36 お父さん②
アデールさんとお父さんの関係は?
「私、それなりに美人でしょう?」
「はい!」
「「………」」
それなりに─ではなく、誰がどう見てもどこから見ても美人だ。
「ちょっと隙をつかれて悪い人間に捕まってしまったところを、ブライアンに助けてもらったの。その時にはもう結婚していて、貴女が生まれた後だったわ」
その出会いの時に、アデールさんがお父さんにエルフの血があり、無属性の魔力を持っていると言う事を伝えると、お父さんはかなりの衝撃を受けていたそうだ。
『自分には両親が居ないし平民だから、魔力無しだと思っていた』
確かに、5歳ぐらいの時に高熱を出して死にかけた記憶があったようで、それが魔力暴走で、奇跡的に魔力暴走を乗り切っていた。
ー私と同じだー
「それ以降は特に問題はなかったそうだけど、これからどうなるか分からないし、私も知ってしまった以上放っておく事もできなくて……だから、助けてもらったお礼に、私がブライアンに魔力の扱い方の指導をする事にしたの。もともと、無属性はエルフ特有の属性だったのよ」
エルフ特有の属性だったけど、人間とのハーフが生まれる事で、時間を経て人間にも無属性の魔力持ちが生まれるようになった。だから、純血のエルフにとっては慣れ親しんだ魔力で、アデールさんはお父さんと一緒に居るのは心地好かったそうだ。
「勿論、“親愛”じゃなくて“友愛”の気持ちよ」
お父さんには才能があったらしく、指導を始めると直ぐに魔力の扱いを覚えて難なく魔力を扱えるようになったそうだ。おまけに、魔法陣を描くのも速くて綺麗で、あっと言う間に色んな種類の魔法陣を描けるようになったそうだ。
「ブライアンは天才だったわ……純血のエルフが嫉妬しそうになる程に…」
なんて言いながらも、アデールさんは嬉しそうに笑っている。本当に、2人は仲が良かったんだろう。
何故、お母さんには会った事がなかったのか?
「人間の世界では、無属性の魔力持ちが色んな意味で狙われやすいからよ」
無属性の魔力は、ある意味無限大だ。本人の魔力の強さや魔法陣などの媒体によっては無敵にもなる。そのせいで、過去には無属性の人の取り合いで争いが起こったり、人身売買や人体実験をされた人も居たそうだ。
「だから、ブライアンは自分が無属性どころか、魔力持ちだと言う事を誰にも言わなかったわ。貴女と嫁を危険に晒さない為にね。だから、私から魔法の指導を受けている事も隠す必要があったから、私はブライアンの嫁には一度も会った事が無いの」
何とも恐ろしい事実。私の無属性を申告しなかったルチア様や大公様には感謝しかない。
「ただ、可能性としては低いけど、魔力無しで生まれたとしてもブライアンの娘である貴女も、無属性を発現する可能性があるから、ブライアンは色々と対策をする事にしたのよ」
どうやら、その対策の1つが、家に張られた結界だったそうだ。
「もうね…ブライアンの“娘を護りたい”と言う一心が凄いものでね……次々と私にも手に負えないような仕組みの魔法陣を創り上げてね………ブライアンは純血のエルフ以上のエルフだったわ………」
あの結界は、自分が居ない時に魔獣などから私とお母さんを護る為のものだった。
「魔獣除けにもなるセイヨウイラクサの生っている土に、保存魔法を組み込んだりもしてたわね。嫁が毎日世話をしなくても枯れないようにって……過保護だって言ったら笑ってたわ」
それと、家の中には空気が清浄されるような魔法を組み込んでいるらしく、そのお陰で私の部屋となっていた屋根裏部屋もホコリまみれになる事がなく、私も体調を崩す事なく過ごせていたそうだ。
「お父さんって…凄い人だったんだ……」
ーお父さんのお陰で、私は今も生きているんだー
「お母さんは、この事を知らないんですね」
「多分知らないと思うわ。ブライアンも早くに亡くなってしまったから……」
知らなかったとは言え、そんなお父さんの思いが詰まった家を、お母さんは簡単に捨てたのだ。
「お母さんは魔力持ちなのに、この家に結界が張られていた事に気付かなかったんですか?」
「それは、ブライアンの扱う魔力が無属性だからよ。エルフや同じ無属性なら感じるモノがあるけど、人間の普通の魔力持ちでは分からないと思うわ」
ー正直、私も無属性だけど、イマイチ分からないけど?ー
「ブライアンの凄さは分かったし、結界が張られていた理由も分かって納得できたけど、それらの魔法を掛けたのは今から10年も前なのに、どうしてその魔法がまだ維持できているんだ?」
「この村に、ここ数年、魔獣は現れなかったでしょう?」
大公様の質問に、アデールさんがニタッと笑う。アデールさんの言う通り、私の記憶のある限り、ピサンテに魔獣が現れた事はない。
「それも、ある意味ブライアンのせい───お陰なのよ」
お父さんは、一体何者ですか?




