27 王太女ロクサーヌ
*ジェラール視点*
「だから、アンタは王太子になれなかったのよ。馬鹿なの?」
「ロクサーヌ、それ酷くない?」
「“お姉様”とお呼び!この馬鹿!酷いのはアンタの頭よ!」
目の前で口合戦を繰り広げているのは、王太女ロクサーヌと第一王子アラールだ。
兄上に会いに、アラールと一緒に王城にやって来ると、そこには兄上と共にロクサーヌも待っていた。2人は双子で18歳。今年ようやく成人を迎えたところで、ロクサーヌは王太女として積極的に公務に携わるようになった。アラールとは容姿は似ているが、アラールとは違って慎重でありながら豪快なところもあり、視野も広い。自分の意見を持ちつつも他人の声にも耳を傾ける。賢王と呼ばれる兄上と同じ立派な国王になれるだろう。
そのロクサーヌが怒っているのは、アラールの失言についてだ。話を聞いて早々、兄上よりも先にロクサーヌが口を開いた。
「お父様から再三、口外しないようにと言われたでしょう!?その理由もしっかり聞かされたでしょう!?」
「それはそうだけど、でも!知られたのはナディーヌだけだったし、ナディーヌは言いふらすような子じゃないだろう!?」
「その頭の中の花畑の花を摘み取ってやりたいわ!」
「花畑!?」
「ロクサーヌ、落ち着きなさい」
「お父様!!分かりました……」
兄上がロクサーヌに向ける視線は柔らかいが、次にアラールに向ける視線は冷たいものになるのは仕方無い。アラールの自業自得だ。
「アラール、ピサンテの惨事は何も分かってはいないんだ。小さいとは言え村一つが壊滅した。そこに唯一の生存者が居るとなると、その子はどうなると思う?色んな意味で狙われたりすると言っただろう?ゴシップだけではなく、命すら危険に曝されるかもしれないと。その意味が分からなかったのか?」
「す……すみませんでした!」
「お父様に謝っても意味ないわよ!アンタ、その子を見た時にロイドに悪意のある言葉を口にしたでしょう?あのロイドがキレて、私に珍しく手紙を飛ばして来たわよ」
「ゔ────っ…俺はただ、あの子もナディーヌを苛めていた村の子の1人かと思ったら、嫌味の1つや2つ言いたくなって……」
「それが王族のする事!?馬鹿じゃない!?いえ、正真正銘の馬鹿よね!?」
ー相変わらず、ロクサーヌにはスカッとさせられるなー
「でもね、ハッキリ言わせてもらうけど、アラールはナディーヌの何を知って何を信じているの?私だって、あの子が言いふらすような子ではないと信じたいけど、あの子もまたピサンテ出身で、少し気になるところもあると報告があったでしょう?」
「それは……」
“ナディーヌにも記憶が曖昧なところ有り”
と言う報告だろう。母娘で記憶が微妙にズレているところがあった。ただ、それは公女の記憶喪失と、ナディーヌの幼さ故のズレだと判断された。でも、ロクサーヌはそこが気になっているんだろう。
「まぁ、実の母親が認めた以上、ナディーヌが本当の娘なんだろうけどね。でもね、アラール、貴方は一応王族の一員で人の上に立つ人間なんだから、他人を疑い、自分の目でしっかり見て判断する事を学んだ方が良いわよ」
ーこの子は本当に18歳か?ー
兎に角、この国の次世代も安泰だと言う事は分かる。
「恋愛感情だけで動く馬鹿にだけはならないで。そうなった時は……双子の弟だからって甘くする事はないから」
「分かった!分かりました!姉上!!」
「アラール、ロクサーヌの言う通りだ。お前はもっと王子としての自覚を持つように。今回の失言に関しては国王からパルティアーズに手紙を飛ばす事にする。お前は今日から1ヶ月間の城外への外出禁止と、騎士団の夜間訓練の参加を命じる」
「騎士団の夜間訓練ですか!?」
“騎士団の夜間訓練”
それは、騎士団の訓練の中でも過酷な訓練の1つだ。暗闇で夜目の利かない中で行われる訓練は、普段から騎士団の訓練に慣れていても体力的にも精神的にも負荷が大きく、大怪我をする事もある。
「王子だからとて、危険だから参加してはならないと言う決まりはないからな。寧ろ、その危険を体験する事の方が大事なんだ」
勿論、兄上も俺も何度も参加している。
「丁度良いんじゃない?その訓練が終わる頃には、花畑の花も枯れてるわ」
「花畑じゃないから…分かりました。頑張ります」
そう言うと、アラールはロクサーヌに引き摺られるようにして部屋から出て行った。
「それで?あの娘は本当に本物なのか?」
「公女が『そうだ』と言っているから、本物なんでしょうね」
「そうか…………」
兄上もまた、これ以上は何も言うつもりはないんだろう。
「あの家の結界の調査ですが、ティニーが手伝ってくれる事になったので、その報告をしに来ました」
「そうか。でも、その子は大丈夫なのか?」
「はい。本人からの希望だから大丈夫そうですが……気にはかけていくつもりです」
「予定通り寒期が明けてからだったな?調査に必要な物があればいつでも言ってくれ。宜しく頼むよ」
「承知しました」




