31 調査開始
カイリーさんの疑惑については、大公様とエルトン様が秘密裏に調べる事になった。
私は今迄通り薬草と魔法の勉強をして、いよいよ今日からはピサンテの家の結界の調査のお手伝いが始まる。
「大公様、おはようございます。今日から宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく頼むよ。エルトンも、宜しく頼みますね」
「ようやく思う存分調べる事ができるかと思うと、感謝の気持ちしかない!あ、予めお願いしていたけど、何処かのタイミングでティニーの魔法の練習をさせてもらうからね」
「それは大丈夫です」
結界を調査しつつ、時間が空いた時に魔法の指導もしてくれる事になった。色々書き溜めた魔法陣を試す予定もある。
「それじゃあ、早速結界の魔法陣を発現させよう」
基本、設置型の固定の魔法陣は発動していない時は見えなくなり、魔力を流すと発現して魔法陣が展開する。ただ、特別な結界の魔法陣になると、発動していても魔法陣は見えない。この結界は、そんな特別な魔法陣だった。
ー本当に、お父さんは何者だったんだろう?ー
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結界の調査は問題無く進んでいるけど、やっぱり普通の結界とは違うようで、魔法陣の組み方も独特で解読するのが大変なようだ。にも関わらず、大公様もエルトン様も毎日楽しそうな顔をして魔法陣と向き合っている。2人の“魔法馬鹿”は本物のようだ。
私は調査の記録をとり、空いている時は2人の邪魔にならないように魔法陣を描く練習をしたり薬草の勉強をして、時間を見計らってご飯を作るようにもなった。最初はデミトリア邸で作られた料理に保存魔法を掛けて持ち運んで食べていたけど、一度私が軽食を作って2人に出すと『美味しい!』と褒めてもらい、それから頼まれたら作るようになり、今では私がここに来る時は料理も担当する事になった。舌が肥えてるだろう大公様に、平民の私が作った料理なんて口に合わないよね?と思っていたけど、何を作っても2人とも『美味しい』と言ってくれるから、作り甲斐があって嬉しいし楽しくもある。何と言っても、材料費を気にせず色んな料理を作る事ができるのが贅沢だ!
庭にたくさん生っているセイヨウイラクサ。調べてみると、やっぱり保存魔法の様なものが掛けられていた──のは、セイヨウイラクサにではなく、セイヨウイラクサが生っている“土”にだった。そのお陰で、セイヨウイラクサが枯れたりしなかったようだ。ただ、気になるのは、どうしてその魔法の効力が続いているのか?魔法の効力は、掛けた本人の魔力の大きさや量によって変わって来る。魔力が大きいからと言っても、何年も続くと言う事は無い──筈なのに。私がここに住んでいる間、お母さんが魔力を込めていた記憶は無いし、私もした事はない。勿論、カイリーさんも。
「考えても分からない……私なんかが分かる訳がない」
気持ちを切り替える為に、私は家の中の整理をする事にした。
「やっぱり無いか……」
整理をしようとやって来たのは、カイリーさんが使っていた部屋。本棚を見てみると、カイリーさんの日記だけが無くなっていた。読んだところで誰が書いた日記なのか分からないようになっていた日記。多分、この家を出る時に持って行ったか、処分したか。アクセサリーや服も残っていない。残っているのは本だけ。その本の殆どが恋愛小説で、マナー本や領地運営の指南書もあるけど、それらは私に読ませる為に買った物だった。
「ん?料理本?」
料理に関しては、お母さんよりカイリーさんの方が上手で手際も良かった。私が10歳になると、カイリーさんは殆ど料理をしなくなったけど。その料理本を手に取ってページを捲ると、簡単にできるおかずとお菓子のレシピが挿し絵付きでたくさん載っていた。
「材料はあるから、これを作ってみようかな」
挿し絵があるお陰で、出来上がりの状態が分かって、初めてでも作りやすい。ペラペラと捲っていくと、真ん中あたりのページに“B”と書かれた1枚の紙が挟まっていた。メモ用紙かな?と思いながら手に取って裏返すと、色鉛筆で男性と女性の2人が描かれていた。
男性は銀髪で水色の瞳で、女性は金髪でピンク色の瞳──お母さんだ。それじゃあ、この男性は──
「お父さん?」
きっとお父さんだ。その瞳の水色が結婚指輪の色と同じで、お母さんを見る目が優しく描かれている。お母さんをよく見るとお腹が大きく描かれている。
「私がお腹に?」
“B”──お父さんの名前は……ブライアン。お父さんが描いた物かもしれない。
「これがお父さん………」
記憶にすら無いお父さん。私を護ってくれたお父さん。
「ようやく……会えた………」




