も現れた。このナディーヌは、母親が認めて親子鑑定も90%と出たのだから本者なんだろう。ただ、何となく……私が受け入れきれないだけなんだろう。
それ以降、アラールはよくナディーヌとお茶をしたりしているけど、私は公務を理由に誘われても断ったりして、何回かに1回は一緒にすると言う付き合いをしている。
そんな中での、ピサンテの惨事と唯一の生存者。
『たった1人の生存者なんて、怪しさ満載だよね』
と、またまたお花畑な脳を披露したアラールには呆れしかなかった。村を壊滅させた本人1人だけが生き残る──なんて、それが本当なら『自分を疑ってくれ』と言っているようなものだ。
報告では、ナディーヌと同じ年齢の魔力無しの女の子。保護された時は栄養失調状態だったと記されていた。僻地の小さな村ではよくある事だ。それが、デミトリアで保護されてからは元気になって、今ではデミトリアの後ろ盾を得て、専属薬師が後見人となってデミトリア邸で暮している──と聞けば、私もその生存者に会いたくなるのは仕方無いよね?しかも、あの叔父様も可愛がっていると聞けば尚更。
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「ドーナツとクッキーを作って来ました」
「ありがとう」
セレーナは、私が希望したドーナツと、クッキーを作って持って来てくれた。まだ13歳だと言うのに、薬師の手伝いをしながら勉強をして、叔父様の調査の手伝いもしてご飯も作って……
「働き過ぎじゃない?大丈夫?」
「え?大丈夫です」
王族や貴族相手に『大丈夫じゃないです』なんて言える訳がない。
「薬師の勉強は楽しいですし、大公様のお手伝いは、ピサンテの生き残りとしてやるべき事だと思ってますし、私でも役に立てるのかと思うと嬉しいので……」
セレーナは、あまり表情が変わる事はないけど、そう話す時の顔は穏やかなもので、嘘をついているようには見えない。寧ろ、幸せそうにも見える。
ーこんな子が嘘をつく?ー
アラールは知らない事だけど、セレーナは公女に会った時に『自分が娘だ』と言い寄ったそうだ。ただ、それはその時の一度限りで、それからは何事も無く、セレーナも新たな住民登録はデミトリア領に平民のまま登録を済ませている。公女も特に訴えてはいないから、お父様も叔父様も動く事はなかった。一体、セレーナにどんな心境の変化があったのか。
ただ、セレーナに対しては嫌悪感が全く無い。一緒に居ても疲れる感じどころか、落ち着くような気もする。
ーこんな気持ちは……初めてかも?セレーナは、一体どんな子なんだろう?ー
「忙しい中、お菓子を作ってくれたお礼がしたいのだけど……」
「料理をするのは好きなので、お礼なんて要りません」
「そうなのね……うーん……」
この手のタイプは、物でお礼をしても素直には受け取ってくれないだろう。また、次の機会の時に色んなスイーツでもてなすのも良いかもしれない。
“次の機会”
「…………」
次の機会がある事を望んでいる自分に驚いたけど、その気持ちを否定する気は無い。
「それじゃあ、今度は私の所に叔父様と一緒でも良いから、お茶をしに来てくれる?その時に、たくさんスイーツを用意するわ」
「スイーツ……はい!ありがとうございます!」
ーうん。この子はこの子で単じゅ……純粋なのねー
「それと、私の事は“ロクサーヌ”と呼んでくれる?」
「え……っと………」
「プライベートな時だけでも良いわ。貴女の事は“セレーナ”と呼んで良い?」
「それは大丈夫です。私も……頑張って呼ばせていただきます」
少し焦ったような感じのセレーナ。これから、少しでも仲良くなれたらなぁ──と思っている自分が居た。




