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奪われたものは要りません  作者: みん


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26 失言

*ジェラール=グリンデルバルド大公視点*




「先日は突然の訪問で失礼致しました」

「公女の気持ちも分からなくはないが、今後は気を付けるように。それで、公爵からは小言でも言われたか?」

「小言を言われる前にナディーヌが庇ってくれたので、何も言われずに済みました。父は孫のナディーヌが可愛くて仕方が無いようです」

「そのようだな………」


俺が居るのは、ティニーの“お母さん”の家であるパルティアーズ公爵邸の応接室。机を挟んだ向かい側に“お母さん”であるアリシア=パルティアーズ公女が座っている。


ーいや……もう“お母さん”ではなかったなー


「ピサンテの家をゆっくり見る時間はなかったようだけど、持って帰りたかった物はなかったのか?もしあるなら言ってくれれば良いから」

「ありがとうございます。私の結婚指輪を探してみたんですけど、何処にも無くて……もし、指輪を見付けたら持って来ていただけませんか?水色の宝石が付いた指輪です」

「分かった。もし見付けたら連絡する」

「お願いします」


コンコン──


「お母様、失礼しても良いでしょうか?」

「良いわよ」

「失礼します」


部屋に入って来たのは娘のナディーヌだ。


「グリンデルバルド大公様、先日の視察はお疲れ様でした」


ピンク色の髪と瞳で可愛らしい女の子だ。


「ありがとう」


ナディーヌはそのまま公女の横に座った。


「ところで、私に渡す物があるとお聞きしていたのですが?」

「ああ、そうだった。ピサンテの家を調査している時に見付けたそうで、これを公女に渡して欲しいとデミトリア辺境伯に頼まれたんだ」

「これは……」

「?」


“お母さん”のレシピのノートを差し出すと、公女は嬉しそうな顔をして受け取ったのに対し、ナディーヌはそれが何か分かっていない顔をしている。


「…………」


それが何を意味するのか──今ここでそれが分かるのは俺だけだろう。


「ありがとうございます。忘れていましたが、これは私とナディーヌの思い出が詰まったノートです。でも……まだ作れるかしら?ナディーヌ、また時間がある時にでも一緒に作ってみる?」

「え?何を───」

「ああ、でも、お父様はきっと嫌がるわね。『公爵令嬢が厨房に入るとは!』って……少し残念だけど、料理長に頼んで作ってもらう方が良いわね」

「そ…そうよ、お母さん!その方がお祖父様に注意される事はないわ!」




『料理は好きで、もうこのノートを見なくても作れますし、お母さんよりも上手なんですよ』



おそらく、このナディーヌは料理をした事もないんだろう。このノートに何が書かれているのかさえ分かっていないのだから。ティニーの話を信じていなかった訳ではないが、これでハッキリしたのは確かだ。まだ不可解な事はあるが、このピンク色の髪と瞳をした公女に似た娘のナディーヌが、本物ではないと言う事が。それを、公女や公爵に伝えるつもりはない。


コンコン


「グリンデルバルド様、アリシア様、お話中申し訳ございませんが来客がありまして……」

「来客?今日はグリンデルバルド様以外の方との約束はしていないわよ?」

「それが──」

「叔父上、アリシア様急な訪問で申し訳無い」

「「アラール殿下!?」」


急な訪問者とは、甥でもある第一王子アラール。ナディーヌと仲が良く、月に何度かはパルティアーズ公爵邸に遊びに行くとは聞いていた。今日も、ナディーヌに会いに来たんだろう。


「今日は、前にナディーヌが読みたいと言う本を見付けたから持って来たんだ」

「本当ですか?ありがとうございます」

「いや…」


嬉しそうに微笑むナディーヌを見て、顔を赤くするアラール。どうやら、アラールはナディーヌに好意を寄せているようだ。


ーどうしたものか?ー


真実さえ知らなければ、ナディーヌは戸籍上も公爵の孫で王子と結婚する事は簡単にできるが、叔父としては微妙なところだ。


「私の用は済んだから、これで失礼する」

「叔父上、もうお帰りですか?」

「これから、ピサンテの調査について兄上と話す事があるんだ」

「ピサンテですか?あの()()()()の?」

「え?」

「…………」


“生き残り”に反応したのはナディーヌだ。否、公女も僅かに反応はしたが表情が崩れる事はなかった。


「アラール、国王陛下から言われた事を忘れてしまったのか?」

「──あっ!」


ようやく自分の失言に気が付く第一王子。この辺りが王太子になれなかった要因の一つだろう。慎重さが欠けているのだ。


ピサンテの惨事は誰もが知る事件だが、“生き残りが居る”とは公表されていない。公表する予定も無い。故に、国王陛下はこの事実を知る者達に箝口令を敷いたのだ。


「生き残りが……居た……んですか?」


サァ─と一気に顔色を悪くして、震えるような声でナディーヌが訊いている。


「居るようだけど、私達には関係の無い人だったわ」

「お母さんはその人に会ったの?」

「会ったけど……私の()()()()()だったわ」


公女がそう言うと、ナディーヌはホッとしたように表情を緩めた。


ーこれは、やっぱり調べる必要がありそうだ…が、その前にー


「ナディーヌ嬢、この事はここだけの話としてもらう。他言無用だ。アラール、お前は今から私と一緒に国王陛下の元に行ってもらう」

「分かりました」


念の為にと、デミトリアにも手紙を飛ばした。




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