37 お父さん③
「仕掛けてある魔法陣の全てに、“魔素を取り込む”魔法を組み込んでいるのよ」
「「魔素を取り込む!?」」
「????」
どこの国でも空気中に“魔素”が含まれていて、それが風などで流されていると問題は無いけど、魔素が流れる事なく一定の場所に留まり続けると淀みになり、そこから魔獣が現れる。
「ブライアンは、一定期間毎に魔素を魔法陣に取り込ませて、ある意味半永久的に魔法陣が展開できるようにしたの。そのお陰で、ピサンテでは魔素が留まり続けると言う事がなくなって、魔獣も現れなくなったのよ。だから、エルトンからピサンテの話を聞いて驚いたわ。どうしてピサンテに魔獣が現れたのか」
当たり前だけど、魔獣は魔素や淀みを好む生き物だ。特に淀みが濃いければ濃い程好む。でも、お父さんの魔法陣のお陰でピサンテの魔素が定期的に吸収されていたなら、魔獣がピサンテに現れる理由がない。でも、あの夜、確かに魔獣が走り回っていた。
「誰かが意図的に魔獣を呼び寄せたなら、話は変わって来るけどね」
「「「…………」」」
あれが意図的なものだとしたら、それで利を得たのはあの2人だけだ。でも、一体どうやって魔獣を呼び寄せたのか?
「それと、少し気になってたんだけど、ティニー、私の目を見てくれる?」
「目を……ですか?」
何だろう?と思いながらアデールさんの目を見る。アデールさんの瞳はオパールグリーンの様な綺麗な色をしている。あまりにも綺麗な色で吸い込まれそうになる。
「やっぱり…貴女、名前を奪われたのね」
「え!?どうして───」
「貴女の名前を奪った者の魔力が貴女の瞳に残っているのよ」
「瞳を介した魔法を使った──と言う事か!?」
「そのようね………」
大公様とエルトン様は驚き、アデールさんは眉間に皺を寄せて怒っているように見える。
瞳を介して掛ける魔法は高度な魔法で、かつ、強力なモノなんだそうだ。そうして掛けた魔法が“名前を奪う”魔法。『別に名前ぐらい……』では済まない。名前を奪われると、その名前の者の記憶が失われてしまったり、その者の認識があやふやになったりもするんだそうだ。
「この魔法は、その人の人生を消すのと同じなの。だから、この魔法は禁忌扱いとされているわ。“闇魔法”の一種よ」
“闇魔法”
文字からして危なげな魔法だけど、闇魔法の全てが悪いモノではない。ただ、精神的に影響する魔法が多いから、扱いには十分に気を付けなければいけない。禁忌とされる魔法は、勿論使用禁止とされていて、使用すれば罰せられる。
ーカイリーさんは……魔力持ちだった?ー
ジェイミーが魔力持ちなのは知っていたけど、カイリーさんも魔力持ちだとは知らなかった。
「闇魔法を扱える者は滅多に居ないと思うわ」
そもそも扱いが難しい上に、禁止とされる魔法が多いから、たとえ扱えるようになったとしても『自分は闇魔法が使える!』と口外する者は居ないだろう。何かあった時、自分が疑われてしまうから。
「貴女に手を出すとは……私も黙ってはいられないわ」
「ん?」
ー何故、アデールさんが黙っていらいないの?ー
「ブライアンは私にとっては“命の恩人”であり、“親友”でもあるの。そのブライアンの娘に手を出したのよ……赦せる訳がないでしょう」
美女の怒りの笑顔は圧があって、綺麗なのに恐ろしい。体がピリピリとした刺激を受けている。
「アデールさん、少し落ち着いた方が良い」
「あら……ごめんなさい」
私の隣に座っている大公様が、私の背中をポンポンと優しく叩きながらアデールさんに声を掛けた。私が怖がっている事に気付いて、助けてくれたんだろう。
ー本当に、大公様はいつも優しいー
「兎に角……この魔法も殆ど解けかけているけど、このまま放っておくのは良くないから、何とかしないとね」
瞳に直接掛けられた魔法を解くには時間が掛かるそうで、アデールさんが少しずつ解呪してくれる事になった。
「これは一種の呪いでもあるから、綺麗に解呪すれば、呪の元に送り返す事ができるわ」
ーやっぱり、美女の怒りの笑顔は恐ろしいー
お父さんは、薬師でもあったのか?
「このノートに書かれている薬草に関しての事については、ブライアンが独自で勉強していたものに、エルフの智識をプラスしたモノよ」
「あぁ、だからオリビアが知らないモノがあったのか」
エルフは魔法だけでなく、薬草に関しての知識もレベルも人間よりも高いんだそうだ。
「魔力暴走を抑えるポーションを作ろうとしてたわ。それは結局できなかったけど」
魔力暴走は、魔力が体の中を上手く流れずに溜まり過ぎて、器となる体を壊してしまい、更には魔力が溢れて周りにも被害が出る事がある。魔力暴走が起こった時の対処方は、溜まった魔力を吸収して放出するか、魔力を一時的に止めて中和するか。簡単に説明できるけど、対処する側に技量がなければ難しい。
「貴女の場合、ブライアンの魔法陣に魔素を取り組む魔法が、予想外にも貴女の溜まった魔力も取り込んだんじゃないかしら?だから、魔力暴走を無事に乗り越えれた。まぁ、可能性の1つだけど」
ーもしそうなら、本当に運が良かったとしか言いようがないよねー




