41 カイリー②
生まなければいけないのか?
無事生まれても、育てていけるのか?
生んだ子を愛せるのか?
毎日不安だらけの日々だった。幸いな事に、体力は多少落ちたけど悪阻は殆ど無く、娼館の領からは既に4つの領を跨いだ所までやって来た。そこで、小さな産科で子供を出産した。
「可愛い………」
生まれてきた子は、ピンク色の髪と瞳をしていた。
1年はそこで暮らして、子供が1歳になると、私はピサンテ村に行く事にした。ピサンテは、逃げ隠れするには丁度良い村だと聞いたから。
そして、そのピサンテでブライアンに会えるとは思ってもみなかった。
「ブライアン……」
一目で分かった。最後に見た時よりも長くなった髪は、陽の光を浴びてキラキラと輝いていて、昔と変わらない笑顔を浮かべていた。
ーでも、どうしてこんな所に?ー
ブライアンは、どこかの貴族の屋敷の騎士になったと聞いていた。だから、夢が叶ったのねと思っていたのに。そこに、『ブライアン』と名前を呼んで、彼の元にやって来た女が居た。しかも、その女が抱っこしていた子供を、ブライアンは満面の笑顔で抱き上げた。そして、その女には見覚えがあった。
ーああ…そうかー
ブライアンは、あの女に子供ができたせいで、こんな所に居たのだ。あの女が、王太子ではなく平民出の騎士を選んだから、ブライアンは騎士を辞めざるを得なかったのだ。
パルティアーズ公女アリシア
公女の話は有名だった。王太子の婚約者候補を蹴って、騎士と駆け落ちして公爵家から縁を切られたと。『大恋愛物語だ』と令嬢や平民の女性からは素敵だと言われていたけど、実際、貴族令嬢に言い寄られて断れる平民が居ると思ってるのか?ブライアンだって、きっと断り切れずに受け入れたに違いない。だから、こんな所で暮らしているのよ。
「赦さないわ」
公爵家に連絡する?もう縁を切っているなら、連絡をしたところでどうなるのかは分からないし、ブライアンに矛先が向くのだけは避けたい。なら、公爵家には連絡せず、あの女を排除すれば良い。
暫く様子を見てすぐに分かった。あの女は本当に公爵家から縁を切られたようで、お金の援助は受けてはいないようだった。そのせいで、ブライアンは月に何度も他領へ魔獣の討伐に出掛けたり、貴族の領地視察時の護衛についたりして稼いでいた。その間、あの女は子供の面倒をみて過ごす。いつも地味な服を着て、アクセサリーは一切着けていないどころか、結婚指輪すらしていない。
ー意に反する結婚だったのねー
あの女に愛情が無い証拠では?本当に、可哀想なブライアン。
「私が、あの女からブライアンを助けてあげないと」
それは簡単な事だった。
私の容姿は美人に分類されると思う。だから、私が少し悲しそうにして
『あの子供は、ブライアンの子じゃないのかもしれないらしいわ』
『ブライアンに働かせて、自分は家では何もしていないそうよ』
『この村が気に入らないから、少し離れた所に家を建てたそうよ』
『ブライアンは、優しいから言う事を聞いてあげて、1人我慢しているのよ』
なんて言えば、特に男性はコロッと騙されて信じていき、女性も繰り返し言い続けると信じるようになっていった。
あの女に関しては、もともと村の人達と交流を持っていなかった事で、良い印象も悪い印象もなかったのに、悪い印象はあっと言う間に広がった。
それに対して、ブライアンは村の人達の手伝いなどをしていて村の人達からは好意的に見られていたから、余計にあの女への風当たりは強くなっていった。
『俺の妻と子に何かしたら赦さない』
あの女がブライアンにチクったのか、ブライアンに呼び出されて言われた言葉。
それは本心なのか、義務的な言葉なのかは分からないけど、そう言われてしまえば控えるしかなかった。そして、あの女への攻撃を緩めているうちに───
「ブライアンが流行り病で死ぬなんて有り得ない!」
どうして、あんなにも元気だったブライアンが死んでしまったのか。あれだけ稼いでいたのだから、病気になっても医者を呼んで薬も買えた筈なのに。
「あぁ……あの女が……ブライアンを見殺しにしたのね」
きっと、病に倒れたブライアンを放置して、見殺しにしたんだ。そうすれば、自分と子だけでも公爵家に戻れると思った?自分は、ブライアンから騎士を奪ったのに。
「可哀想なブライアン……このままで済むと思ったら大間違いよ」
ブライアンのお葬式は、村の人達も手伝って執り行われた。棺の中で眠るブライアンは、とても穏やかな顔をしていた。今にも、笑いながら『死んでないよ。勝手に殺さないでくれ』と起き上がって来るんじゃないの?と思う程に。
「私が必ず、あの女に復讐してあげるわ」
銀色の髪に触れて誓いを立てる。
ーあの女から、全てを奪ってやるわー




