28 デミトリアでの寒期
今年の寒期は色んな初めての体験をした。
「うさぎ?」
「ティニーは、雪兎とか雪だるまを作った事はないの?」
「だるま??」
寒期が始まってすぐ雪が降り始め、3日もすれば辺り一面銀世界となった。そうなれば、洗濯物をするのが1番大変で、冷たい水では汚れが落ちにくいし手は切れまくって痛くて、料理をしようものなら塩が沁みて……寒期に良い思い出は何1つ無い。
それが、今私の目の前には、雪で作られた可愛い兎が居る。目は南天で耳は──
「凍ったバナナの皮!?」
右耳はピンッと立っているけど、左耳は半分の所で折れている。
「ルチア様にお願いして凍らせてもらったの。可愛いでしょう?」
と、ニッコリ笑っているのはマリッサ様。ログナンテ公爵のご令嬢で、ロイド様の婚約者だ。とても綺麗な黒色の髪と瞳で、キリッとした釣り目で少し冷たい印象の女性だけど、実際はかなりの天然の可愛らしい女の子だ。ただ、辺境伯家の嫡男と婚約するだけあって、剣を持てば男顔負けの実力を持っているそうだ。
そんなマリッサ様と初めて会ったのは、今回の寒期が始まって直ぐだった。なんでも、毎年寒期の間はデミトリア邸で過ごしているんだそうだ。
そのマリッサ様は、初めて会った時も平民の私を見下す事もなく『可愛い妹ができたみたいで嬉しいわ』と、笑顔で受け入れてくれた。そして、今は雪兎を作ってくれた。
珍しい氷属性のルチア様の魔力で、バナナの皮を凍らせて耳に……
ーなんて贅沢な雪兎なんだろうー
「ティニー、俺とマリッサと一緒に雪だるまを作ろう!」
「はい!」
未だに雪はチラチラ降っているけど、モコモコの服を着せてもらっているお陰で顔以外は温かい。それから3人で雪だるまを作った後、雪玉を投げ合うゲームが始まり、気が付けば辺境の騎士の人達も加わって領地合戦のような戦いになり、最後は服がビチョビチョになった姿の私を見たマーロンさんに慌てて担がれて邸に連れ戻されて、ゲームが終了となった。
「ティニーが風邪をひいたらどうするの!?」
「「ごめんなさい」」
「え?えっと……あの………」
あれから問答無用でお風呂に入れられて、入浴後にホットココアが用意されていた。ホットココアは私の大好きな飲み物だ。それを飲んでいると、ルチア様がやって来て、何故かロイド様とマリッサ様が注意されてしまった。
「ロイドとマリッサは寒さに免疫があるし、これぐらいでは寝込む事もないけど、ティニーは慣れていないから、大丈夫だと思っても後から体調を崩してしまったりするのよ。北部の人間なら知ってるでしょう?」
「「はい……」」
ーなるほど。ルチア様は私の事を心配してくれているのかー
「あの…ルチア様、私はロイド様達程の強い体じゃないですけど、私も北部の人間と言えば人間なので大丈夫です。それに……あの……楽しかったので……」
「……なら良いわ。それでも、これからは気を付けてね」
「はい」
ルチア様がポンポンと私の頭を撫でてくれる。
本当に、こんなに楽しい寒期は初めてだ。
そんな楽しいことを体験しつつ、オリビアさんのお手伝いをして、週に3日はエルトン様から指導を受けつつ魔法陣の勉強も続けた。薬草についても魔法陣についても学ぶ事が多くて大変だけど、知る事が増える事が楽しい。
ーお父さんも、こんな気持ちだったのかな?ー
デミトリアでの寒期は穏やかな日々を過ごす事ができた。心が穏やかになると、魔力も自然と身体に馴染んでいき、魔力もそれなりに扱う事もできるようになった。魔法陣も色々手を加えたモノも創ってみた。
そして、雪が溶けかけると直ぐにピサンテの家に向かい、家の中の掃除を始めた。相変わらず、結界の効力は維持されているようで、一緒に来てくれているエルトン様は感動している。
「本当に、この結界は凄いね。ティニーのお父さんは魔導師だったんじゃないかなぁ?会ってみたかったな」
「私も、記憶に無い事が残念です」
「あ、申し訳無い」
「謝らないで下さい。辛い訳じゃないので!これから知っていけると思うと、素直に楽しみだなって思ってるんです」
「ティニーは本当に良い子だね。もう少しグレても良いんだけどね?さあ、掃除の続きをしようか」
「はい」
それから2、3日置きにピサンテの家の掃除と調査の為の準備を少しずつ進めていき、雪が溶けた後は庭の手入れを始めた。不思議な事に、セイヨウイラクサとゼラニウムだけは何があっても枯れる事が無い。
「結界のお陰もあるんだろうけど、保存魔法みたいなものも掛けられているのかもしれないね。本当に、これからの調査が楽しみで仕方無いね!!本当に、長生きして良かった」
自他共に認める“魔法馬鹿”のエルトン様が、嬉しそうに笑った。
ーエルトン様って、一体何歳なんだろう?ー




